THE BOOKハンター!

~〈本の虫〉の痛快読書日誌~

「わたしが正義について語るなら」(やなせたかし/ポプラ社)

2010年10月25日 | Weblog
 アンパンマンの生みの親・やなせたかしさんが、思春期を迎える未来のおとなたちに伝える「正義」の話。ストレートなテーマを、真摯に、実体験を交えて語りかけます。

 やなせさんは序章で「人生には、後から考えると分かることがたくさんあります。中学生くらいの時には、正義についてなんて何も考えていませんでした。(略)でも、アンパンマンを書くようになって、ぼくがはっきりと伝えたいと思ったのは本当の正義だったのです」と書いています。

 やなせさんはこの世の中に必要悪もあるとした上で、自らが考える「正義」について詳しく説明。「自分の仕事」を得るための心構えなども伝授しています。

 各界の著名人が「未来の子ども」に生きるための指南を語るポプラ社のシリーズは昨年9月に創刊されました。私は偶然見つけて、面白そうだったので買ってみましたが、大人が読んでも十分楽しめます。

「モネの庭へ ジョヴェルニー・花の桃源郷」(南川三治郎/世界文化社)

2010年10月25日 | Weblog
 日本で数多くのファンをもつクロード・モネ。ほとんどのモネの作品を生み出したジヴェルニーにあるモネの家、モネの庭だけに初めて焦点をあてたモネファンならずとも必見の1冊。美しい庭&絵画の写真と文章でモネの生涯を綴っています。

 パリに生まれたモネは、1870年の普仏戦争勃発以降、ロンドン→パリ→アルジャントゥイユと住まいを点々としますが、ヴェトゥイユからポワシーへ移る間、彼の家庭生活には大きな変化がありました。モネのパトロンだった男性が破産し、債権者から逃れるため、5人の子どもと身ごもった妻とを残してフランス国外へ逃亡したのです。1878年、モネは彼の妻と6人の子どもを引き取って共に暮らすことに。モネの妻カミーユには1878年3月に2人目の子であるミシェルが生まれたばかりで、モネは合計10人の家族を養っていくことになりました。モネは大家族を引き連れて、終の住処として「芸術村」のジヴェルニーに移り住み、ここでたくさんの名画を生み出しました。

 私は「モネ」というと、繊細で淡いタッチの画風、自身の庭にある池に浮かぶ睡蓮を描いた連作がある……などのイメージを持っていましたが、荒くて力強いタッチで描かれた作品も見られ、彼の技量の幅広さを感じました。

 また、モネが風景画に徹し、村人の姿を決して描かなかったことや、モネが広い土地を購入して「睡蓮の池」を造ったこと、村の原風景やモネの庭が今も守られていること、日本への関心が強く、浮世絵のコレクターだったことなどを知ることができました。

★北九州市立美術館・本館(戸畑区)では10月9日から11月28日まで「モネとジヴェルニーの画家たち」展が好評開催中! (本書は会場の売店で購入しました)

「ピーターラビットのおはなし」 (ビクトリアス・ポター/福音館書店)

2010年10月25日 | Weblog
 子どもから大人まで、世界中の人々から愛され続けている「ピーターラビット」の物語。2006年には、生みの親であるビアトリクス・ポター(1866~1943)の半生が「ミス・ポター」として映画化され、私も見たことがあります。でも、私はこれまで彼女の作品を読んだことがなく、下関市立美術館できのうまで開催されていた「ビアトリクス・ポター展 ~イギリスの自然を愛し、ピーターラビットを生んだ画家~」展へ足を運んで、今回初めて「ピーターラビット」の世界に触れました。

 イギリス・ロンドンの裕福で厳格な家庭に生まれたポターは、幼少の頃から絵を描くことが大好きで、飼っていた様々な小動物や、 避暑地として訪れた自然豊かな湖水地方の風景、そこで目にした動植物や昆虫をスケッチし、水彩で描いていました。それらの絵画はいずれも対象を正確に写実するという博物学的な探究心に裏打ちされていたのです。ピーターラビットをはじめとする愛らしいキャラクターや魅力あふれる絵本は、こうした丹念な自然観察と自然への深い愛によって生まれました。
 
