ここではないどこかへ -Anywhere But Here-

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父さんが言いたかったこと/ロナルド・アンソニー

2008-01-23 06:11:46 | 
多くの場合親子が時として分かり合えないのはジェネレーションが違うからだと思うが、とりわけ歳を取ってからの子というのは、難しいのだろう。
しかも上の子との歳の差があればなおのこと、親も末っ子との関わり方は難しいものがあると思う。

83歳になるミッキーは妻に先立たれ一人暮らしを続けている。ところがある日目を離したキッチンからボヤを起こしてしまう。
4人の子どもはそれぞれに独立しているが、兄弟はこのボヤ騒ぎをきっかけに年老いた父をこのままにしておく訳には行かないと集まる。
そしてミッキーをケア付き住宅に入れたらどうかと、兄姉たちの意見がまとまりそうになったとき、
歳の離れた末弟のジェシーが突然ミッキーと一緒に暮らしたいと言い始める。

こうして歳の離れた父と子の同居生活が始まる。
食事に始まりコーヒーの好み、果てはテレビの音量に至るまで二人はさまざまな生活スタイルの違いに戸惑いながら一つ屋根の下で生活していく。
年寄り扱いをして欲しくない父と、若さゆえ父と歩み寄れないことを苦々しく思う息子。
そんな二人の関係に変化をもたらしたのがジェシーの恋人マリーナだった。

マリーナはとてもすばらしい女性で、ジェシーはこのまま二人の関係が続いていけばいいと思っている。
一方でジェシーは過去の体験から恋愛はいつか変質していきいずれは終わりが来るものだと思っている。
だから結婚という見える形でのゴールを目指してはいない。恋愛に明確な形を与えることには臆病でもある。
マリーナを息子のパートナーとしてかけがえのない存在だと看破したミッキーは、そんなジェシーの考え方が気に入らない。
そんなジェシーにミッキーは一計を案じ、自らの古い過去をぽつりぽつりと語り始める・・・。

物語は淡々とシンプルに進んでいく。ジェフとミッキーの親子のありようも、ジェフとマリーナの日常の会話もごくありふれた日常の風景だ。
しかし、ミッキーの昔語りは静かな湖面に小石を投げ入れたときのようにそれぞれの心のありように静かに作用していく。
年老いた父が若い息子に残そうとしたもの・・・・。

物語が静かに流れていくように感じるのは、それが私たちにも通じる普遍的な問題だからだ。
親子の問題、男女の関係、仕事やお金の問題・・・。
縦糸に親子を、横糸に恋愛を絡ませたストーリーはだからことさらロマンティックに流されずに描かれている。
終盤は恋愛小説の体をなしていささか劇的なラストを迎えるが、それは物語の構成上予想される範囲のもので大きな破綻はない。

人は何かに折り合いを付けたり、自らを納得させようとする場合でも総じて少しずつ淡々と収まるべきところに収まっていくような気がする。
つまりのところ「父さんが言いたかったこと」もそんなことなのではないか。


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