THE BOOKハンター!

~〈本の虫〉の痛快読書日誌~

「みんなの9条」(「マガジン9条」編集部編/集英社新書)

2008年04月25日 | Weblog
 本書は、インターネットの人気サイト『マガジン9条』に掲載された著名人のインタビューをまとめたものです。
 同サイトは憲法9条についてみんなで一緒に考えていこうという趣旨でつくられたもので、いろんな分野で活躍する人たちに「憲法第9条」についての意見を聞き続けています。
 「必要なのは軍隊ではなく交渉能力だよ」「9条は世界に対する日本の国際公約だ」「改憲を考えるならもっと歴史を学ぼう」…ミュージシャン、作家、映画監督、医師ほか22人が、ネット上で普通の人たちに向けて語った反戦や平和への思いがこの1冊につまっています。

「坊ちゃん物語 起業編」(森祐介/ダイヤモンド社)

2008年04月23日 | Weblog
昭和39(1964)年10月、東京オリンピック開催で盛り上がる日本の地に、イギリスに遺されていたもうひとつの「坊ちゃん」の原稿を携え、1人の英国紳士が降り立った。そこに予期せぬ突風が巻き起こって、100余枚の原稿用紙は散り散りに! そこに描かれていた坊ちゃんをはじめ、キヨ、山嵐、赤シャツ、野だいこ、マドンナたちのキャラクターたちが昭和、平成の世に次々とよみがえる「奇想天外」のストーリー。
 本書は総合商社を退職した「坊ちゃん」(夏目漱石著)好きの作者が、「坊ちゃん」100周年にあたる2006年に「続編」として書いたパロディー小説で、劇画風の挿絵が多々あり、文章もライトノベル風で読みやすく、あっという間に読めました。
 明治から昭和の時代に突然送り込まれた「坊ちゃん」は、会社勤務を経て、パソコン関連のベンチャー企業を起こします。そして、その物語は平成の現代にまで至っています。
 文学的な文章表現はなく、下ネタやスラングも目立ち、漱石の「坊ちゃん」とはレベル的に大きく劣ってはいるものの、登場人物の性格は原作そのまま。娯楽小説として十分楽しめます。
 ※昨年、「青天の霹靂編」も出ました。

「無所属の時間で生きる」(城山三郎/朝日文庫)

2008年04月20日 | Weblog
 どこにも関係のない、どこにも属さない一人の人間としての時間──それは、人間を人間としてよみがえらせ、より大きく育て上げる時間となるだろう(本文より)。
 昨年3月になくなった作家の城山三郎さんは、軍隊体験を経た後、「無所属の時間」を過ごすことでどう生き直すかを一生涯問い続けました。その厳しい批評眼と温かい人生観(巻末で経済評論家の内橋克人氏は「やさしい厳しさ」と評しています)は、このエッセイ集の各編に散り込められています。
 「人」と「社会」を常に見つめてきた城山さんの思いと言葉が凝縮された1冊です。

★本作品は今月、新潮文庫からも刊行されています。

「漱石、ジャムを舐める」(河内一郎/新潮文庫)

2008年04月19日 | Weblog
 胃弱なのに濃厚な味を好み、門下生が集まれば必ず牛鍋を囲む。羊羹、お汁粉、ケーキなど甘いものが好きで、特にお気に入りは自家製アイスクリーム。医者に止められながらも甘い苺ジャムをおやつに舐める……。
 夏目漱石についてはもう研究の余地がないほど研究し尽くされているようですが、実は探すとまだまだ研究テーマがあるようです。本書は、漱石が食べた物を、その作品や日記書簡などから仔細にピックアップし、文豪の素顔をあぶりだした珍しい研究書。「吾輩は猫である」の中に「ジャム」が何回か登場したことに気づいた作者は、学生時代からの趣味だった漱石研究を退職後に本格的に再開し、甘党の漱石がジャムも好きで毎月8缶も1人で舐めていた事実を突き止めます。そして、その価格や何のジャムであったかも……。
 漱石作品に出てくる食べ物や飲食店の1つ1つを順に紹介し、その由来や歴史も詳しく調べているので、「日本の食文化史」としても大いに楽しめます。 第2・3章では、漱石関連の事項と併せた食文化史年表や大正・明治時代の物価表もたっぷり収録されています。また、夏目家の収入や家計簿、漱石が勤めていた学校の職員や当時の著名人の給料・年俸なども載せています。
 「食」をテーマにした新しい漱石文学論。漱石フリークの私にとって、新たな発見の喜びを与えてくれて1冊です!

