THE BOOKハンター!

~〈本の虫〉の痛快読書日誌~

「赤塚不二夫自叙伝 これでいいのだ」(赤塚不二夫/文春文庫)

2008年10月24日 | Weblog
 「これでいいのだ!」の人生観で波瀾万丈の生涯を楽しんだ漫画家の赤塚不二夫さんがなくなって、早2ヵ月あまり。赤塚さん自信が綴った自叙伝が今月、文春文庫で刊行されたので、さっそく読んでみました……。
 旧満州での少年時代、漫画との出会い、伝説のトキワ荘での漫画家生活などのほか、大きな影響を受けた父(おやじ)と母(かあちゃん)との思い出の数々が飾らない文体で綴られており、赤塚さんについて表面的にしか知らなかった私にとっては人間としての赤塚像を知ることができた貴重な1冊でした。
 この自叙伝からは、破天荒な赤塚ギャグの奥深くに息づく「家族」というテーマが見えてきます。また、身障者に対する思いやり(自然に接することの大切さ)や戦後にソ連で捕虜生活を余儀なくされ、極限の世界を体験した元憲兵の父親を持つ赤塚さんの「不戦の願い」なども綴られており、ギャグ漫画の帝王の人間としての温かさも感じました。


「貧乏するにも程がある 芸術とお金の〈不幸〉な関係」(長山靖生/光文社新書)

2008年10月14日 | Weblog
 「下流化」につながると槍玉にあげられる「自分らしさ」という価値観に執着し、その価値観がもたらす幸と不幸、欺瞞と真実について、さまざまな作家や芸術家の生き方を通しながら独自に分析したユニークな1冊です。
 「勝ち組」「負け組」などという言葉に象徴されるように、金持ち(成功者・強者)を勝者とする風潮が高い今の社会の中で、作者は「お金よりも文学、芸術」という考え方もあっていいじゃないかと「弱者」たちを援護し、自分らしさを貫くために損をし、貧乏をしていた作家・芸術家たちにスポットを当てました。そして、豊富な資料をもとに彼らが己の道を貫きながら生き延びた背景に迫ります。この本を読むと、作家や芸術家たちが狡猾に生き残こるために駆使した戦術を知ることができます。

「明治快女伝 わたしはわたしよ」(森まゆみ/文春文庫)

2008年10月14日 | Weblog
 女性ジャーナリスト第1号の清水紫琴、「青鞜」の主宰者平塚らいてう、歌人与謝野晶子、救世軍を支えた山室機恵子、日本初の女医萩野吟子、名女優水谷八重子、大本 教開祖出口なお、情愛の果てに男を殺した阿部定……。
 本書は、一度きりの人生を自分らしく懸命に生きた明治生まれの52人の女性たちの一生を密度の濃い文章で鮮やかに描いた伝記コラム集。女性の知人に勧められて読んでみました。
 52人の女性たちのうち、大半が私の知らない人でした。与謝野晶子や林芙美子など文学関係の人の名はほとんど知っていましたが、この本を読んで新たな発見が多々ありました。特に印象に残ったのは、炭鉱王といわれた伊藤伝右衛門のもとに嫁いだ歌人・柳原白蓮の話です。白蓮が伊藤伝右衛門と再婚し、約10年後に自ら絶縁状を叩きつけて別の男と駆け落ちしたことは知っていましたが、白蓮が女性を人間として扱わない伊藤伝右衛門によって辛い生活をさせられていたということをこの本で初めて知りました。明治はまだ、男尊女卑の考え方が根強く残り、女性が1人の人間として自立した生活を送ることは難しい時代でした。
 この本では、このような時代にも懸命に自分らしい生活を確立しようとした革新的な女性たちを、同性の目で温かく紹介されています。サブタイトルの「わたしはわたしよ」には、男社会の中で「自分らしく」生きた女性だけでなく、現代の女性たちへのエールが感じられます。
 元雑誌編集者だった作者の森さんによれば、アメリカなどでは昔から人の評伝という文学が確立され、清夫などから執筆のための助成金が出るそうです。彼女は日本でも評伝が文学として認められることを願っています。

「永久保存版 世界ウルルン滞在記」(東京放送編/ポプラ社)

2008年10月13日 | Weblog
 人気番組「世界ウルルン滞在記」(TBS系日曜夜10時)が先月、13年半に及ぶ歴史に幕を閉じました。最近は裏番組の情報番組の方を見てしまうことが多かったのですが、「ウルルン」は好きな番組だったので残念です。
 そんな「ウルルン」の集大成といえるのが、この本。山本太郎、原田龍二、成宮寛貴、相田翔子、羽田美智子、永作博美など今までに番組に出演した「旅人」たちへのインタビューや番組の裏話のほか、全放映リスト、スタッフらのコメント、石坂浩二さんがクイズで優勝して番組からもらった土産品、年表など、写真とともに「ウルルン」の歴史をふりかえっています。初回から総合司会を務めた徳光和夫さんと、レギュラーゲストで旅も体験した石坂浩二さんのエッセイが脇に花を添えています。
 家族の関係が希薄に成っている現代の日本人に、家族の絆や人と人との友情の美しさを伝え続けた「ウルルン」。その旅人たちのほとんどが、ホームステイ先の人たちと「家族」のような関係を持ち、番組の枠を超えてプライベートでも関わり続けているそうです。


ハラダ初ライ麦経由ニューヨーク行

2008年10月13日 | Weblog
 世界中のどこにでも連れて行ってあげるといわれた人気作者の原田宗典さんが、初の海外旅行としてアメリカの文豪サリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」の舞台・ニューヨークを主人公・コールフィールドと対話しながら自由に彷徨った体験を、イラスト満載のトラベルエッセイで、おなじみの原田節が全開しています。
 原田さんがニューヨークを訪れたのは、1997年。サリンジャーはニューヨークで孤独を感じたと書いていますが、原田さんは様ザ生トラブルに遭遇するものの、そういう孤独感はなく、逆に紐育から元気をもらったといいます。。その4年後に「9・11」テロが起こる前の、まだのどかさが残る時代でした。原田さんはあの頃よりも人間関係がより希薄なっていると推測しています。
 私もいつかニューヨークに行ってみたいと思っていますが、この本を読んでますますニューヨークへの興味が深まりました。