 1893年9月4日にビアトリクス・ポターが元家庭教師の息子に宛てた絵手紙が原型の「ピーターラビット」の物語は、1902年の「ピーターラビットのおはなし」から全23作。シリーズの累計発行部数は、全世界で1億5千万部を超えています。

 本書は、ポターがかつての家庭教師の幼い息子、ノエル・ムーアに出した絵手紙を、本にして出版するために書き直したものです。

「ピーターラビットの世界」(吉田新一/日本エディタースクール)

2010年10月25日 | Weblog
 世界中で愛されている「ピーターラビットの絵本」。本書は、その物語世界に分け入り、作者のビクトリアス・ポターの生涯を辿り、絵本そのままの村々を周遊して、多数の図版とともに、この愛すべき絵本の魅力と背景を描き尽くしています。

 作者の吉田新一氏は、日本におけるビクトリアス・ポター研究の第一人者。この本では、何度もポターの故郷に足を運んで、たくさんの関係者を取材した吉田氏ならではのとっておきのエピソードが随所に紹介されていて、興味を注ぎました。

 ポターは創作活動の傍ら、野生動物に触れ合いながら田園生活を続けました。彼女が作り出すピーターラビットの作品には、地元の自然や町並みなども随所に描かれており、地元の人たちを楽しませていたといいます。

 子どもの頃に湖水地方で休暇を過ごしていたポターは1905年から定住し、30年に『ピーターラビットのおはなし』シリーズから得た収入で広大な農地を購入。彼女は自分の土地が永遠に未開発のまま残るように、ナショナル・トラストに譲渡しました。だから、「ピーターラビットの絵本」に出てくる村や街の風景の多くが今もそのままの形で残っているのです。

 この本を通して、ポターとその絵本の世界にどっぷり浸かることができました!

「絵本が語りかけるもの ピーターラビットは時空を超えて」(三神和子・川端康雄/松柏社)

2010年10月25日 | Weblog
 18世紀英国の「チャップブック」からコールディットやクレインら19世紀ヴィクトリア朝の絵本、20世紀は『くまのプーさん』やロベールの『ふたりはともだち』、更に日本の名作『ぐりとぐら』シリーズまで、国内外の名作絵本を取り上げた野心的な論集。東京女子大学で開かれた学術大会の発表内容をまとめたもので、とても勉強になりました。

 ピーターラビットの絵本の魅力のみならず、中世の子どもたちはどんな本を読んでいたのか、児童書がどのようにして生まれ、どのように発展していったのか、日本ではどのように普及されたのか……など、児童書の歴史も詳しく書かれており、多角的に「絵本」の世界について学べます。

 この本は先月、下関市立美術館で開催されていたビクトリアス・ポター展の売店でいちばんに見つけたもの。少々値段が高かったのですが、買ってよかったと思っています。

「いろはにホテル ホテルのおもしろ百話&おもしろ人生」(小石川とくすけ/新洸アート)

2010年10月25日 | Weblog
 この本は、数々の有名ホテルの支配人などを歴任した作者が自らのホテルマン人生をとっておきのエピソードをふんだんに紹介しながら振り返った回顧録(自費出版で、今はもう絶版になっていると思います)。私は8年前に京都のホテルの売店で購入しましたが、長い間、本箱の中に眠らせていました。 

 高齢者によく見られる文章の書き方で、支離滅裂な個所も多いため読みにくいものの、日本のホテル業界の歴史や裏話も知ることができ、面白かったです。

「未来創造―私の発想法」(松本零士/角川oneテーマ21新書)

2010年10月25日 | Weblog
 「宇宙戦艦ヤマト」「銀河鉄道777」など独自の世界観を持つSF漫画家の松本零士氏が9月、「未来創造~私の発想法」(角川oneテーマ21新書)というユニークな本を出しました。松本氏といえば、私が卒業した県立高校の先輩(なんと、私の自宅から三軒隣に、松本氏の親せきの家があります!)。私はこの本の広告を見て、すぐに本屋で買い求めました。 

 松本氏は本書で、今の日本人に欠けている「夢を思い描く力」と「それを形に変える技術」について、自身の体験を基にあますことなく公開。人類の未来を予見し、物語として形に変えてきた著者による宇宙レベルの「発想」と「創造」の技術は、大いに参考になりました。福岡・小倉から目指して上京し、手塚治虫氏のアシスタントをしながらプロの漫画家としてデビューするまでの時代を回顧した文章も、興味をそそる内容でした。また、松本氏は姉の影響で子どもの頃から少女漫画や少女小説を愛読しており、それが松本漫画のキャラクターに大きく影響していることも知りました。

