THE BOOKハンター!

~〈本の虫〉の痛快読書日誌~

「とるにたらないもの」(江國香織/集英社文庫)

2006年05月31日 | Weblog
 輪ゴム、レモンしぼり器、ヨーグルト、石けん、りぼん……etc. 日常の中の、ささやかだけど愛すべきものたちにまつわる記憶や思いを、やわらかな言葉でつづる絶妙なショートエッセイ60編。
 江國香織さんの文章は、繊細で、やわらかく、不思議な、独特の世界が漂っています。本書も、そんな江國ワールドが堪能できる、読みやすい1冊でした。
――読み始めると、たちまち本の世界に入り込んで、2時間足らずで読み終えました。心地よい読後感。気分をさわやかにしてくれます!

「映画の中で出逢う『駅』」(臼井幸彦/集英社新書)

2006年05月30日 | Weblog
 映画を発明したルイ・リュミエールが作品「列車の到着」の中でフランスのラ・シオタ駅を使用して以来、今日まで世界中の駅は映画の舞台装置として重要な役割を果たしてきた。「カサブランカ」では失意の旅立ちの場、「ハリー・ポッターと賢者の石」では新たな人生のスタート地点として……。(本書カバーより)  

 「映画の中の本屋と図書館」という本を先日読みましたが、それに類似した本が今月刊行されました。今度は、映画の中の「駅」について書いた本です。
 本書は、鉄道マンである作者が歴史を踏まえながら、東京駅、グランド・セントラル駅など名だたる駅から北海道の増毛駅といったローカルな駅まで、日本と欧米の駅の構造的特徴や魅力を名作映画の中から紹介しています。数年前に新しくなった小倉駅を含め、国内外の駅舎や映画の名場面の写真も豊富に掲載されていて、ビジュアル面でも楽しめます。
 日本の駅舎は戦後、無味乾燥的な建物が増えていったといいますが、海外でも効率化を優先して、複合施設と合併した駅の高層ビル化が進んでいると作者は嘆きます。しかし、最近は日本でもデザインを重視した美しい駅舎も増えているともいいます。
 また、複合映画館が入った駅ビルが増加。駅が舞台となった映画を駅で楽しむようにできるようになる時代を、作者は喜んでいるようです。
 私は大学時代や旅行時にJRをよく利用していましたが、これまで駅の魅力についてあまり考えたことはありませんでした。しかし、本書を読んで、「駅」に対しての見方が大きく変わりました。

「他人と深く関わらずに生きるには」(池田清彦/新潮文庫)

2006年05月26日 | Weblog
「濃厚なつき合いはしない」「社会的ルールは信用しない」「心を込めないで働く」「ボランティアはしない」「病院には行かない」……。構造主義生物学者による痛快エッセイ。タイトルも奇抜ですが、その内容も過激です。
 本書は2部構成で、前半では「他人と深く関わらないための生き方」を提案し、後半では「他人と深く関わらずに生きるための社会システム」の理想論を"毒舌"を交えながら展開しています。

 筆者は、息苦しい現代を乗り切る新しい生き方を“完全個人主義”とし、社会の中で「他人とウマくやっていくための新提案」を自由気ままに書いています。しかし、納得できるところは少なく、そのほとんどが非現実的で自分勝手すぎると思うような内容でした。「働く意志のない人は野垂れ死ぬしかない」「福祉とは堕落者を救済するもの」「貧富の格差はあったほうがいい。お金持ちに物をどんどん買わせれば、景気が回復する」「消費税は20~30%に引き上げろ」(要約)など、唖然とするような発言が目立ち、作者の人格を疑ってしまいます。

また、社会経済システムの改革論では論理の矛盾が目立ちます。競争促進策については、あまりにも非現実的で論理が成り立っていないと思いました。筆者は、競争に基づく市場主義の重要性を説く一方で、個人の競争意欲を削ぐ政策導入を提言していることに気づいていないようです。(しかし、筆者もそれらの矛盾については多少は認識しているようですが……)

 とはいえ、本書は「他人と深く関わらずに生きたい」人のために書かれたもの。人好きで日ごろから社交的な人(筆者はそういう人が嫌いなようです)は、こういう考えもあるのか…という程度で読むだけでいいでしょう。

「他人を見下す若者たち」(速水敏彦/講談社現代新書)

