THE BOOKハンター!

~〈本の虫〉の痛快読書日誌~

「千の風になって ちひろの空」(新井満・岩崎ちひろ/講談社)

2007年10月31日 | Weblog
 先日、お世話になった女性の葬儀で参列者に配られたのが、この本です。
 大切な人を亡くした時、悲しみをこえて生きる勇気を与えてくれる詩『千の風になって』に、いわさきちひろの絵が付けた詩画集。ちひろさんの鮮やかな色彩で描いた絵と『千の風になって』の詩が見事に合っています。
 どことなく悲しみを漂わせている表紙の絵。巻末に収録されている作家の新井満さんのエッセイには、少年時代に亡くした父との思い出や『千の風』に出合って人生観が変わるまでの経緯が書かれており、胸を打たれました。
 大切にしたい1冊です……。

「手塚治虫漫画傑作選 瀕死の地球を救え」(手塚治虫/祥伝社新書)

2007年10月26日 | Weblog
手塚治虫の代表作を紹介する第3弾。
今回は、「環境破壊」を主題とした多くの作品を通して危機を繰り返し警告した手塚に着目し、公害問題の恐怖を描く「うろこが崎」、自然の復讐を描く「ブラックジャック」など自然への思いがあふれる作品を収録しています。
 漫画家・いしかわじゅん氏の「あとがき」によると、手塚は生前、自分がヒューマニストと呼ばれることを嫌っていたといいます。手塚漫画=平和と正義=ヒューマニズムという短絡的な評価を手塚は否定し続けました。
 この本に収録された名作の数々を読んでいると、ヒューマニストを超えた手塚の現代人への深いメッセージ(警告)を理解することができます。

「しゃべれどもしゃべれども」(勝田文・佐藤多佳子/白泉社)

2007年10月25日 | Weblog
 最近は「落語ブーム」のようです。大阪には落語寄席が復活し、NHKで現在放送中の朝の連続テレビ小説「ちりとてちん」も、プロの落語家を目指すヒロインの物語です。
 さて、今回読んだ本は、前回紹介したベストセラー「一瞬の風を走れ」の作者・佐藤多佳子さんの長編小説で、TOKIOの国分太一主演で今年映画になった作品です。1997年度「本の雑誌」ベスト10の第1位に輝いています。
 情緒あふれる東京の下町を舞台に、1人の落語家のもとに集った吃音があって人前で話すことが苦手な青年、口下手な美女、同級生に馴染めない関西弁の少年、毒舌の元野球選手らの人間模様がさわやかに描かれています。
 登場人物たちはそれぞれ、自分の好きなものや人を持っていますが、自分に自沈が持てず、四苦八苦しています。そんな彼らに共感し、漫画を読みながらエールを送っている自分がいました。
 巻末には、落語によく出るキャラクターの解説や作品中に登場する落語の小噺のあらすじも紹介されていて、これまで落語に関心のなかった私も、落語の世界をもっと知りたくなりました……。

「ジョン・レノンを信じるな」(片山恭一/小学館文庫)

2007年10月25日 | Weblog
 1980年10月8日、ジョン・レノンは、ニューヨークの自宅マンション前で凶弾に倒れた。そしてその年の冬、「僕」は8年間付き合っていた恋人を失った。世界がたちまちモノクロームに変じてしまったような喪失感の中で、「僕」は同じ大学に通う新しい女性に出会うが、それは匿名の誰かの恋を代理したようなリアリティに欠けたものだった。そんなある日、僕はある出来事に遭遇する。22歳の恋と喪失、そして、その先にあるものとは……。
 本書は、ベストセラーになった「世界の中心で、愛をさけぶ」の作家の原点とも呼べる初の小説を文庫化したもので、2年前以上に刊行されました。その時、私はすぐに買って読みましたが、このたび再び読み返してみることにしました。
 大学紛争の時代を知る人たちには懐かしく、若い世代の人たちには新鮮に思われる舞台設定。魅力あるプロットに引き込まれて、一晩で一気に読み終えました。
 ジョン・レノンの命日が近づくこの時期にうってつけの1冊です!


「詩小説」(阿久悠/中公文庫)

2007年10月23日 | Weblog
 ポップス・演歌からアニメソングまで、数々の歌謡曲を世に送り続けた作詞家の阿久悠さんが8月1日に70歳で亡くなりました。
 私は子どもの頃から阿久さんの歌に親しみ、彼の歌詞のすごさに驚いていました。緻密な資料やメモをもとに作詞をしていた阿久さん。彼は主人公の年齢、職業、性格、家族構成など、自作のストーリーを具体的に頭の中で組み立てていたといいます。私はテレビで以前、歌詞に使えそうな言葉がびっしりと書き込まれている彼の手帳を見たことがあります。
 阿久さんの歌詞に出てくる人物は、大人っぽくて、都会的な人が多いようです。自立した女性がスタスタと前向きに歩いていく様を彼は歌にしました。
 また、彼が書く歌詞は、聴衆の想像力を豊かにしてくれます。「最近の歌はストーリー描写を説明しすぎるため、人々の想像力を低下させている」と彼は晩年、テレビのインタビューで嘆いていました。 
 そんな阿久悠さんの想像力の豊かさを味わおうと、買ってみたのがこの本です。
ひかれあい、わかれゆく大人の男と女の風景……。時代を鮮やかな言葉で切り取ってきた著者が、自身の「詩」にのせて綴る28の短篇小説集。第7回島清恋愛文学賞受賞作です。
 その物語の1つ1つを読んでいくと、私には到底想像できない「阿久悠ワールド」を堪能することができます。

「一瞬の風を走れ」第2部 ヨウイ/第3部 ドン(佐藤多佳子/講談社)

2007年10月23日 | Weblog
 部長になった新二とエースの連。春高陸上部の仲間たちとのハードな練習の向こうに見据えるのは、このメンバーで、インターハイに行くということ。全てはこのラストのために……。
 しばらく読むのを中断していましたが、ようやく最後まで読み切ることができました! 
 ドキュメンタリータッチで、インターハイでの優勝のためにチーム一丸となって頑張ろうとする生徒たちと、彼らをそばで励ましながら支える監督の心理や葛藤、息遣い、その周りの風景がこれでもかというほど詳細に描写されていて、物語を読みながら、まるで自分も主人公のそばにいるような感じでした。
 全巻あわせて約800ページに及ぶ長編でしたが、読後はすごく爽やかです。いままで読んだスポーツ小説の中ではダントツ1位でした!


「本の読み方 スロー・リーディングの実践」(平野啓一郎/PHP新書)

2007年10月16日 | Weblog
 私の住む北九州市出身の芥川賞作家・平野啓一郎氏が、「速読」がもてはやされる現代に警告を鳴らし、「遅読」=スロー・リーディングこそが人生を豊かにさせ、学校や会社でも本領を発揮することを分かりやすく説いた画期的な1冊です。帯の「作家が読むと、本はこんなに面白くなる!」というコピーに惹かれて、買ってみました。
 「10冊の本を闇雲に読むよりも、1冊を丹念に読んだほうが、人生にとってはるかに有益である」。著者は、情報が氾濫する時代だからこそ、スロー・リーディングを提唱。夏目漱石『こころ』や三島由紀夫『金閣寺』から自作の『葬送』まで、古今の名作を題材に、本への線の引き方・書き込み方など、本の知識を体得する実践的な手法の数々を紹介しています。