THE BOOKハンター!

~〈本の虫〉の痛快読書日誌~

「夏のこどもたち」(川島誠/角川文庫)

2006年07月31日 | Weblog
 角川文庫のホームページを見ていて、ふと目についたのが、この本です。
この本を読むまで、私は「川島誠」という作家を知らなかったのですが、少年たちの心の内面や生を描いたさまざまな名作を発表しているようです。
 本書には4編の短い小説が収録されていますが、クールで強烈な青春を描いた日本版『キャッチャー・イン・ザ・ライ』ともいうべき表題作は、世の中を冷めた目で見る少年が主人公です。
 かつて、多くの少年たちに衝撃を与えた傑作が詰まった1冊です!

「ほんじょの鉛筆日和。」(本上まなみ/新潮文庫)

2006年07月28日 | Weblog
 NHK「トップランナー」の司会なども務める人気女優の本上まなみさんの最新文庫エッセイ集。新潮文庫からは「ほんじょの虫干し。」以来、2冊目のエッセイ集です。
 作者によれば「鉛筆日和」とは、 どんよりの曇り、じとじとの雨降りの日などの「原稿がはかどる日」だそうです。ぴかぴかのお天気の日に見つけた大切なものや好きな食べ物や料理にまつわるエピソードなど、本上さんは鉛筆でしこしこと書きとめています。
 本上さんといえば「美人、エレガント、クール、自然体、大人の女性」というようなイメージがしますが、大阪生まれ・大阪育ちの根っからの関西人。母親のことを「オカン」と読んだりと、文章の中にも大阪弁がたくさん登場。自身が作った「へもい」(イケているとはいえないが、なんとなく憎めないものに対して使う)という言葉を多用し、その使い方を例をたくさん挙げながら解説しています。
 また、自分のことを「オレ」と表記しているのにはびっくり! 彼女の意外な一面を垣間見ました……。

「ボクの音楽武者修行」(小澤征爾/新潮文庫)

2006年07月22日 | Weblog
 今年も「新潮文庫 100冊フェア」の季節がやってきました……。その中て攻めにとまったのがこの本。立ち立ち寄った本屋のオススメの本らしく、店長のメッセージが書かれた紙が本のところに置かれていました。新潮社のホームページには、「26歳で『世界のオザワ』と言わしめた 中田よりもイチローよりもすごい挑戦」というキャッチコピーが書かれています。
 小澤氏は「外国の音楽をやるためには、その音楽の生まれた土地、そこに住んでいる人間をじかに知りたい」と24歳の時、スクーターでヨーロッパ一人旅に向かいました。本書では、出国時のことから、ブザンソン国際指揮者コンクール入賞、カラヤンやバーンスタインに認められてニューヨーク・フィル副指揮者に就任するまでを、若者らしいみずみずしい文章でユーモアたっぷりに綴られています(本書は作者が27歳の時に音楽雑誌に連載したエッセイをまとめたもの)。
 今は小澤氏は「世界のオザワ」とよばれる世界的な指揮者の地位を不動のものにしていますが、この本を読むと、若い時代の小沢氏の考えや優しい人柄などがよく分かり、彼の「原点」を知ることができました。

「 I LOVE モーツァルト」(石田衣良/幻冬舎)

