THE BOOKハンター!

~〈本の虫〉の痛快読書日誌~

「ああ玉砕 水木しげる戦記撰集」(水木しげる/宙出版)

2007年08月31日 | Weblog
 昭和19年(1944)に召集されて太平洋戦争に出征し、ラバウル戦線で爆撃を受け左腕を失った漫画家・水木しげる戦記“玉砕”シリーズの集大成となる本書は、水木自らの体験とその後の取材を元に、戦争を知らない人たちのために、戦争の実態をリアルに描いた410ページに及ぶ大作です。
  収録作「セントジョージ岬~総員玉砕せよ~」は、今月12日にNHKで放送された終戦記念ドラマ「鬼太郎が見た玉砕"水木しげるが見た戦争"」の原作で、私はドラマを見てすぐに本書を購入しようといくつかの書店を回りましたが、どこもすでに売り切れとなっており、インターネットで注文。きょう、ようやく入手しました。
 戦時下に生きる日本兵や指揮官らの姿が生々しく描かれており、目を覆いたくなる場面も多々ありますが、物語の世界にぐいぐいと引き込まれ、2時間あまりで読んでしまいました。
 日本が再び「戦争ができる国」になろうとしていることを危惧する水木さん。本書には、水木さんの平和を守ろうとする願いが詰め込まれています。
 当時の戦況を伝える写真や水木さんへのロングインタビューも収録されており、日本がおこなった戦争についての理解を深めることもできます。

「ラストメッセージ ガラスのうさぎとともに生まれて」(高木敏子/メディアパル)

2007年08月28日 | Weblog
  「『戦争』と『平和』について、もう一度考えていただきたく、命ある限り一所懸命書き上げました」
少女時代に体験した東京大空襲を記録した「ガラスのうさぎ」から30年。童話作家の高木敏子さん(75)が今月、「ラストメッセージ」(メディアパル)を刊行しました。戦争を知らない世代へ向けて、戦争の恐ろしさや平和の大切さ、平和憲法を守り抜く必要性などを、分かりやすい文章で綴っています。
 高木さんは、終戦後に施行された日本国憲法の第9条の「不戦の誓い」について、「輝く太陽のように眩しかった」と回想しています。
 「戦争を起こさせないという心の輪を 強く固く結んで、被爆国日本、戦災で大地を焼かれた日本から、世界中に呼びかけていきましょう」
 平和憲法が改憲されようとしている今、私たちは彼女のメッセージに耳を傾け、戦争と平和について真剣に考えるべきだと思いました。

「笑犬樓の逆襲」(筒井康隆/新潮文庫)

2007年08月16日 | Weblog
  彼の講演を聞いた後、氏の著書が読みたくなった私は、書店に立ち寄って、彼の最新刊文庫を買い求めて、さっそく読み始めました。断筆解除直後(1998.8~)から今はなき雑誌「噂の真相」に連載を再開したエッセイ・コラム集と他誌に寄稿した短文などを1冊にしたもので、400ページ強の本です。
 本書は、断筆中のエピソードも多く紹介されていて、読み出したら面白くてやめられなくなりました。狂牛病の牛を哀れみ、ヒトゲノム解読を解読し、税務調査官の態度にあきれ、自民党の変貌を嘆き、酒鬼薔薇聖斗の出現に耳を欹て、歩行者喫煙取締りを糾弾し、小中学生や男の化粧を断固支持し、ホース片手に隣家の火事を消し、柳美里裁判に物申す……。「ならず者の傑物」筒井康隆が狂気の時代を迎え撃つ抱腹のブラックユーモアの数々。過激な内容が多くて、刺激的です!

「夕凪の街 桜の国」(こうの史代/双葉社)

2007年08月16日 | Weblog
 原爆が投下された広島を舞台に、ふたつの時代に生きるふたりの女性を通して生きる喜びを描く映画「夕凪の街 桜の国」(田中麗奈主演/佐々部清監督)が今、話題になっています。
 書店には、こうの史代の原作コミックと映画ノベライズ版の2冊が並べられていますが、私は原作を買って読みました。
 第9回手塚治虫賞新生賞と第8回文化庁メディア芸術祭大賞をダブル受賞した本書は、戦争の知らない若い世代が戦争について語り継ぐという新しいジャンルを確立した先駆的な作品といえます。
 100ページ強の本書は、戦後10年頃が舞台の「夕凪の町」と現代が舞台の「桜の国」の2編によって構成。コミックという限られた紙面制約のため、やや説明が足りず、分かりにくい所もありますが、緻密な取材と資料収集で、当時の市民の生活や街の風景描写がリアルに再現されています。

「ガラスのうさぎ 新版」(高木敏子/フォア文庫)