 この本を読んで感銘を受けたことは、松本氏が筋金入りの「平和主義者」だったこと。戦艦や戦闘機がよく登場する松本漫画とのギャップに驚かせられました。
 
 「宇宙開発の目的は平和利用に限れ」「宇宙戦争はあり得ない」「他国に行けば、その国の人たちの考え方や文化を尊重せよ」「世界中に読者がいるので、政治、宗教、思想などの話題は漫画に盛り込まない」「ライバルはいない。みんな仲間だ」「社会の中で決して相手を蹴落として、自分だけが這い上がろうとしてはいけない。そうすれば、逆に自滅してしまう」……など、松本氏のメッセージの根底にはすべて「平和」的な考えが流れています。

 また、漫画家を目指す若者のために、漫画家の仕事内容や漫画家としての心得を丁寧に紹介。その中で松本氏は「創造を膨らます」ことも大事だが、何よりも「本物に触れて実感せよ」と強調しています。70歳を超えても好奇心が衰えない松本氏のいちばんの趣味は「旅」。興味あるものがあれば、世界各地、どんな秘境にも実際に足運ばずにいられないそうです。

 人間はいくつになっても好奇心を絶やしてはいけない――。

 私はこの本から多くのことを学びました。

「スヌーピーの聖書のはなし」(ロバート・L・ショート/講談社)

2010年10月25日 | Weblog
 家の近くにある大型ショッピングセンター内の本屋さん。私の行きつけの店ですが、先日、初めて奥の専門書コーナーに足を延ばすと、キリスト教の棚を発見。その充実ぶりに驚いてしまいました。そして、この1冊の本に目がとまりした。

 全米で1000万部突破の名著を訳した本。聖書のたとえ話や罪と罰、不安と恐れ、愛と信仰といったポピュラーなテーマをとりあげたマンガを紹介しながら、その隠れた意味を解き明かしたユニークなもので、聖書の入門書として楽しく読むことができました。

 チャーリー・ブラウンが失敗をくり返すのには、深い深いわけがある!? ルーシーがしあわせになれない本当の原因は? ライナスの毛布が意味するものは?……その本の筆者によると、どれも聖書的な意味が込められていたのです。

 「ピーナッツ」の作者であるチャールズ・М・シュルツは、「マンガの中に何も意味をこめないのなら、むしろ何も描かないほうがましだ。含みのないユーモアには、値打ちなどない」と語っていました。

 スヌーピーが誕生して今年で60年。私はこれまでこの漫画を読んだことがなかったのですが、この本を読んで「ピーナッツ」についての理解を深めました。

「姑娘(クーニャン)」(水木しげる/講談社文庫)

2010年10月25日 | Weblog
 中国侵略の途上、日本軍のある部隊が山村にいた若い美女「姑娘」を見つけ、捕虜にしてしまいました。でも、姑娘と出会ってしまったことで、分隊長と上等兵の運命は予想もしなかった方向へ進んでいきます……(表題作)。

 そのほか、戦艦大和艦長・有賀幸作の苦悩を描いた「海の男」など4作品が収録されています。

 NHKの朝の連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」が大ヒットし、これにあやかって水木氏の過去の作品が次々と復刊されていますが、この本もその中の1つ。私は商業ペースに乗っているなぁ……と思いつつ、それでも水木氏の本を見ると思わず手が伸びてしまいます。

 その引きつけられる魅力とは何か? その答えは本の中にあります。。。

「敗走記」(水木しげる/講談社文庫)

2010年10月25日 | Weblog
 昭和20年2月、米軍に包囲されながらも、日本軍は必死に戦っていました。押し寄せる物量の前に徐々に攻略され、やがて弾薬も食料も尽き、決断の時が迫ります。玉砕か、降伏か……?

 水木氏は、このような中で生きる兵士や軍人たちの姿や心の葛藤を漫画でリアルに描き、戦争がいかに愚かな行為であることを伝えています。表題作のほかに、5編の中編も収録。8月に復刊され、すぐに品切れになった話題の本です。