Manaboo 電子政府・電子申請コラム 

電子政府コンサルタントの牟田学が、電子政府・電子申請、その他もろもろ、気まぐれにコメントしてます。

Web 2.0 で国民が作る電子政府へ

2009年09月02日 | 海外の事例・資料
アクセンチュアが、Web 2.0 Collaboration Tools for the Next Generation of Public Serviceというレポートを公開しています。

関連>>アクセンチュア、Web2.0がもたらす次世代の公共サービスに関する調査結果を発表(日本版プレスリリース)

「Web 2.0」という言葉自体は、日本でもあまり聞かれなくなりました。

けれども、より双方向性やリアルタイム性が高いサービスを低価格または無料で利用できるようになったことで、市民による行政参画の可能性が高まり、今までになかった新しいタイプの公共サービスが生まれつつあります。

政権交代が実現した現在、双方向性の高い情報公開を促進することで、新しい政策への理解や支援も得られやすくなるでしょう。

参考>>Open Government InitiativeRecovery.gov (American Recovery and Reinvestment Act of 2009)New York City's comprehensive Citywide Performance Reporting (CPR)


電子政府サービスが成功するためには、インターネットの活用が不可欠です。

これは、「ウェブの特性を理解して、その流れに逆らわない」ということです。

これまでの日本の電子政府を見ると、「セキュリティ」を建前にしたガチガチで使いにくい電子申請などを作り、ほとんど使ってもらえませんでした。

使ってもらえないものを、無理やりにインセンティブをつけて使ってもらおうとするので、費用対効果はますます悪くなります。あたかも、市場から退場するべき企業に税金をつぎ込んで延命させるかのようです。

インターネットの特性は、その「ゆるさ」にあります。

・完璧でなくても良い
・色々やってみて、受け入れられたものが残る
・敷居はできるだけ低く、問題が起きたら改善すれば良い

ところが、日本の電子政府では

・完璧(行政が責任を追及されないために)「らしさ」を求める
・ほとんど使われないシステムを、平気で5年ぐらい放置する
・敷居を高くして、実際に利用するのはマニアばかり

といった具合です。


ところで、現在のインターネットでは、コンテンツの作成者が一個人であることが多くなりました。

ブログや動画の投稿、iPhone向けのソフトウェアなど、それこそ内容の質はピンからキリまであり、単なる趣味レベルなものから、ビジネスとして成り立つものまで様々です。

こうした流れは、電子政府でも避けられません。

つまり、国民が、電子政府サービスの利用者としてだけでなく、電子政府の作成者・提供者として活躍する機会が増えてくるということです。

政府が提唱する「次世代電子行政サービス」は、作者から見れば、ちっとも次世代に思えません。

実際、電子申告等のオンライン申請を利用する際に、行政が提供する(何億円もかけて作られた)マニュアルやヘルプ機能よりも、一般の利用者によるブログ等での利用体験談の方が役に立ったりします。

もう7年以上も前のことですが、「インターネット電子申請」という本で、「オンライン申請におけるコミュニケーション機能」について解説したことがあります。

その当時、作者にとっての「電子申請」は、単にインターネット上で手続を完了させるサービスではなくて、行政と国民が「行政手続」という機会を通じて「コミュニケーションする場」でした。

残念ながら、現在の電子申請は、そうしたコミュニケーション重視のシステムとなっていませんが、次世代の電子政府では、更にその先へ行けそうな予感もあります。

「ホントに行政サービスは使いにくいなあ」と思うだけの国民から、「それだったら自分で使いやすいものを作っちゃおう」という国民が出てくる。それを可能にするような仕組みづくりこそ、次世代の電子行政サービスと呼べるのではないでしょうか。

行政が電子政府の作成者であり提供者であり続けることが、電子政府の障壁であり限界であることを、早いうちに気がついて欲しいものです。


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
行政と電子政府 (岡本 勝吾)
2009-09-08 09:39:42
はじめて質問します。

数年前からときどき拝見しております。
私のIT知識に強化に役立たせて頂いております。
さて『行政が電子政府の作成者であり提供者であり続けることが、電子政府の障壁であり限界であることを、早いうちに気がついて欲しいものです。』
この文章の解説をお願いします。私の理解力不足のためかこの部分が理解できません。
よろしくお願いします。
返信する
提供者の利益や理論が先行してしまう (むた)
2009-09-08 21:02:10
岡本さん、こんばんは。
コメントありがとうございます。

『行政が電子政府の作成者であり提供者であり続けることが、電子政府の障壁であり限界である』

と書いたのは、利用者の利益を最大化するための仕組みを考えて欲しいということです。

企業では、株主、従業員なども大切な利害関係者ですが、最も重視されているのが「顧客の利益」であると言われます。

実際には、「顧客の利益」を高めることは、とても難しいのですが、「顧客の利益」を高めることで、企業としての利益が増えたり、その利益が株主や従業員に還元されたりします。

つまり、「顧客の利益」を高めることに、インセンティブが働いているわけです。

ところが、行政には、そうしたインセンティブがありません。電子政府を通じて、「国民の利益」を高めても、公務員の給料が上がるわけでも出世できるわけでもありません。

逆に、「国民の利益」が低下しても、公務員の責任が追及され減給されたり解雇されることもありません。

むしろ、「国民の利益」はあまり考えずに、電子政府というトレンドを利用して、天下り先を増やしたり、予算をたくさん取ってきて無駄遣いをした方が、公務員の利益になるのです。

こうした状況では、行政が電子政府の作成者や提供者であり続ける限り、サービス改善等を期待できません。

今後の方向性としては、

1)公務員のインセンティブを増やす
2)電子政府の担い手を民間企業やNPO等に解放する
3)利用者自身が、電子政府を改良できるようにする

といったことが考えられます。

この中で、最も費用対効果が高く、インターネットの特性を生かせるのが、3の方法だと思っています。

以上、ご参考になれば幸です。
返信する
Gov2.0サミット (S.Y.)
2009-09-11 14:45:24
アメリカではちょうどGov 2.0 Summitが終わったところですね。
http://www.gov2summit.com/
http://d.hatena.ne.jp/yomoyomo/20090910/wiredvision
返信する
公共クラウド (むた)
2009-09-11 20:35:21
S.Y.さん、こんばんは。
情報提供ありがとうございます。
とても参考になりました。

Gov 2.0: Cloud Computing As Government Panacea
http://www.informationweek.com/blog/main/archives/2009/09/gov_20_cloud_co.html;jsessionid=LD5QN5C5135E5QE1GHOSKH4ATMY32JVN?cid=RSSfeed_IWK_ALL
の『万能薬(Panacea)』には、ちょっと笑ってしまいました。

霞ヶ関クラウドや自治体クラウドが、「役所の人たちだけが使える仕組み」として作られるならば、クラウドの特徴である「規模の経済効果」をあまり期待できません。

しかし、「民間企業や国民も利用できる仕組み」とすれば、「行政まかせ・お上だよりの電子政府」から「国民が作る電子政府」へ移行する動きも活性化しそうです。

お願いだから、これ以上、変なものを作って、電子政府のイメージを悪くしないで欲しい。。。
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