THE BOOKハンター!

~〈本の虫〉の痛快読書日誌~

「絵で読む日本語」〈上・散文編〉(鴨川昇編/旺文社)

2007年05月31日 | Weblog
 インターネットで他の本を調べていて、偶然に見つけたこの本は、学校法人桐蔭学園の校長を設立時から務め、日本の教育革命の実践者として知られる編者が、「現代の国語教科書の編集者には任せられない!」と国内外の「名作」と呼ばれる作品の名場面を抜粋し、絵画・彫刻・写真などの視覚・映像芸術の数々と合体させて相乗効果を味わおうとする目的で編纂されています。
 夢十夜・夏目漱石―「冒険者の船」パウル・クレー、硝子戸の中・夏目漱石―「三遊亭円朝像」鏑木清方、神神の微笑・芥川龍之介―「切支丹と仏徒」前田青邨、夜明け前・島崎藤村―「微雨(長野県木曽郡南木曽町妻篭)」向井潤吉、雪国・川端康成―「歌ってゆく鳥追い新潟桑取谷」浜谷浩、夕鶴・木下順二―「鶴の舞」石田武……など、本書に収められた作品は有名なものばかりです。
 ただ、編者が80歳を超える高齢であるためか、収録作品はずいぶんと古い物が目立ち、その傾向もやや右寄りに偏っている感じを受けました。
 古典作品も多く、現代作家の名文が味わいたかった私は、少々残念でした…。

「朝日新聞のトンデモ読書投稿」(朝南政昭/普遊舎ムック)

2007年05月31日 | Weblog
  書店でふと目に付いて買った本書は、「笑う新聞」「もっと笑う新聞」(新保信長/メディアファクトリー)のような「単にユニークな新聞の読者投稿を紹介した本」だと思っていたが、読んでみると、反「朝日」のフリーライターによって書かれたものでした。Webサイト「主に朝日のゆんゆん投稿」を単行本化したものです。
 “サヨク系”と言われる朝日新聞読者(地方紙を一部含む)の投稿記事を年代別に取り上げ、それに対するツッコミ(コメント)を入れるというスタイル。挿入されたコラムでは、いかに朝日新聞が非現実路線を歩んでいるかを揶揄するなど、「改憲派」の作者は朝日新聞を痛烈に批判しています。現在、作者のように朝日新聞の投稿記事や社説などを揶揄するホームページやブログがいくつもあることを知り、私は驚きました。また、本書に掲載された当初記事はすべて投稿者の実名がそのまま載っています。これまで私も朝日新聞の「声」欄に何度も投稿し掲載されましたが、投稿者の実名と記事タイトルがネットで無断に公表されていることを知り、ショックを受けました。
 作者は、自分の思想と異なる人は間違っているという姿勢で、朝日新聞の読者投稿を揶揄していますが、本書を読んでいると、テーマが政治・歴史問題に偏っていること(単に作者は改憲論を主張したいだけ?)、本のタイトルが「朝日新聞の…」となっているのに、地方紙の投稿記事も扱っているという一貫性のなさ、歴史認識の甘さなど、作者の方をツッコミたくなります。


「国家は僕らを守らない」(鴨川昇/朝日新書)

2007年05月30日 | Weblog
今月は、憲法改正の是非を国民に問う「国民投票法案」が成立し、国内で憲法議論がいっそう高まっていることから、憲法をテーマにした本を何冊か読んでみました。
 その中でも、「憲法をまったく知らない若者」に向けて独自の視点から憲法を論じた本書は、今年で還暦を迎えた日本国憲法の実態を、さまざまな実例を紹介しながら多角的に分かりやすく解説しており、なかなか面白かったです。
 「憲法とは、国家=権力に余計なことをさせないための規範である」と著者は、「HERO」で木村拓哉が演じる不正を憎む検事、ゆずやドリカム、Dr.スランプの「スッパマン」、暴君だけど国民は守る「パタリロ」など、ドラマやアニメなど若者に親しみのあるものを題材に憲法を再評価しています。

「新人だった!」(原田宗典/角川文庫)

2007年05月25日 | Weblog
 人は誰でもいくつの失敗や挫折、障害を経験しながら成長していく……。本書は、大学留年時に始めたコピーライターのアルバイト下積み時代から「新人」として認められるまでのエピソードを赤裸々に綴った人気作家のエッセイ集です。
 面白すぎてすっかりハマってしまい、4時間ほどで一気に読み終わりました。読後感は爽快です!
 