『ワーキングプア 日本を蝕む病 」(NHKスペシャル「ワーキングプア」取材班/ポプラ社)

2008年04月15日 | Weblog
 マンガ喫茶を住処とする若者、衰退する地方都市、睡眠時間4時間のシングルマザー、死ぬまで働かざるをえない老人、厳しい会社経営のためにやむを得ず違法で中国人労働者を働かせる雇用主、2人の息子の養育費を貯蓄するため3つの仕事を掛け持ちしているシングルファーザー、家庭の貧困や崩壊の犠牲となった子どもたち……。
 本書は、メディアで初めて日本の“ワーキングプア”の現状を詳しく取材し、大きな反響を呼んだNHKスペシャルを単行本化したものです。
 かつての貧困者と異なり、現在の「ワーキングプア」の人たちは、寝る時間を惜しんで働いても報われない人、働く意欲があっても安定した仕事に就けない人が多いのが特徴で、こんな理不尽な世の中に憤りを感じずにはいられませんでした。
 今はワーキングプアでない人も、「明日は我が身」と思う気持ちで本書を読み、将来への対策を講じる必要がありそうです。

「直筆で読む『坊ちゃん』」(夏目漱石/集英社新書ビジュアル版)

2008年04月13日 | Weblog
 今月は夏目漱石に関する本を集中的に読んでいるのですが、3冊目はこの本。昨年の秋に刊行以来、話題となった本書をようやく買って読んでみました……。以前はどこの本屋さんにも平積みされていましたが、半年以上たった今では話題の本のコーナーにも並んでいなくて、新書棚の隅っこにようやく1冊見つけました。
 本書は、漱石が40歳の時に3週間で書き上げたといわれる青春小説の傑作「坊っちやん」の直筆原稿をカラー写真版で完全収録したものです。漱石が原稿用紙に書いたままの「肉筆」で、書き始めから終わりまですべて読むことができます。この種の「復刻物」は今までも研究者や一部マニアの間では流布していたものの、新書版で発売されたのは初めてのことです。
 手書き文字を書いたり読んだりする機会が減ってきた現代、当時最高の知識人の直筆原稿にじっくり接してみることは価値がありそうです。
 岩波版「漱石全集」の元編集者・秋山豊氏による直筆の味わい方・解読の手引きと、漱石の孫・夏目房之介氏のエッセイも収録されていて、存分楽しめます。
 神経質で几帳面そうな漱石は、毛筆で原稿用紙のコマの中にもバランスを考慮した几帳面な字を抑制をきかせて連ねていますが、現代人には読みにくい字で、誤字・脱字・癖字(当て字)が多く、それが各社の編集者たちを悩ます結果になりました。出版社や全集・文庫本によって、表記や表現が一部異なるのもそのためだそうです。
 でも、本書は漱石のオリジナル原稿。用紙への書き込みやシミなどもリアルに見ることができます。名作の裏舞台を楽しめる1冊です。

「漱石先生、お久しぶりです」(半藤一利/文春文庫)

2008年04月11日 | Weblog
 『漱石先生ぞな、もし』(正編・続編)から10年、漱石を愛してやまない“歴史探偵”が、その作品のみならず、手紙、文明観、個人主義という覚悟、俳句や漢詩の世界など、漱石ワールドをくまなく歩きまわって楽しくつづった調査レポート。
 私は5年前に大学の国文科を卒業したのですが、その時に卒論のテーマに選んだのが夏目漱石で、漱石全集をはじめ、漱石に関する研究書・教養書をたくさん読みました。半藤氏の前著も、卒論に大いに活用させていただきました。
 「人間・漱石」の尽きない魅力が全篇に横溢して、読者を飽きさせないこと必定のユーモアエッセイ集です。

「食品のカラクリ8 知らずに食べるな!中国産」(別冊宝島)

2008年04月10日 | Weblog
 基準値を大幅に上回る農薬が検出されて昨年の夏以降、スーパーの店頭表示から消えた「中国産」の食べ物・飲み物。でも、輸入が禁止されても、法の抜け穴はいろいろとあるようで、ラベル表示では絶対に分からないい中国産原材料として入り込んでいるようです。自給率30%の日本では、食材の8~9割以上が中国産であるといわれています。
 ペットボトル緑茶、老舗のようかん、チキンナゲット、ハチミツ、ミックス野菜など、私たちの身近にある加工食品(健康食品も含みます!)は、時には人間を死に至らせる濃度の高い農薬や工業用薬品をいっぱい含んでいることが分かりました……。
 薬害に対する基本知識も、生産者のモラルも、何もない中国。食の安全が揺らぐこの世の中、本書は必読です!