2006年05月24日 | Weblog
 今は「新書」のベストセラーが増えているようですが、同書もよく売れている本の1つです。「他人を見下す若者たち」という奇抜なタイトルに興味があって、前々から気になっていた私も、ようやく買って読んでみました。
 本書によれば、今、根拠のない有能感に浸る若者が増えているそうです。「自分に甘く、他人に厳しい」「すぐにいらつきキレる」「怒りやすい反面、悲しまない」「知人以外の他人には興味がまったくない」「教師などへの尊敬の気持ちがなくなった」「悪いと思っても謝らない」……など、本書では現代の若者(中高年にも当てはまることが多い)について、「感情とやる気が変化したのはなぜか」という視点から心理学的に分析しています。
 「自分以外はバカ」という時代。私は本書を読んで、日本の未来に不安を抱きました。

「映画の中の本屋と図書館 後篇」(飯島朋子/近代文芸社)

2006年05月18日 | Weblog
 映画の中に“本と本屋と図書館”はどのように出現しているかを紹介した図書館映画のデータブックの後篇。前編と同様、「心の青空」「ブルックリン横丁」「父と暮せば」「グッバイ、レーニン!」など新旧50作を解説しています。
 前篇は比較的新しい映画を中心に紹介されていましたが、後篇は60年代などの古い映画も数編紹介。
 最後には、図書館映画についての研究資料とする文献リストが併録されています。
 この本は前篇よりもページ数が多いですが、各篇は4ページ(参考文献付き)でまとめられており、読みやすかったです。

「映画の中の本屋と図書館」(飯島朋子/近代文芸社)

2006年05月15日 | Weblog
先月、新聞広告を見ていて目に留まったのが同書「映画の中の本屋と図書館」。なんともユニークなタイトルにひかれて、さっそく本屋さんに取り寄せてもらいました。
 先月に刊行された続編と合わせて全2巻。各巻50、計100作品の海外・日本映画に関するショートエッセイでつづられています。
 作者が定義する「図書館映画」とは、「登場人物が本屋や図書館を利用する」「本屋や図書館に関係するせりふがある」「書店員、図書館員の登場する」映画。この本を読んで、私は「図書館映画」というジャンルがあることを初めて知りました。
 見たことのある映画も、全く違う見方があるのだなぁと思いました。

「憲法なんて知らないよ」(池澤夏樹/集英社文庫)

2006年05月10日 | Weblog
 日本国憲法の改正についての議論が国内でかつてないほどに活発化しています。その議論の大きな焦点は「憲法第9条」。戦争を放棄し、武器を持つことを禁止している現憲法が時代にそぐわなくなったので「自衛軍」を持つことを肯定しようという意見が急激に高まっているようです。しかし、その一方で、戦力保持を認めることは再軍備化につながり、「戦争ができる国」になることをと危惧する声も負けずに高まっています。
 しかし、私たちはどれほど憲法の内容について知っているのでしょうか? 恥ずかしいことですが、私も憲法の全文を読んだことが一度もありません。
 そんな中、人気作家の池澤氏が日常の分かりやすい言葉で憲法全文を書き直したのが同書。本を読んで私は、日本国憲法が世界に誇れるすばらしいものであることを再認識しました。
 改憲派も護憲派も憲法議論をする前に読んでほしい1冊です!

「漱石の孫」(夏目房之介/新潮文庫)

2006年05月08日 | Weblog
 死から1世紀近く経っても未だに根強い人気がある国民的作家・夏目漱石。私は大学で日本文学を専攻し、漱石を卒論テーマにしていたので、全集をはじめ漱石関係の書物をたくさん買い集めました。
 そして、最近、買った本のがこのエッセイ集。タイトル通り、漱石の孫で漫画家の夏目房之介氏が「漱石」について雑記風につづった本です。
 およそ100年前、祖父・夏目漱石がヨーロッパ文化と格闘していた下宿の部屋を訪れた時、夏目氏は予想しなかった感動に襲われたといいます。日本を代表する作家の直系として生を享けた夏目氏は、どのようにして、その運命を受け入れるようになったのか? 
 ロンドンで祖父の足跡を辿りながら、愛するマンガへの眼差しを重ね合わせつつ、漱石を、音楽家だった父・純一を、そして、自分自身について赤裸々に語っていて面白かったです。