2007年08月11日 | Weblog
 広島・長崎の「原爆の日」、終戦記念日と続く今、各メディアでは戦争と平和を考えるさまざまな企画が行われています。
 そんな中、7日のNHKニュースの中でこの作品を書いた高木敏子さんを特集で取り上げているのを偶然に目にしました。そして、さっそく読んで見ることにしました。
 子供向けの童話と思っていたのですが、この作品は平和への祈りをこめて作者が少女時代の体験をつづった長編ノンフィクション(手記)で、戦時中の市民の生活、軍事色が濃くなる国内の様子、焼夷弾の恐怖などが克明に生々しく書かれていて驚きました。
 高木さんは戦後、全国で講演活動を続けてきましたが、高齢と病のために今年で活動に終止符を打ちました。そんな彼女の最新刊「ラスト・メッセージ」(講談社)は、戦争を知らない子どもと大人たちに向けて、平和へのメッセージがつづられているそうです。

「『戦争漫画』 傑作選」(手塚治虫/祥伝社新書)

2007年08月07日 | Weblog
新書界初の漫画アンソロジー集の第1弾。
本書は、戦後の漫画世界を切り開いてきた手塚治虫の生誕80年を記念して、彼が発表した「戦争漫画」の代表作6編を収録しています。
 少年時代に戦争を体験した手塚は、その体験を生かして若い読者に平和の尊さを伝えることが自分の使命であると話していたそうです。この本に収録されている漫画はいずれも日本の戦中・戦後直後(1編だけナチスをテーマにした作品)が鮮明に描き出されています。
 手塚作品の原点となった戦争体験とは何だったのか。戦後62年のこの夏、多くの人に読んでほしい1冊です。

筒井康隆氏の講演会へ行ってきました!(小倉)

2007年08月04日 | Weblog
 北九州市立松本清張記念館は3日午後、第9回松本清張研究奨励事業の奨励金贈呈式と開館9周年記念講演会を男女参画センター「ムーブ」で開催されました。
 松本清張研究奨励事業は松本ナヲ夫人の寄付金で創設されたもので、清張の作品や人物についての研究活動を推進し、歴史・社会や人間性の深層を探求する精神を継承していくことを目的としています。今回は応募が9点(個人7人・団体2組)あり、鹿児島県立短期大学名誉教授の網屋善行氏が法学者の立場から研究した「『象徴の設計』と『2・26事件』における『上官命令への絶対服従制度』に関する考察」が選ばれました。2時半からの奨励金贈呈式では、北橋健治市長と網屋氏による挨拶の後、選考委員長の平岡敏夫氏(筑波大学名誉教授)が審査講評を行いました。
 続いて3時からは、松本清張記念館の開館9周年を記念し、作家・俳優の筒井康隆氏が「小説とは何か』という演題で講演がありました。
 台風5号が九州を通過し北上する中、この日に小倉入りした筒井氏は、冒頭で「小倉の皆さま、(前日の)台風のお見舞い申し上げます」とねぎらい、尊敬する作家・松本清張の記念館から講演を依頼された喜びを語いました。
 筒井氏は、若い頃に自作が直木賞候補に何度もなった時に清張が審査委員だったこと、結局当選することなく、清張から「君の作品は、内容がごちゃごちゃしすぎで読みにくいよ」と助言され、「世の中がごちゃごちゃしていますから」と生意気に返答してしまったこと、また、文芸雑誌「小説宝石」が企画した対談の中で「清張さん」と連発していたが、誌上の活字には「松本先生」と直されていて、清張の威厳を知って深く反省させられたというエピソードなどを明かし、観客の笑いを誘っていました。
 筒井氏は最近、「ゲーム的リアリズムの誕生」(東浩紀/講談社現代新書)を読んで触発され、自分も講演のために「文学」についての原稿を書き始めたそうですが、時間がなくて20枚しか書けなかったと筒井氏。
 講演では、小説を10のリアリズムに分けて話を進めました。「自然主義」「社会主義」「私小説」までで原稿が尽きた後は、箇条書きにしたメモを元に、氏が独自に分類した「演劇」「映画」「メディア」「漫画」「資本主義」「アニメ」「ゲーム」リアリズムについて、腕時計を見ながら駆け足で解説していきました。
 筒井氏はその中で「ライトノベル」の価値の低さを語っていましたが、「近いうちに私もライトノベルを書くことをお約束しますので、待っていて下さい!」と結び、片手を挙げて壇上をあとにしました。
 大学の講義のような内容で、筒井氏自身の創作にまつわる話が聞きたかった私は少々残念でしたが、さすがのベテラン作家とあって、小説の歴史について分かりやすく、的確に時間内によくまとめていました。

筒井氏の講演会の帰りに近くの書店に立ち寄って、氏の最新刊「笑犬樓の逆襲」(新潮文庫)を買い求めました。1996年の断筆解除直後から雑誌に連載を再開したエッセイのコラム集で、断筆期間中の氏のことなどが多く紹介されていて面白いです(読み終えたら改めて紹介します)。