THE BOOKハンター!

~〈本の虫〉の痛快読書日誌~

「役者気取り」(三谷幸喜/朝日新聞社)

2008年03月29日 | Weblog
 ドラマ仕立てのCMで初主演、ちょび髭で市川崑監督作品に登場、女優さんと初スキャンダル…。
 人気脚本家・三谷幸喜が奇想天外な日々を綴る朝日新聞の連載エッセイ集も6冊目になりました。連載も8年目になるといいます。
 私は朝日新聞の連載をリアルタイムで愛読し、第1巻から買っていますが、やっぱり三谷幸喜のエッセイはユーモラスで面白いです! それは私の性格が彼と似ている点があるからでしょう。共感する場面が随所に見られます。

「いじめるな! ~弱い者いじめ社会ニッポン」(香山リカ・辛淑玉/角川oneテーマ21)

2008年03月22日 | Weblog
 日本に蔓延するいじめの構造。どうして弱い者いじめは繰り返されるのか?
 本書は、精神科医の香山リカさんと人材育成コンサルタントの辛淑玉さんが「いじめ」をテーマに対談し合ったことが収録されています。
 インターネットなどを通じて、さらに陰湿化していく日本の「いじめ」の実態を両者の体験談を豊富に交えながら、その真の原因を探っていくという面白い本でした。
 香山さんは「いじめ」をしたこともされたこともないそうですが、医師としての失敗経験を反省し、病因に潜む「いじめ」の本質という問題に正面から向き合っています。

北九州発!「青春の門 放浪篇」を観劇して

2008年03月22日 | Weblog
 作家・五木寛之のベストセラー小説『青春の門』(講談社刊)の第3部「放浪篇」が北九州芸術劇場プロデュースで舞台化され、19日から同劇場で公演が始まり、私は20日に感激しました。
 『青春の門』は1969年6月から「週刊現代」で連載が開始され、未だに完結していない大河小説。炭鉱の町として栄えていた筑豊を舞台に、主人公・伊吹信介が様々な出来事を体験しながら成長していく過程を描いています。現在、「筑豊篇」「自立篇」「放浪篇」「堕落篇」「望郷篇」「再起篇」「挑戦篇」まで刊行されており、計2000万部を超えています(私も以前、6巻まで文庫本で通読し、物語に引き込まれた)。来春からは待望の「続編」の連載が始まる予定です。
 「筑豊篇」と「自立篇」は、これまで映画化、TVドラマ化、コミック化など様々なメディアで作品化されていますが、北九州芸術劇場では今回、「青春の門」シリーズ全体を通して主人公の思想の核となる物語「放浪篇」を初の舞台化。様々な時代に生きる日本人を見つめ、高派な舞台で定評がある鐘下辰男氏が脚本・演出を担当し、地元・北九州でのオーディションで選ばれた若い俳優たちと文学座のベテラン実力派俳優・坂口芳貞が出演しています。
 時は1960年安保闘争を前にした頃。青年・伊吹信介は大学進学のため故郷筑豊から上京し、そこで出会った学生劇団「劇団白夜」の仲間たちと大きな志を持って北海道の港町・函館へ渡ります。
 「この旅のなかから何かを創り出し、そいつを持って東京へ帰ろうと考えている」「中央から地方へという形を、反対に地方から中央へと逆流させたい」
そんな彼らの情熱に対して「現実」は厳しい試練を突きつけてくる。
港湾労働者とそれを取り仕切る暴力団員。底辺に生きる人々と出会い、衝突と流血……。
 会場は100人ほどの観客でいっぱいとなる小劇場。開演30分前に入ると、いくつもの机やイスなどが置かれた舞台の至るところに数人の出演者が人形のようにすでに静止していて驚きました。私の座席は最前で舞台から1メートルあまりの場所。出演者の姿を目の前で見ることができました。
 青函連絡船から函館に降りた信介が故郷に残る幼馴染で恋人の「牧織江」に語りかけるところから劇は静かに始まります。
 力強いピアノ曲やサイレン、大きな破裂音などが何度も流れます(私には耳障りで、逆効果と思いました)。各場面の変わり目には大音量の歌曲が流れ、舞台の奥にある黒板にチョークで「食堂」「会議」などと場所や状況を書いて、その間に出演者が舞台上の机やイスの配置を変えていきます。
 主人公が暴力団員を前に突然全裸になったり、女子学生が下着姿(私の真ん前に置かれた椅子に座っていました)で登場したり、男や女同士の激しいとっくみ合い(流血シーンも多々あり)、団員らが大声で叫びながら労働賃金搾取の実態を訴えるビラを客席にバラ撒くなど、グロテスクで過激な演出が随所に見られました。俳優らの息づかいもモロに伝わってくる演劇でした。
 自らの若さで社会を変え、時代を作ろうとする若者たちの「地域から中央への反逆の精神」。彼らが叫ぶ「どん底から立ち上がろう!」という言葉が印象に残ります。

「空の穴」(イッセー尾形/文春文庫)

2008年03月22日 | Weblog
 先日読んだ「イッセー尾形の人生コーチング」とともに買ったのが、この本です。イッセーさんのひとり芝居の会場で買った本です。

◆三十センチの肩幅ごしに景色は変わる◆誠実なカラス◆僕の中の西と東◆美しき課外教育◆先生の恋人◆あの頃のコラージュ◆空洞のケヤキ◆骨奏曲◆ガラスのボックス叩く音
 本書には、囲われた日常の中で恋のできない男と女のおかしくて切ない風景をシュールに描いた9つの短編小説が収録されています。
 イッセー尾形の独創世界が花開く1冊です。


