THE BOOKハンター!

~〈本の虫〉の痛快読書日誌~

「司馬遼太郎が考えたこと15」 (司馬遼太郎/新潮文庫)

2006年02月28日 | Weblog
 司馬遼太郎が死去してちょうど10年にあたる今月、昨年1月から刊行されていた「司馬遼太郎が考えたこと」(全15巻)が完結しました。私は創刊当時、偶然に書店で手にして以来、毎月購入して読み続けました。
 司馬氏が作家になって書いたエッセイ・小文雑記をほとんど全て収録した画期的な同シリーズ。歴史小説を読まない私はこれまで司馬氏の作品をほとんど読んだことがなく、はじめは難解なのではないかという不安な気持ちもありましたが、いざ読んでみると、司馬氏の文章は明晰明鏡でやわらかく、たちまちハマってしまいました。各巻500ページ前後もありますが、慣れてくるとだんだん読むのが早くなり、最終巻は丸2日で読了しました。
 1年2ヵ月、たっぷり味わった「司馬ワールド」。私は司馬氏の文才や思考能力には足元には及びませんが、少しでもその中から何かを吸収し、今後の人生の中で生かしていけたらなぁと思っています。

「日蝕」(平野啓一郎/新潮文庫)

2006年02月27日 | Weblog
 私が住んでいる北九州市出身の平野啓一郎氏の芥川賞受賞作「日蝕」。私は受賞当時に同作の単行本を買っていたが、内容が重くて文章も読みづらい作品ということを知り、一度も表紙を開けないまま本箱の隅に並べていました。そして、「いつか読まなければ…」と思いながら今日まで経ってしまいました。
 平野氏の新刊文庫「文明の憂鬱」を読んだ私は、再び本箱から「日蝕」(昨年、新潮文庫にもなりました)を出してみました。発行は1998年、あれから8年もたっていることに驚くと同時に、平野氏が私の1歳下というのを思い出しました。
 舞台は異端信仰の嵐が吹き荒れる15世紀末のフランス。賢者の石の創生を目指す錬金術師との出会いが、神学僧を異界に導きます。洞窟に潜む両性具有者、魔女焚刑の只中に生じた秘蹟、めくるめく霊肉一致の瞬間……。
 同作品はキリスト教をテーマにした重々しい内容であるだけでなく、今ではあまり使用されない漢字(フリ仮名付き)を多用しているので、本をあまり読まない人には読みづらく、最初のページで挫折しそうになるかもしれません。
 しかし、読み進めると、内容はそんなに難しいものではありません。作者がわざと背伸びをして難解な文章にしているという感じで、随所に安易で稚拙な表現、後半からは無理なストーリー展開が目立ちます。平野氏は当時、大学生。若気の至りしょうか……? 若い頃の「大江健三郎」を思わせます。

「俺はその夜多くのことを考えた」(三谷幸喜/幻冬舎文庫)

2006年02月26日 | Weblog
 1月公開の新作映画「THE 有頂天ホテル」が大ヒットの三谷幸喜(監督)。私は朝日新聞に連載中の「三谷幸喜のありふれた生活」が大好きで、その単行本をすべて買って読んでいます。彼のエッセイは平明で分かりやすく、嫌味がありません。そして、すごく謙虚な姿勢で書いています(自虐的なところが多いのですが、それをさわやかなタッチでうまく描いています)。
 そんな三谷氏の名短編といわれるのが本書です。唐仁原教久氏のカラーイラストもおしゃれで、文章とよく合っています(絵本としても十分楽しめます)。
 ある消極的なサラリーマンがやっとの思いで職場のかわいい女性(入社時にひと目ぼれした)をデートに誘うことに成功します。そして、映画を2人で見て、夜に帰宅するのですが、自分が彼女にどんな彼女に与えたのか、彼は心配になり、確かめの電話をしたくなります。しかし、こんな電話をすると逆効果になると思った彼は思いとどまろうとします。でも…。
 「電話したい電話したい電話したい電話したい、気が付いたら彼女の家の番号をダイヤルしていた」。煩悶した末にかけた1本の電話が、不幸な夜の幕開きだったのです!……そして、「俺」が学んだ〈恋愛に関する7つの真理〉とは?
 本書に出てくる「俺」のような経験をした人は少なくないと思います。私も人のこと(「こうしたいけれど、ヘンに思われるのではないか?」など)ばかりを気にする性格なので、彼の気持ちがよく分かり、彼への親しみも感じました。
 彼は三谷氏の等身大のようにも思えます。エッセイの中の三谷氏も、彼のように「小心者」のキャラクターなので…。
 
 幻冬舎文庫に入っている三谷氏のエッセイ集「オンリー・ミー 私だけが」もオススメですよ!

