THE BOOKハンター!

~〈本の虫〉の痛快読書日誌~

「花の名前 向田邦子漫画館」 (柴門ふみ/新潮文庫)

2006年03月06日 | Weblog
 ドラマ「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」などを手がけ、生放送やギャグ満載の演出で高視聴率を稼ぎ、名物プロデューサーとして知られた演出家の久世光彦氏が2日に亡くなられたというニュースを聞いて、私は強いショックを受けました。久世氏はTBS退社後はフリーの演出家になり、向田邦子さん脚本・原作のドラマを数多く作ってこられました。また、映画や舞台でも活躍されました。
 私は以前から向田邦子さんの作品が好きで、「思いでトランプ」「父の詫び状」「冬の運動会」など数々の著書を読んでいます。
 そんな中、本屋の棚の中で見つけたのが、同書。恋愛漫画の名手・柴門ふみ(現在放送中の大人気ドラマ「小早川伸木の恋」の原作者)が、男と女の機微、人間の優しさ、弱さを書き続けた向田邦子の世界を鮮やかに描き出したもので、珠玉の9編が収められています。
 不妊に悩む女が出会った思いがけぬ誘惑と甘苦い結末を描く「嘘つき卵」。隣りの部屋の男と女の声に耳をそばだてる若妻が禁断の恋に踏み出す「隣りの女」。生真面目な夫がいつか狡猾で強かな男に変貌する「花の名前」……。誰もが身の裡に抱き込んでいる危うさや脆さを描き切った向田邦子さんの名短篇の世界が、柴門ふみの漫画で鮮やかに甦っています。
 その巻末に、柴門さんと久世氏との対談が収録されており、向田作品を映像化することの難しさやその工夫などを語られています。
 久世氏がなくなった今、日本のドラマ界はどうなっていくのでしょうか? 今年、予定されていた「時間ですよ」の復活が実現されないのは残念なことです。
 久世氏のご冥福を心からお祈りいたします……。