THE BOOKハンター!

~〈本の虫〉の痛快読書日誌~

「原爆・五〇〇人の証言」(朝日文庫)

2009年08月25日 | Weblog
 広島と長崎に原爆が投下されたあの日から22年目の昭和42年、朝日新聞社は全通信網を動員し、沖縄を含む全国30都道府県の被爆者500人に対して丁寧に面接取材を行いました。
 本書はこれを書籍化したもので、被爆者たちの真実の声を切実に記録した「原爆本の原点」ともいえる名著です。
 この本を読むまで、私はただ「被爆者」という漠然とした認識しかなかったのですが、詳細な面接取材による調査によると、広島と長崎の被爆者たちの被爆実態や原爆に対する考え方などが異っていることが分かり、驚きました。
 また、被爆者たちの中には差別と偏見のため、結婚時に自らの被爆を相手に悪したり、原爆認定証を受け取らない人も少なくなく、被爆者に対する「差別」についても改めて思い知らされました。

「戦場体験 『声』が語り継ぐ昭和」(朝日文庫)

2009年08月25日 | Weblog
 中国と南方の戦線、学徒動員、日本全土を覆った大空襲、沖縄戦の惨禍、特攻と原爆、そして終戦直後の進駐軍と闇市の風景。本書は、戦後60年を記念して企画された朝日新聞「声」欄の特集に寄せられた投書から116編を収録したもので、太平洋戦争下に生きた兵士や市民らの貴重な「証言」集です。
 朝日新聞では今も「声」欄に「戦争を語り継ぐ」として特別枠が設けられており、私もよく目を通しています。朝日新聞社は、これらの投書も書籍化してほしいです。
 今月は「戦争と平和」を考える本として、主に戦争体験をつづった証言集を集中的に読みました。これまで戦争体験の証言集というものはあまり読んだことがありませんでしたが、今回まとめて読んでみて、広島や長崎の原爆投下の悲惨な実態などを詳しく知り、戦争の愚かさ、平和の尊さについて深く実感しました。

「火垂るの墓」(野坂昭如/ポプラ社ポケット文庫)

2009年08月19日 | Weblog
さて、今回は野坂如昭氏の戦争童話の名作「火垂(ほた)るの墓」(直木賞作品)。そのアニメ映画はあまりにも有名ですね。先週も日本テレビで放映されていました。私は映画は見ていないのですが、3年前にドラマ化された「実写版」は見ました。戦争孤児の清太と節子を演じる子役の名演技、彼らに辛く当たる小母役の松島奈々子の冷血なキャラも印象的でした。
 昭和20年、戦争によった両親も家も失い、2人きりになった兄妹。14歳の清太と4歳の節子が、つたなくも懸命に生きようと自活するものの、貧しさによる飢餓で衰え、息絶えるまでの姿を描いたこの作品は、様々なことを考えさせてくれます。

 本書には表題作のほか、野坂氏による戦争童話5編(中公文庫「戦争童話集」より)が前半に収録されています。戦争と平和を考えるこの季節に1人でも多くの人に読んでほしい1冊です。


「私を変えた一言」(原田宗典/集英社文庫)

2009年08月17日 | Weblog
 さて、今回はブレイクとして、人気作家・原田宗典氏のユーモアエッセイを久しぶりに読みました。
 本書は、タイトルからして高尚な人たちの格言を集めたカタイ内容の本のようですが、そのような人の言葉は少なく、原田氏のごく身近なところにいる人たちによる「何気ない言葉」をもとにした人物エッセイといった感じ。
 「好奇心が足りませんね」(元国連難民高等弁務官・緒方貞子)、「好きなことをやってごらん必ず成功するから」(祖父・原田馥栄)、「進め、進め」(作家・武者小路実篤)、「馬鹿ばかしくなくちゃ、遊びにならない」(友人・長岡毅)、「御大切」(島原・隠れ切支丹)、「〆切(しめきり)」(出版社社員・編集者)などなど、一見フツーの言葉に見えますが、考えてみれば実に奥深くて、含蓄のある「名言」ばかりで、原田氏の人生を変えた理由が分かりました。
 原田氏はうつ病を発症してから、小説の世界からほとんんど離れ(作品が書けない)、本を出すペースもかなりダウンしているようですが、原田節のエッセイのおもしろさは今も健在。一人称を「僕」から「私」に変えた、大人の原田氏を感じさせるエッセイ集でした。

★次回は、映画やドラマにもなった戦争童話の名作「火垂るの墓」(野坂昭如)を紹介します!

「子供たちに残す戦争体験」(新潮社編/新潮文庫)

2009年08月16日 | Weblog
 8月15日、64回目の終戦記念日を迎えました。
 本書は、自分の子供たちに戦争の体験を伝えようと親たちが綴った手記を集めたもので、昭和59年に刊行されたものの復刊です。コピーには「あの戦争の壮絶な記憶。体験者が残す次世代へのメッセージ」と書かれています。
 両腕を失った学生、戦火の中で立ち尽くす少女、子を探す父、戦火の中で幼子を中国人に手渡す母、目の前で友達が息絶えたことが忘れられない人……。本書に収められた31編の手記には、あの時、戦地や内地で日本人は何を経験し、どう生き延びたのかヶ、克明に綴られています。これは、教科書には書かれることのない「一般市民たちの真実の記録」といえます。
 巻末の解説の中で、イラストレーターの永井一郎氏は「これを読む若い世代の人たちには、ここに書かれていることを自分のことだと思って読んでほしいと思います。(略)決して人のことだと思わないでほしいのです」と書いていますが、戦争を知らない世代の私もこのような気持ちで、生々しく描写された悲惨な体験を読み進めました。
 戦後から64年が経ち、戦争体験者も平均年齢が75歳を超えました。本書に手記を寄せた人たちもほとんど亡くなっていることでしょう。
 戦争体験集を読みながら、「若い世代が語り継がなければいけない」と改めて思いました。
 

「ナガサキノート 若手記者が聞く被爆者の物語」(朝日新聞長崎総局編/朝日文庫)

2009年08月13日 | Weblog
 久しぶりにブログを更新しました。更新していない間もたくさんの方々が連日訪問して下さっているようで、運営者としてはうれしく思います!

 さて、今月は広島・長崎原爆の日、終戦記念日があるということで、例年通り「戦争と平和」を考える本を集中的に読もうと思っています。その中でも今年は、「被爆者の戦争体験(証言)」をまとめた本を読むことにしました。

 まず、最初に読んだ本は、戦後生まれの親を持つ20代・30代の朝日新聞記者たちが被爆者を取材して話題となっている朝日新聞長崎版の人気企画「ナガサキノート」を書籍化したもの。かつての名著「ヒロシマノート」(大江健三郎/岩波新書)を思い出させるタイトルです。
 少女時代、ハイヒールに憧れていたが、原爆被害で靴を履けなくなってしまった女性や「被爆者」として差別と偏見を受け続けた人たち、戦争の悲劇を後世に残そうとようやく戦争体験について口を開いた語り部……。被爆者たちがこれまでどういう思いを抱え、どのように生きてきたのかについて、若い記者たちが丁寧に取材し、わかりやすい言葉でまとめています。
 
 決して消し去ることのできない戦争の爪痕。被爆者たちが語る生々しい体験証言に、私は衝撃を受けました。彼らの証言を読んでいくと、長崎の原爆が投下された日のことやその後の悲惨な光景などが、目に写るように分かってきました。
 400ページにわたる本ですが、字が大きめで、写真入の分かりやすい文章でつづられているので、とても読みやすかったです。
 「戦争を知らない」若者たちに読んでほしい1冊です。