なぜか不機嫌? 井上陽水の小倉コンサート

2008年04月05日 | Weblog
 「井上陽水コンサート2008」が今月からスタートし、私は4日夜、皮切りとなった九州厚生年金会館「ウェルシティ小倉」でのコンサートを聴きに行きました。井上陽水の小倉公演は2006年10月以来、1年半ぶり。会場となった大ホールは、陽水ファンによる熱気に包まれました。
 19時過ぎ、開演。スカイブルーの衣装で登場した井上陽水に、客席から大きな拍手が沸き起こった。ステージには陽水のほか、新メンバーを加えた4人のバンドが定位置にスタンバイ。
 始めの曲は「Make-Up Shadow」。スピーカーから流れる楽器の音量が大きすぎ、陽水の歌声がこもったように聴こえたので、いささかがっかりした。続く「Power down」、「娘がよじれる時」も同様でした。
 「小倉の皆さん、こんばんは。井上陽水です・・・・」
 3曲を歌い終えた陽水が口を開くと、2階席から「陽水~!」という男性の大きな声が飛んだ。
 「小倉城の桜は満開でしたね。2008年のコンサートを桜が咲き誇る地元で始めることができたのも、皆さんの賜物のおかげ。言葉で表わすとこうなります(笑)・・・・」
 陽水が話すと、会場からは再び拍手が沸きました。
 「闇夜の国から」以降、バンドの音響が絞られて、陽水の声が聞こえやすくなって、ひと安心。今年のツアーは「new bandでのアコースティック・モダンサウンド」を売りにしていますが、曲もマイルドにアレンジされ、演奏のボリュームも押さえられ、落ち着いたムードで統一されていました。また、今までよりも静かな曲が多く、明るく騒がしい曲が少ないのが印象的でした。
 「小倉、福岡など地元の客席には関係者が多いので、緊張します。厳しい目で終始見られているので・・・。外にいても声をかけられて大変です。仕事柄、いちおう格好をつけてはいますが・・・・(笑)」
 「来年で歌手活動40周年を迎えます。ここから1時間くらいの距離にある田川から上京し、『アンドレ・カンドレ』という名前でデビューしました。どうして僕はこんな変な名前を考えたんでしょうね(笑)・・・・」
 「皆さん、本当にお元気で何よりですね。ここに自力で来られること自体、元気な証拠です。お喜び申し上げます(笑)」
 「ツアー初日の小倉での夜も、半分が過ぎてしまいました・・・・」
 陽水は歌の合間にトークタイムを挟みます。でも、いつもより長さが短く、その話が弾みません! 少し不機嫌な感じで、観客の声援にも反応を示さず、プロとしての意識に欠けているような気がしました。
 とはいえ、「限りない欲望」「背中まで45分」「バレリーナ」など懐かしい名曲も数々。「Just Fit」では間奏時に「Just Fit~!」声高に絶叫した。
 8時45分、「虹のできる訳」でいったん終了。鳴り止まない拍手の中、エンジ色のTシャツで再登場した陽水は、ベース担当の女性らが加わった新しいバンドメンバーを紹介し、アンコールの3曲を熱唱しました。
 最後の「夢の中へ」では、観客が徐々に立ち始めて、場内は熱気に包まれた。 
 「皆さん、お元気で! また会いましょう」
 歌い終わった陽水は、観席に向かって大きく手を振り、ステージの裏へ消えていきました。



「漱石さんの俳句 私の好きな五十選」(大高翔/日本之実業社)

2008年04月02日 | Weblog
 本書は、いま最も注目される若手女流俳人が明治の文豪・夏目漱石の俳句を50句厳選して、その解説をしながら「人間漱石」の真実を浮き彫りにしていくエッセイ集です。大高さんの現代的な感性で分析する漱石俳句の魅力が詰まった1冊。
 各編の最後には、平成の世に生きる筆者自作の俳句が掲載されており、時代を大きく超えた2人の俳人の「交流」が見事に実現されているようです。
 自己の内面を素直にストレートに表わしている「俳人」としての漱石の横顔がよく分かるユニークな本です!

〈収録された漱石の俳句から〉
春雨や柳の下を濡れて行く
弦音にほたりと落る椿かな
見上ぐれば城屹として秋の空
思ふ事只一筋に乙鳥かな
星一つ見えて寐られぬ霜夜哉
親展の状燃え上る火鉢哉
夕月や野川をわたる人はたれ
行く年や膝と膝とをつき合せ
この夕野分に向て分れけり
日は永し三十三間堂長し〔ほか〕