「半井小絵のお天気彩時記」(かんき出版/半井小絵)

2007年05月24日 | Weblog
 本書は、「7時28分の女王」として中高年男性に大人気の、NHK「ニュース7」気象情報担当の半井キャスターが書き下ろした初エッセイです。季節を身近に感じる空模様や風物詩などの話題に、カラー写真やかわいいイラストも織り交ぜて、やさしい語り口で綴っているので読みやすかったです。
 各エッセイの最後には、実体験をもとに気象や国内外の歴史などをテーマにした「コラム」があり、私はそちらの方が楽しめました。
 「二十四節気と年中行事のカレンダー」も収録されているので、役に立ちます。

「夕子ちゃんの坂道」(長嶋有/文藝春秋社)

2007年05月21日 | Weblog
 「批判的な自覚とともに、懐かしい小説の魅力を、すっかり新しい日本人を通じて表現した作品」として今月、第1回大江健三郎賞を受賞した本書は、西洋アンティーク骨董店に住み込みのアルバイト青年の視点で周囲の人々との交わりを描いた連作小説集です。受賞の知らせをニュースで知った私は、さっそく近くの本屋に出かけて購入し、丸2日間で読み終えました。
 「猛スピードで母は」で第126回芥川賞を受賞した長嶋有は、その後も独特な感性を発揮した作品を次々に発表し、今の日本文壇をリードする人気作家となっています。本作品も、大江氏が「すっかり新しい日本人を通じて表現した作品」と評しているように、文中の表現や会話から現代の若者の生き方・考え方(=作者の気持ち)がよく理解できます。しかし、主人公の周りにはいつも何人かの人たち(それぞれ「弱み」を抱えた生身の人間なので読者も共感が持てる)がいて、古き日本のものだったと思われがちな「人情」があり、温かな気持ちになることができます。

「シェイクスピアのソネット」(文春文庫)

2007年05月16日 | Weblog
 シェイクスピア(1564年?~1616年)といえば、「ロミオとジュリエット」や「真夏の夜の夢」「リア王」「ハムレット」「マクベス」などの劇作家として有名ですが、謎のソネット(十四行詩)というものも書いています。
 本書は、シェイクスピアが書いた154篇の詩を全訳したもので、版画家の山本容子さんがその全編に繊細で華麗な銅版画が各編に添えられています。
 シェイクスピアの秘めた愛とは? 詩人と美貌の青年貴族、そして ダーク・レディとの不思議な関係とは? ほとばしる愛、忍び寄る不安、狂おしいまでの嫉妬まで……。決してその文体と内容は簡易なものではありませんが、シェイクスピア研究の第一人者である小田島雄志氏による名訳を声に出しながら丹念に味わいました。

「かなしみの名前 中原中也の言葉」(斎藤孝/だいわ文庫)

2007年05月09日 | Weblog
 先月30日、夭折の詩人・中原中也は生誕100を迎えました。
 同書は「声を出して代みたい日本語」の斎藤孝氏が中也の作品の中から代表作をテーマに分けてセレクトし、詩の世界がイメージをしやすいように写真が組み合わせた画期的な本。中也の足跡も各章のはじめに解説しているので、彼を知らない若者や文学初心者にもオススメできる1冊です。
 30歳という若さで逝った喪失と憧憬の詩人・中原中也。彼の詩から1世紀がたっていますが、彼の作品は今も生き生きとした文体で、古臭さをまったく感じさせません。いつまでも「生きる」ことに慣れず、詩にすべてをかけた中也の言葉は、今に生きる私たちの心にしみ入ります。

「書店員タカクラの、本と本屋の日々。 ・・・ときどき育児」(高倉恵美/書肆侃侃房)

2007年05月04日 | Weblog
 現在、キャナルシティ博多の福家書店で働く女性店員が、この約10年間に様々なメディアに連載したコラムエッセイを1冊にまとめたものです。
 この本を読むと、「現場」の視点から見た今の出版業界の裏側がよく分かります。各エッセイには作者の私生活(子育てなど)でのエピソードをテーマにした、かわいらしい4コマ漫画付き。
 どのページから読んでも楽しめるような構成です。