2006年07月19日 | Weblog
本屋さんで偶然、目に入った「モーツァルト」という文字。現在、モーツァルトフリークの私は、思わず手をとってみました。
 黄色の表紙に、モーツァルトの顔写真が大きく印刷された、目立つ装丁。「池袋ウエストゲートバーク」シリーズが大人気、ワイドショーのコメンテーターなども務める直木賞作家の石田衣良氏が書いた本だったので、迷わず買って読むことにしました! 私は来月、福岡市で開かれる「モーツァルト生誕250周年 BEST 100コンサート」を聴くことにしているので、それまでにモーツァルトについての知識をより深めておきたいと思ったからです。
 「ポップスを聴くように、カジュアルに楽しもう」という視点から書かれたこの本は、心のキャンパスを広げる音、快活で明解なテンポ感、聴き手の心をグリップする力などを兼ね備えたモーツァルトの名曲の数々を紹介し、モーツァルトの謎について、石田氏は熱く、熱く、語っています。
 前半のエッセイでは、石田氏のクラシックとの出会いからモーツァルトのファンになるまでの経緯を、自身と文学、作家としての創作過程など体験談も盛り込ませながら綴っているので、音楽ファンにも文学ファンにも十分楽しむことができる「一石二鳥」の本でした。特に、今までクラシックとは縁のなかった若い人たちにオススメの1冊です。
 まだ、開封していないのですが、本には石田氏がセレクションしたモーツァルトの名曲10曲を収録したCDも付いています。
 そのほか、モーツァルト好きの著名人によるミニエッセイも併録。これで、税込み1300円とは・・・・・なんだか得をした気分です!

★次回は、小澤征爾の「ボクの音楽武者修行」(新潮文庫)を紹介する予定です。

「号泣する準備はできていた」(江國香織/新潮文庫)

2006年07月15日 | Weblog
 直木賞を昨年受賞した江國香織さんの「号泣する準備はできていた」が今月、新潮文庫として発売されたので、さっそく読んでみることにしました。
 濃密な恋がそこなわれていく悲しみを描く表題作のほか、17歳のほろ苦い初デートの思い出を綴った「じゃこじゃこのビスケット」など全12篇の連作小説集です。
さまざなな場所で生きる、さまざまな顔を持つ、さまざまな問題を抱えた、さまざまな女たちが主人公である連作小説は、作者自身、いろいろな食べものが楽しめる幕の内弁当のような作品集にしたと「あとがき」の中で語っています。
 彼女の小説に出てくる女主人公たちは、一見弱そうですが、実は心はとても強く、たくましい人ばかり。作品中のいたるところに、家族の描写や主人公の生活描写など彼女の実体験と思われるところが見受けられます。

爆笑問題の「文学のススメ」(爆笑問題/新潮文庫)

2006年07月14日 | Weblog
 このところ、硬派で厚めの本を続けて読みましたが、そこで少しリラックス。本屋で読みやすくて面白そうな文庫本を2冊買いました。
 いずれも新潮文庫の新刊で、まず読んだのがこの本。私が好きな漫才コンビの爆笑問題の対談集です。
 現代の人気作家をスタジオに呼んで、爆笑問題とタレントの真鍋かおりが楽しいトークを繰り広げる深夜のテレビ番組「爆笑問題のススメ」の内容を未公開部分を含めてまとめた本書は、平野啓一郎、倉田真由美、江川達也、中村うさぎ、団鬼六など9人の作家(+AV男優)との対談を収録。コンプレックス、勝敗、欲望、ロマンなどなど、文学の真髄(?)にかかわるテーマについて、作家たちと本音で語り合っています。

 実際の会話をそのままの対話形式で書かれているので、読んでいるとその場の臨場感がもろに伝わってきます。爆笑問題(特に太田の「ボケ」が最高!)のアイロニーを絡ませた「ボケ」と「ツッコミ」もそのまま文字化されているので、読みながら笑いを断じることができませんでした。
 また、芸能界屈指の読書家・児玉清さんと爆笑問題の対談コラム(読書ガイド)もついていて、読書家を満足させる内容になっています。笑って、学べる「平成の新文学入門」。

「失われたアイデンティティ ~内と外から見た日本人 隠された歴史を求めて」(光文社/ケン・ジョセフ)

