THE BOOKハンター!

~〈本の虫〉の痛快読書日誌~

「絵小説」(皆川博子/集英社)

2006年09月29日 | Weblog
 本書は、ジャン・コクトーや吉岡実など古今東西の6編の詩をモチーフに、作家の皆川博子とイラストレーターの宇野亞喜良が互いの想像力をかき立て「独特の世界」を作り出したコラボレーション・ブックです。新聞広告に目がとまり、さっそく買って読んでみましたが、この本に納められた小説(物語)と画は、なんとも不思議で奇妙なものでした…。「不気味さ」といった方がいいでしょう。
 収録作品では、苦学して開業医となった暴君的な父、令嬢育ちで冷淡な母、家庭内の不協和音を敏感に察し萎縮し夢想の世界に逃げ道を探す幼い「私」といった皆川の自伝的モチーフが繰り返し用いられています(「赤い蝋燭と」「塔」「キャラバン・サライ」「あれ」)。
 私はこの本に出会うまで、「皆川博子」という作家を知りませんでしたが、いつか彼女の他の作品も読んでみようと思っています。

「SUDDEN FICTION 超短編小説70」(村上春樹・小川高義訳/文春文庫)

2006年09月23日 | Weblog
 SUDDEN(サドン)とは「いきなり」「だしぬけ」「おもいがけない」といった意味。「ぴんと張りつめて、油断のならない」というニュアンスが含まれています。
 この本は、とびきり生きのいい世界一流のショートショート(超短編小説)を網羅した決定版アンソロジー。ヘミングウェイからカーヴァー、ブラッドベリー、さらに本邦初訳の手練の佳品がぎっしり詰まった576ページ。短篇小説の醍醐味が詰まっている嬉しい1冊です(※続編もあります)。

「見たことも聞いたこともない」(原田宗典/光文社文庫)

2006年09月18日 | Weblog
原田宗典の新刊文庫。
 ダサダサのオタク風学生を瞬時にして颯爽とした青年に変身させてしまう〈クール床屋〉、ついニヤけてしまう締まりのない顔を“助六”ばりに引きしめてくれる〈ニヤけ止め〉、そのほか、男専用ブラジャーや酢酸バー、柴犬バッティングセンターなど、この本には考え出すとよくわからなくなる珍製品や珍店舗が次々登場します。
 はじめは、作者自身やその家族が登場するので、実体験を綴ったエッセイ集だと思っていましたが、どうやらエッセイ風の創作小説のようです。
 なんとも言えない不思議な世界に浸った1冊でした!

「しょっぱいドライブ」(大道珠貴/文春文庫)

2006年09月16日 | Weblog
 今年7月の第135回芥川・直木賞では、芥川賞に伊藤たかみさんの「八月の路上に捨てる」、直木賞には三浦しをんさんの「まほろ駅前多田便利軒」と森絵都さんの「風に舞いあがるビニールシート」が選ばれました。私もさっそく読んでみたいと思っていましたが、単行本は値段が高いので、文庫本になるのを待つことにしました。そんな中、過去の受賞作を2冊読んで見ました。
 まずは、128回芥川賞受賞作。さびれた港町で生活する34歳の「ミホ」が、60代のへなちょこ老人と同棲するまでに至る顛末を、哀しくもユーモラスに描いています。

「有頂天時代 三谷幸喜のありふれた生活5」(三谷幸喜/朝日新聞社)

2006年09月10日 | Weblog
 三谷幸喜の人気エッセイシリーズの最新刊が出たという新聞広告を見て、すぐに本屋で買い求めました。そして、半日で一気に読み終えました。
 朝日新聞好評連載の第5弾。今回も、3本目の映画「THE有頂天ホテル」の監督、大河ドラマで役者デビュー、とびの大出血にパソコンのウイルス感染……など、様々な体験にまつわるエピソードか満載。人気脚本家の超多忙な日々がユーモアたっぷりに綴られています。
 この連載も今年で6年目。私は連載エッセイをまとめた「三谷幸喜のありふれた生活」の第1巻を読んでから、たちまち彼の文体と人柄に魅了され、それ以来、ずっとこのシリーズを買って読んでいます(1年に1度のペースで刊行)。
 見るからに口下手で不器用そうですが、なぜかテレビなど人前に出た時は「目立ちたがり屋」のように見える、謎の男「三谷幸喜」。この本を読めば、そんな彼の正体を知ることができます。気取らない、みずみずしい文体には彼の実直さが伝わっていて、読後に爽快感が残ります。
 ビバ・三谷幸喜! やっばり、三谷幸喜はサイコウだ~!!

「十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい。狐狸庵先生の心に届く手紙」(海竜社/遠藤周作)

2006年09月09日 | Weblog
 これは、れっきとした本のタイトルです。
 「狐狸庵先生」として親しまれた作家の遠藤周作の「幻の原稿」が、没後10年に当たる今年の8月に元編集者の仕事部屋から発見されましたが、それが早くも単行本として刊行されました!
 タイトルから見ると、どのようなことが書かれた本なのかよく分かりませんでしたが、本書は、作家になりたての頃の遠藤氏が結核の再発で入院していた時に病室で書きためた原稿の中の1つをまとめたもので、簡単に言えば「手紙の書き方」を若い読者へ伝授した「How to本」。相手に真心を伝える手紙をどうすれば書けるか、そのために何が大切かを、自身の習作体験や恋愛・人生観を交えながら、ユーモアに描いています。文例も豊富に収録されています。
 今の時代からみると、文例の内容に古さをどうしても感じてしまいますが、「相手の心を考えて手紙を書く」ことなど参考になる箇所も少なくありません。

 46年ぶりに発見された「幻の原稿」は、天国の遠藤氏からのかけがえのない贈り物になりました。


「風の食いもの」(池辺良/文春文庫)

2006年09月07日 | Weblog
先月に続いて、戦争にまつわる本をもう1冊。
 本書は、俳優でエッセイストの池辺良氏が戦中・戦後に体験した食べものにまつわるエピソードをふりかえるエッセイ集です。
 戦争前は画家の長男として生活していた著者が日々送った東京の食卓の風景。陸軍に召集され、入営初日に経験した新兵メシ。大陸へ渡り、一兵士として食べた前線での食。戦争末期、フィリピンの小島でのミミズやヤドカリまで食べたサバイバル……。これらの体験は、作者にとって懐かしくもあり、二度と体験したくないものです。
 作者は当時の思い出を生き生きとした文章でユーモラスを交えながら語っているので、私もその場面を頭の中でイメージしやすかったです。
 戦争の記憶が風化され、戦争を知らない世代が増えてきた今、戦時下をたくましく生き延びた池辺氏が戦時中の庶民の暮らしや自身の過酷な軍隊生活の様子を記録した本書は、「記録文学」としても貴重な1冊となるでしょう。

「捜査官 奇妙な面白い凶悪な実録事件簿」(老松太郎/梓書院)

2006年09月03日 | Weblog
 本書は、福岡県警捜査官のOBが第2次世界大戦戦後の福岡県内で起きた膨大な事件の中から、奇妙な、面白い、凶悪な事件を18件紹介し、その事件を解決しようと捜査官たちの奮闘をユーモアを絡ませながら綴った、ユニークな「事件簿」。これを読むと、戦後日本の社会の世相やそこに生きる市井の人々の暮らしなども垣間見ることができて面白い。ほのぼのとした挿絵も楽しめます。
 元捜査官らしく、様々な対策法を詳しく図入りで解説した「家庭の防犯術」を付録しています。