THE BOOKハンター!

~〈本の虫〉の痛快読書日誌~

「くだものだもの」(俵万智・日本ペンクラブ編/ランダムハウス講談社文庫)

2007年09月30日 | Weblog
 村上春樹の「葡萄」、江國香織の「メロン」、太宰治の「桜桃」、よしもとばななの「バナナ」など、くだものを作品のどこかに織り込んだ短篇小説やエッセイ、詩から落語まで、32篇を精選したアンソロジー。「くだものの秋」にうってつけの1冊です。
 私はずいぶん前に、福武文庫版で読んでいましたが、ほとんど内容を忘れていて、新鮮な気持ちで楽しめました。

「一生に 一度だけの」(ヤスコ・ハート/学研)

2007年09月23日 | Weblog
  「作家を目指しているのなら、参考になれば……」と、年輩のある女性から勧められて読んだのがこの本です。
 北九州市では森鴎外がかつて小倉に滞在していたことを記念して、平成3年から「北九州市自分史文学賞大賞」を創設していますが、この作品は第2回の受賞作。高齢者の応募が多い同大賞では珍しく、29歳(当時)の女性が受賞しています。
 バイリンガルの秘書になることを目指し、親の反対を振り切って2年間という約束でアメリカに留学した女性が回想する、波乱の体験記。息抜きのつもりで大学の体育授業でモダンダンスを学んだことからダンサーとしての道を選び、故郷への郷愁や異国での孤独を感じながら自己を発見していくまでの過程を、飾らない文体でいきいきと描いています。
 短いエッセイを連ねたもので、手紙の引用が多く、文学作品としては完成度はそれほど高くはありません。しかし、友達に語りかけるような飾らない文体が読む者の心を引き付け、「読んでいるうちに、フレーフレーと声を出して応援したくなった」と選考委員の瀬戸内寂聴さんは講評に書いています。
 彼女が米国に留学していたのは、日本でようやく留学ブームが起きた今からの20年以上前のこと。アメリカ人の日本に対する知識がまだ低かった時代(文明のない野蛮人とも思われていました!)で、彼女はクラスメイトやその親、先生などから馬鹿にされることも多々ありました。しかし、彼女は負けることなく、自分らしい道を切り開こうと前向きに進んでいきます。その彼女のたくましさには胸を打つものがありました。
 二十歳の時にハワイに語学留学をしたことのある私は、自分の体験にも照らし合わせながら読みました。


「劇場の神様」(原田宗典/新潮文庫)

2007年09月18日 | Weblog
 往年のスター演ずる剣劇ショーの大部屋暮らし。座付き役者の「一郎」は、若手いびりの古参役者の鼻を明かすため、舞台の本番中の混乱に乗じてある企みを思いつく。しかし、その日の舞台は、10年に1度あるかないかの名舞台だった……。
 人気作家・原田宗典氏の短編小説集。極上のユーモアで芝居の歓びを描く表題作のほか、懐かしい町が秘めた官能的な体験をもとにした「ただの一夜」、母親からの虐待を受けていると思われる女生徒について回想する「夏を剥がす」、長年連れ添ってきた夫の秘密を死後に知る妻の心情を描いた「夫の眼鏡」など、著者会心の傑作小説4編が収録されている。




「食品のカラクリ そうだったのか その食べ物!」(郡司和夫/別冊宝島)

2007年09月17日 | Weblog
 これを読むと、きょうからあなたは何も食べられなくなる……?
 先日、風邪を引いて近くの個人病院で診察を受けましたが、そこのロビーのマガジンラックで見つけたのが本書です。
 著者は、食品汚染や環境問題などに関する本を多く執筆しているフリージャーリストの郡司和夫氏で、AF2(合成殺菌料・トフロン)の裁判の当事者であった有害食品問題の先駆者でジャーナリストの故・郡司篤孝氏の次男である。本書では、これまで一般消費者が知らなかった、お馴染みの外食メニューの舞台裏から、知ってビックリの食品加工技術、食卓の影の主役・食品添加物、人気の健康食品の素顔が分かりやすく解説されており、食品業界の「秘密」が暴露されています。各章末の「コラム」も読みごたえがあります。
 今まで何気なく食べていたものや、最近なぜか食ざわりが悪くなったと思う食べ物が、実は代用のまがい品や有害添加物に汚染されたものだったという「事実」を知れば知るほど、恐ろしくて、思わず身震いしてしまいますよ!