「考えない世界」(原田宗典[文]・かとうゆめこ[絵]/講談社文庫)

2006年02月24日 | Weblog
 私は学生時代に「十九、二十」を読んで以来、原田宗典にかなり傾倒し、彼が出した文庫本はほぼすべて入手しています(約70冊にも及びます)。
 そんな原田氏の新刊が先月(集英社文庫「吾輩ハ作家デアル」)に続いて出たので、さっそく買ってみました!

 あなたは何かと考えすぎてはいませんか? 考えるべきこともあるでしょうが、考えなくてもいいこともまたあるのです。考えすぎるあなたに代わって、考える小説家・原田宗典が考えに考え、考え抜いた末にたどり着いた「考えない世界とは」・・・?(文庫カバー裏の紹介から)

 「大人のための絵本」とされる本書は、わずか40ページほどの薄さで、10分足らずで読み終えることができます。原田氏の文章をイメージして描いた かとうゆめこさんの鮮やかな絵がとてもマッチしていて、心が癒されました。
 疲れたり、心をリフレッシュしたい時に、何度も読み返したい1冊です!

「超バカの壁」 (養老孟司/新潮新書)

2006年02月20日 | Weblog
 「今の日本社会には、明らかに問題がある。どんな問題があるか。私はものの考え方、見方だと思っている。そこがなんだか、変なのである」(本書より)
 養老孟司氏の「超バカの壁」が現在、ベストセラーになっています。「バカの壁」「死の壁」と「壁」シリーズの完結編という本書。いずれも大ベストセラーとなったたでけに、今回も商業ベースでつくられたものだろうという感じもしましたが、新聞広告をたびたび見ていると、ついついまた手が出てしまいました。

 養老氏が言う「バカの壁」とは、「自分の意識だけが世界のすべてだと思い込む一元論的な考え」のこと。 
 本書では、フリーター、ニート、「自分探し」、テロとの戦い、少子化、金の問題、靖国参拝、心の傷、男と女、生きがいの喪失など、養老氏が現代人の抱える様々な問題の根本に迫っています。
 「ニートの存在に感謝せよ」「都会化は子どもを育てない」「首相の靖国参拝も自由。無宗教の施設建設は全く意味がないことで、宗教に対して無知の人たちの発想である」「衣食が足りている日本が、そうでない国(北朝鮮)に礼節を求めても無理韓国、中国の反発はほっておけ」「雑用を自ら引き受けよう」……。
 本書を読めば、すべての人生の悩みや社会問題が解決できそうに思いますが、これらの意見は、あくまでも養老氏の考え。まえがきに「自分のことは自分で決めるべき、伝えられるのは『考え方』だけ」とあるように、本書は指南書でも教養書でもないのです。
 「いまの日本で問題とされている多くは、そもそもの問題設定、議論の出発点が間違っている」というのが養老氏の主張です。その上で、一元論に陥らないように注意しながら自分のことは自分で決めるべき、しかし、よく分からないままでもいいとも言っています。
 現代に生きる私たちは、この世にあるすべての問題には明快が答えがあり、進歩こそが社会の発展であると思いがちですが、そういう考えは人間のエゴであり、「バカの壁」なのです。 

 本書は、全国の読者から寄せられた質問を氏に編集部が直接聞いたもので、リライトしてまとめた形式になっているため、過去の2作に比べて、より氏の「本音」が多く出ているような気がしました。最後は養老氏は、(趣味の)虫取りのことをのぞいて、この3冊で自分の言いたいことはすべて言い尽くしたと書いています。


「不味い!」(小泉武夫/新潮文庫)

2006年02月18日 | Weblog
 開高健や池辺正太郎など、「食」(グルメ)評論という分野を開拓し、数々の名著を残した作家がいましたが、近年はその分野で有名な作家は少なくなったような気がします。それは、今ではほとんどの日本人が手軽にグルメを楽しめるようになったからでしょうか。
 そんな時、新潮文庫から昨年末にユニークな本が刊行されました。小泉武夫著「不味い!」。美味しかった料理を紹介するのではなく、「何だこれ! こんなもの喰えるか!」という怒りや、わびしさ、悔しさを感じた料理や食べ物だけを取り上げた、いわば「反グルメ評論集」と言えます。
 小泉氏は東京農業大学の応用生物科学部教授で「農学博士」でもあります。専攻は醸造学・発酵学・食文化論で、学術調査を兼ねて辺境を旅し、世界中の珍味や奇食に挑戦している「食の冒険家」としても知られています。ホテルの朝食、病院食、給食、大阪の水……。そんな小泉氏は、ただ単に不味かったものについての感想をつづるのではなく、自らの苦闘と悲劇を糧にして、その「不味さ」がどこから来るのかを科学的かつ感情的に解き明かしています。
 飽食の時代でこそ生まれた、新しいタイプのグルメ評論という印象を受けました。


