ここではないどこかへ -Anywhere But Here-

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町長選挙/奥田英朗

2006-12-29 23:42:14 | 
年の最後は笑えて痛快、スカッと終わりたいなということで、伊良部総合病院の精神科医師、伊良部一郎先生に登場願った。

「町長選挙」は「イン・ザ・プール」、直木賞を受賞した「空中ブランコ」に続く、伊良部シリーズの第3弾。
ただし、今回は実在の人物をモデルにしたということで新境地を開いた。
とにかく痛快なので、この際モデルになった人物を実名で紹介しようと思う。

権力の座にしがみつこうとするあまり、自らの死を恐れる新聞社の老会長、ナベマンこと田辺満雄はもちろんナベツネがモデルの「オーナー」。

アンポンマンこと安保貴明はIT長者でテレビ局の買収をもくろんでいる。
しかし、世の中のすべてを理詰めでばかり考えてそうでない世間を見下し、
デジタル思考で考えているうちに平仮名が書けなくなってしまう。
「アンポンマン」は「ホリエモン」がモデルだ。

40代に入っても自然な若さが売りの女優、白木カオルはライバルで同世代の女優、川村こと美には見栄を張り自然体を装ってみせるが、
その裏で必死のダイエットや美容法を続けるうちにそれが高じて過剰な行動に出てしまう。
白木カオルは黒木瞳で、川村こと美はもちろん川島なお美であろう。
売れっ子女優の舞台裏を描くのは「カリスマ」。

とにかく権威とか権力というものをこき下ろすから胸がすく。
しかし、それだけではなく著者の登場人物たちのへの視線に温もりがある。
そうやって肩肘を張らなくても、もっとシンプルに考えれば人生楽しいのに・・・、
ということを破天荒で精神年齢の著しく幼い伊良部医師を通して語りかける。

そして「町長選挙」ではそうした伊良部医師の人間的な魅力に初めて触れる。
伊良部シリーズの集大成とも言うべき作品だ。

とにかく多くを語る必要はない。カタルシスとでもいうべきこの本で、今年の垢を落としたい。
本当に大切なことは余計な虚飾をそぎ落としたところにあるものだ。


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