「城山三郎が娘に語った戦争」(井上紀子/朝日新聞社)

2007年09月17日 | Weblog
 家庭での父の姿や教育方針、作家活動、国家権力や戦争への憎悪、動物と乗り物好きという一面……。本書は、今年3月に亡くなった作家・城山三郎の次女へのインタビューをまとめたものです。
 日本の文壇に「経済小説」というジャンルを確立した城山氏が娘に戦争を語り出したのは母の死後、『指揮官たちの特攻』を書き終える頃だった。大の軍歌嫌いだったのに、家族旅行先のカラオケルームで軍歌を歌い続けたというエピソードは印象的。もの静かだが硬骨の作家の肉声がひたひたと伝わってくる。
 「残された者のつらさが、痛いほどわかった」。城山三郎が娘に言い残した、生きていく上で大事なこと、「少年志願兵」から「個人情報保護法」まで、父の思いを娘が受け継ぐ……。愛されて育った娘の父に対する愛もあふれた1冊です!

「『戦争漫画』 傑作選Ⅱ」(手塚治虫/祥伝社新書)

2007年09月12日 | Weblog
 手塚漫画の面白さは、時代を経てもけっして色褪せることがありません。あらためて読むと、まず絵の素晴らしさ、ストーリーの絶妙さに驚き、「やはりテヅカって凄い!」と心の底から実感できるはずです。手塚虫治は自らが体験した「戦争」を生涯のテーマとし、繰り返し作品に取り上げてきました。
 本書では、疲れた中年男が同窓会に出席するため、懐かしの校舎を訪ねるシーンから始まる『カノン』をはじめ、おなじみの「ブラック・ジャック」からベトナム戦争を題材にした問題作など、計10編が収録されています。
 日本の漫画遺産のコレクション・シリーズ。第3弾が楽しみです!



「一瞬の風を走れ 第1部」(佐藤多佳子/講談社)

2007年09月07日 | Weblog
 今年は、あさのあつこの「バッテリー」シリーズをはじめ、スポーツ小説が次々と出版され、若者を中心に熱い支持を得ています。
 今回紹介する「一瞬の風を走れ」は春野台高校陸上部を舞台にした陸上青春小説で、2007年「本屋さん大賞」のノミネート作品です。
 主人公の新一と「連」は、特に強豪でもない陸上部に入部した2人のスプリンター。しかし、ひたすら走る……そのことが次第に2人を変え、そして部を変える…。
 今週の初めに知人からこの本を借りた私は、夜の就寝前に少しずつ読み進めましたが、主人公たちにたちまち感情移入し、物語の世界に自分も浸っています。
 これから「第2部」に突入します!

「平凡なんてありえない」(原田宗典/角川文庫)

2007年09月03日 | Weblog
 原田宗典の最新刊文庫。1996年にPHP文庫から上梓されたエッセイ集の復刊なので、同書を読んでいた私は読みながらその内容の一部を思い出しましたが、大半は忘れていたので、新鮮な気持ちで読むことができまなし。本日購入後、2時間あまりで読破。30~40代の男性には共感できるエピソードのオンパレードで、読み始めるとやめられなくなりました。
 ビル掃除、レストランの洗い場、製本所、給油所の洗車係など、学生時代に30種類を超えるアルバイトを転々とした原田氏は、「肉体的にはキツくてカッチョわるかったけれど、身体を酷使してお金を稼ぐ甲斐性のある時代だった」と、当時のしみしみ振り返り、文筆業で稼いでいる現在の自分に後ろめたさを感じています。
 最終章「パパになった日々」では、当時2歳の愛娘と向き合う父親としての原田氏の胸の内が吐露され、思わずホロリとなる箇所も……。
 笑いの中にも、考えさせられるところがある、含蓄のあるエッセイ集です。

☆次回は、佐藤多佳子著「一瞬の風になれ①」(講談社)についてのレビューを掲載します。