THE BOOKハンター!

~〈本の虫〉の痛快読書日誌~

「ヘミングウェイの刻印」(山田英機/日本放送協会出版)

2010年08月25日 | Weblog
 アメリカの文豪アーネスト・ヘミングウェイの死から100年を迎えた1999年、国内外では彼に関するさまざまな本が刊行されました。その頃、大学で英文学を学んでいた私はヘミングウェイの「老人と海」にまつわる卒業論文を執筆中で、彼に関する参考文献を集中的に買い集めて読んでいました。しかし、時間の都合で読むことができずに家の本箱の中に長く眠っている本もいくつかあります。同書はこの中の1冊で、今回ようやく読むことができました!

 文豪へのオマージュと挽歌を込めた長編サスペンス・ロマン。物語は、アメリカ文学を専攻する大学教授・藤森のもとにヘミングウェイの未発表作品と思われる2編の原稿が舞い込んでくることから始まります。テレビ番組のプロデューサに裏付けを頼まれた藤森教授は、原稿の出所を尋ねるためにスペインへと旅立ち、現地でテレビ局のコーディネーターをしている教え子のユリエと調査に奮闘していきます……。

 調査を進めていくうちに、次々と明らかになる「これまで誰も知らなかったヘミングウェイの横顔」。結局、2編の原稿がヘミングウェイの未発表作品であるという確証をつかむことはできませんでしたが、ヘミングウェイの知られざる姿を多く知ることができ、たいへん興味深い内容、完成度の高いサスペンス小説でした。卒論の執筆時に読んでいたらば……悔やんでいます。

「アロハ萌え KAWAII HAWAII」(橋口いくよ/講談社文庫)

2010年08月25日 | Weblog
 あるハワイアン雑誌に紹介されていたのが目にとまり、この夏、ハワイに旅行することになったのを機に取り寄せて読んでみた本です。筆者の橋口さんは私と同じ1974年生まれ。90年代にラジオパーソナリティーとして活躍した後に作家へ転身。ハワイの情報誌「アロハストリート」にエッセイを連載にしており、大のハワイ通として広く知られているようです(といっても、私は初めて知りましたが…)。同署はそんな彼女が小説以外に初めてはじけて書いたエッセイ集。ミーハー度200%のガールズ本で、おじさんにはついていけない所が多々ありました!(笑)

 ハワイが好き。オアフが好き。ワイキキが好き。早起きして、散歩するのが好き。ラナイが好き。ビーチが好き。アラモアナセンターが好き。ホイップクリームたっぷりのパンケーキが大好き! 彼女はハワイの歴史・文化などにはほとんど関心がないようで、食べることと買うことに執着心を燃やしています。

 あまりにも大きいハワイへのLOVE度から彼女は毎回ハワイ行きの飛行機の中で涙を流したり、空港やホテル、コンビニの匂いを嗅ぎまわったり……。これは趣味の領域を超えて、完全に「病的」です! それを「萌え」というのですが――。彼女は帰国した翌日から次のハワイ旅行のことを考え、食べ物や匂いで自室にハワイを再現しようとします。その涙ぐましい努力の内容が詳細に書かれていますが、私は読んでいて引いてしまいました。彼女がハワイについての思いを熱く語れば語るほど、ハワイへのあこがれが薄れてしまうのは、どうしてでしょうか?

 ピンクの壁紙に包まれたホテルのレストランでビュッフェを楽しんだり、日本では買わないような三角ビキニを着てワイキキビーチ界隈を散歩したり……と、乙女ワールドにひたる橋口さんは大はしゃぎ! 女で生まれた幸せをかみしめながら、ハワイを満喫しています。

 でも、もう少しハワイの歴史や文化について興味を持ってほしいものです。ハワイの悲しい過去の歴史(白人たちによる強制統制など)を知らずに、「ハワイ通」と言えるのでしょうか? もう少し奥のあるハワイの楽しみ方を紹介してほしかったなぁ。。。

「星夜行」(北森みお/パロル舎)

2010年08月25日 | Weblog
 戦後65回目の夏――。 この時期、「戦争と平和」を考えるさまざまな本が刊行されていますが、ある1冊の本が話題になっています。それは、広島在住の作家・北森みおさんの本。新聞広告に目がとまった私はさっそく購入し、読んでみることにしました。

 5つの話から構成されるこの物語の主人公は、「モギ」という珍しい名前の女の子(小学生)。彼女は原爆で両親と弟を失い、愛する「ソラ姉さん」と友達「リン」は原爆症の後遺症で苦しんでいます(入院していたリンは作中で死に、ソラ姉さんの病状も日に日に悪化していきます)。また、ユキおじさん、謎の少年&少女のマキオくんとコマギさん、バイオリン弾きなども登場し、物語の不思議な世界が広がっています。

 眩い光に包まれた1945年8月6日、ヒロシマ。遠ざかることのない、あの日……。ヒロシマのトラム(電車)の軌道に乗せて、ひとりの少女が静かに語る儚くも切ない「悲しみと再生を願う」物語。電車の中で彼女はさまざまな人とに出会い、心の交流を深めていききす。
 
 あの日、あの場所にいた人たちから、戦争を知らない若い世代まで、すべての人たちへ贈られた1冊。本書には、原爆についての生々しい描写や原爆投下への怒りの気持ちなどは一切書かれていません。ただ、少女の日々の体験、人との交わりの様子がやわらかいタッチの文章で淡々と綴られています。しかし、この物語の根底にある作者の反戦の思いが全編通して感じることができます。