2006年07月11日 | Weblog
 前回は田口ランディさんの「根を持つこと 翼を持つこと」という本を読みましたが、それに続けてこの本を読んでみました。ランディさんの本を読む前に、本好きの知人からお借りしていたものです。分厚いペーパーバック型の本で、はじめはどういう本なのかよく分からなかったのですが、いざ読み始めてみると、とても面白い本でした。そして、この本とランディさんの本に書かれていることの中に共通点を見つけたのです! それは、両者が今の日本人に必要なものに「自分や先祖のルーツを知ること」と「大志(意識)を持って自由に飛ぶこと」を挙げていたことです。
 本書の作者であるケン・ジョセフ氏は、東京生まれ。1979にロサンゼルスに、1989年に東京に国際ボランティア組織(JET)を設立し、現在は「日本緊急援助隊」を組織して世界各地の被災地でボランティア活動を続ける傍ら、米国のテレビのコメンテーター、新聞・雑誌のコラムニストとして活躍しており、キリスト教宣教師として太平洋戦争後に来日した父の影響から景教研究家としての著作も発表しているとういことですが、本書を手にするまで私は彼について何にも知りませんでした。
  「人間は自分が何者か知らないと何をすべきか分からない!」という持論を持つ彼は、今の日本人が元気がないのは、日本人が自分たちのルーツを見失ってしまったからであると分析し、これまで自分たちのアイデンティティについてまったく無頓着で、学校で習った歴史を本当の歴史と勘違いしている日本人に警告を発しています。
 本書では、「日本は単一民国家ではなく、多民族国家である」「キリスト教は仏教以前に伝来していた」「神道にはキリスト教が混入している」「日本人は本来の仏教徒ではないなど、多くの日本人が知らない隠された歴史について、数々の資料や実例を紹介しながら述べています。また、国内外の被災地へボランティア活動に行った時に見たり体験した日本の外務省など役人の心ない傲慢な態度や発言などを紹介し、"お役人"の民間人との考え方のギャップ(温度差)を強く批判し、嘆いています。
 もちろん、本書に書かれていることは、あくまでも作者の独自論であり、いささか過激すぎると思われる意見も見られ、すべてを鵜呑みにすることは危険だと思います。しかし、ほとんどが私が知らなかったことばかりで、かなりの衝撃を受けた本でした。本書を読んで、多くのことを反省させられました・・・。

「根をもつこと、翼をもつこと」 (田口ランディ/新潮文庫)

2006年07月08日 | Weblog
 人気作家・田口ランディの最新文庫エッセイ集。「この世界は複雑だけど、いつも自分の頭で考えて生きていたい。矛盾や疑問に簡単に答えを出さずに、もっと深く考えよう。必要なのは自由に夢想する力と、歴史とつながるルーツを感じる心」という作者が、広島、放射能事故、幼児虐待、未成年犯罪、水俣病、薬害エイズ、舟送り、呪い、屋久島の詩人……など、日常の中で感じたことや人々との出会いの感動を飾らない言葉で、真剣に、ストレートに、アイロニーを絡めながら綴っています。(文庫のために書下ろしたエッセイも収録)
 私が彼女の本を買ったのは、3年前のエッセイ集「できればムカつかずに生きてていきたい」以来。「田口ランディ」という作家の名前を知った当時は、性別をはじめ、どのような作風の人なのか検討が付かず、男女のドロドロした物語(?!)を書く人かと思っていましたが、その本を読んで彼女に対するイメージが大きく変わりました。
 彼女は、常に世の中の動きに敏感で、それらの事象についてよく分からなくても、分かったようなことは決して書かず、素直に自分の無知を認め、人の話に耳を傾けながら、面と向かって自分なりに真剣に考えています(その意見が必ずしも良心的でない点がおもしろい!)。彼女の座右の銘は「がんばらない。あきらめない。分かったふりをしない」ということですが、私も同書を読んで、物事に対する見方や考え方が変わったような気がします。
 私は今回、タイトルの響きが気に入ろって同書を読んでみたいと思いました。「根をもつこと」と「翼をもつこと」は一見対称的ななもののようですが、作者によれば、同じもの。「根」はルーツ、「翼」は意識、想像力などを意味しています。この2つを持っていれば、人間は誰でも生きていくことができるという作者のメッセージが、この本の収録作すべてに込められています。