「日本語必笑講座」(清水義範/講談社文庫)

2006年02月17日 | Weblog
 なにげなく書店の棚を見ていると、ユニークなタイトルの本に目がつきました。それが、この本「日本語必笑講座」。清水義範氏が日本語についての多くの本を出されていることは知っていましたが、これまで彼の本を読んだことがなかった私は、この本を買ってみることにしました。
 そして、ベージをめくってみると、面白いのなんのって…! 日本語にまつわる目からウロコの話にたちまちハマってしまいました。
 本書は、政治家の常套句、ヘンテコなCMから女子高生やおばさん語まで、「日頃は見過ごされがちだが、なんとなく引っかかることば」を次々と取り上げて、その本質を鋭く、彼独自の視点から指摘しています。
 「ネコの缶詰あります」など思わず笑ってしまう“ヘンナ語”を多数収録している章を読んでいると、思わず声を出して笑ってしまいました。
 近年、「日本語」に関する本がブームでよく売れているみたいで、私も何冊か読みましたが、本書はその中でもダントツ面白く読むことができました。

「祖国とは国語」(藤原正彦/新潮文庫)

2006年02月15日 | Weblog
 新潮新書の「国家の品格」が昨年ベストセラーになった藤原氏。今年1月に敢行された本書は、「国家の根幹は、国語教育にかかっている」と藤原氏が「国語」の重要性について書いたエッセイが収録されています。表紙の帯に「あぁ、こういう人に文部科学大臣になってもらいたい」という齋藤孝氏の推薦文が書かれています。
 また、本書には、ユーモラスな藤原家の知的な風景を軽快に描く「いじわるにも程がある」、出生地満州への老母との感動的な旅を描く「満州再訪記」も収録されています。
 私は以前、藤原氏の「数学者の意地 父の威厳」(新潮文庫)というエッセイ集を読んで、彼のみずみずしい文章にひきこまれてしまいました。彼は国際的な数学者であると同時に、文学にも秀でていることに驚きました。
 それはになぜか。藤原氏のエッセイによると、藤原家には昔から文学全集などが書棚に豊富に並んでいて、いつでも手にとって読める環境の中で育ったからだと書いています。母ていさんが不朽の名作「流れる星は生きている」(敗戦下の悲運に耐えて生き抜いた1人の女性の苦難と愛情を描いた長編小説)の作者であると知って、納得しました。

「わがタイプライターの物語」([文]ポール・オースター[絵]サム・メッカー/新潮社)

2006年02月15日 | Weblog
 「幽霊たち」「偶然の音楽」(新潮文庫)「シティ・オヴ・グラス」(角川文庫)など、大学時代に私はポール・オースターに傾倒していた時期があります。彼が織り成すハードボイルドの文体やストーリーの展開に魅了されました。
 最近は彼の本から遠ざかっていましたが、先月、新聞の広告に載っていた彼の単行本のタイトルに惹かれて、それを買わずにはいられませんでした。
 パソコンが席巻している今、「タイプライター」は忘れ去られた過去のものになったと思っていましたが、ポール・オースターは今でも手動式のタイプライターを愛用しているというのです! それも4半世紀にも渡って…。
 本書は70ページあまりの薄い本で、文章も少なめですが、彼の友人サム・メッサーが描いたタイプライターの絵が39点、オールカラーで収録されています。彼の力強いタッチで鮮やかな色で描かれたタイプライターはどれも生命を帯びているように感じます。私はこんなにインパクトがある絵をあまり見たことがありません。
 柴田元幸氏による訳も簡潔で読みやすく、作家「オースター」の人間味がひしひしと伝わってくる贅沢な1冊でした。

「文明の憂鬱」(平野啓一郎/新潮文庫)

2006年02月13日 | Weblog
 北九州市出身の芥川賞作家の初エッセイ集を読んでみました・・・。
21歳の若さで芥川賞を受賞した彼の印象は、暗くて、受賞作「日蝕」も難解な文体だったので未だに読んでいませんが(本は買っています!)、エッセイなら少しは読みやすいかなぁ…という気持ちで買ってみました。しかし、やはり文体は堅苦しく、故意に難しく表現しようとしている感じがしました。例えば、テレビのことを「テレヴィ」と書くなど、気障っぽさが鼻につきます(大江健三郎を意識しているのか?)。
 本書は、雑誌の連載をまとめたものと、文庫のために新たに書き下ろしたものの
2部構成になっていますが、文体は徐々にやわらかくなっています。
 「文明の憂鬱」というタイトルからして重々しい感じですが、身近にあるものやニュースを取り上げて、彼独自の視点で批評しています。その批評の内容も、予想に反して、常識的なものが多いと思います。