「あの頃、あの詩を」(鹿島茂/文春新書)

2008年03月15日 | Weblog
 本書は、団塊の世代が中学生だった昭和30~40年代の国語教科書に掲載された詩の中から、編者が厳選した名詩111編を収録したユニークな1冊です。私は団塊の世代ではなく、団塊ジュニア世代ですが、本書のタイトルと帯の文句に惹かれて、買ってみました。
 高村光太郎、北原白秋、室生犀星、ゲーテなど著名な詩人の作品もありますが、本書の特徴は今ではあまり名の知られていない詩人たちの作品もたくさん収録されています。収録作品はすべて、15年戦争を挟み、教科書編者らが共同で紡ぎ出した「明るくて希望に満ちた時代」という幻想によって選ばれたものでした。
 各編を声に出して読んでみると、詩に描かれた古き良き時代の風景を頭の中で空想しやすくなります。今ではあまり使われなくなった美しい日本語にも出合うことができます。
 当時を懐かしむ世代だけでなく、若者たちにも読んでほしい1冊です。

「30分で読める大学生のための マンガ蟹工船」 (小林多喜二 原作・藤生ゴオ/東銀座出版社)

2008年03月14日 | Weblog
  「あの『蟹工船』が読みやすいマンガになっているよ」と知人から勧められて読んだのが、この本です。白樺文学館の小林多喜二ライブラリーの企画で漫画家の藤生ゴオ氏が迫力あるタッチで「蟹工船」の世界を表現しています。 『蟹工船』は日本のプロレタリア文学を代表する作家・小林多喜二が1929年に発表した小説で、国際的にも評価されて各国語に翻訳されていますが、これまで私は一度も原作を読んだことがありませんでした。
 この小説は特定の主人公がおらず、蟹工船の中で酷使される貧しい労働者らが「群像」として描かれているのが特徴です。また、映画好きだった多喜二は作品の中にカットの積み重ねやモンタージュといった映画的な技法や、「過剰な比喩」など言葉のしかけをふんだんに取り入れ、シュールレアリズムのような効果を作り出していることも特筆すべき点です。多喜二は、国益のためという名目で人間以下の虫けらのように扱われていた猟師らの地獄のような船上生活の実態をリアルに表現するにあたり、視覚だけでなく触覚、温度・運動感覚までも動員し、五感全てに働きかけるような形で比喩を多用しています。
 多喜二は特高に投獄され、拷問のため29歳という若さで亡くなったのですが、この作品は今でも日本の戦前の下級層たちの悲惨な歴史を私たちに伝えてくれます。 これを機に、いつか原作も読みたいと思います。
※「30分で読める」とタイトルに書かれていますが、精読派の私は時間内では読めませんでした。巻末の「解説」も併読すれば、その3倍はかかります! 

「イッセー尾形の人生コーチング」(朝山実ほか/日経BP社)

2008年03月14日 | Weblog
 ズブの素人をわずか4日間で舞台にあげるという、「ひとり芝居」と知られるイッセー尾形と演出家・森田雄三が取り組んでいるワークショップの中身をドキュメンタリー風にまとめた人生の啓発書。人生の様々なハードルを乗り越えるヒントが詰まった1冊で、ためになり、面白くもありました。
 このワークショップで教えられるキーワードは「自分を捨てる」ことと、「自分探し」とは正反対の「他人探し」。
 世の常識を180度覆した森田氏のことばの1つ1つには驚かされ、今までの自分の生き方や考え方がいかに型にはまっていたものであるかに気づかされます。
 イッセーさんの演劇に対しては賛否両論の意見があるようですが、この本を読めば、彼がやっていることがいかにスゴイことかが分かります!

「ありのままを生きる」(東郷勝明/フォレストブック)

2008年03月14日 | Weblog
 NHKラジオ「英語会話」の人気講師で知られ、英語教育の第一人者として研究と教育一筋に歩んできた著者が日常生活の様々な悩みに「聖書的視点」で光をあてるエッセイ集です。
 モーレツ仕事人間だった著者は50代で人生の危機に遭遇し、ある奇跡を体験してから価値観を転換し、クリスチャンになりました。
 娘の不登校を通してキリスト教信仰に導かれた経緯などを赤裸々に綴ることで、キリスト教を知らない人たちにも聖書の中身(キリストの教えなど)を現代の日常生活に照らし合わせながら解説し、「ありのままに生きる」ことの大切さを力説しています。

「人間の関係」(五木寛之/ポプラ社)

2008年03月05日 | Weblog
 話題のベストセラー。本書は、人気作家の五木寛之氏が「生きるヒント」シリーズから15年経った今、たどり着いた人生観について、さまざまなエピソードをちりばめながら語りかけるように分かりやすく説いたエッセイ集です。
 殺伐とした現代、私たちは信頼できるものを失いつつあります。国内で今、格差社会が進んでいますが、「格差」の発生を肯定する人たちが目立っている最近の世の中を五木さんは危惧しています。
 そんな中、五木氏は頼れるものを探し、刻々と物事が変わる時代に変わらないものは何かと考えます。そして、その答えは「人間の関係」でした。
 国家も、人間も、人は「関係ない」では、生きられない。人間は「関係」がすべてである。家族も夫婦もまず、他人になることから出発する。他人同士から始まる「人間の関係」……。本書には、さまざまな苦境の中でも人生を少しでも前向きに楽しく生き抜くためのヒントが詰め込まれています。