なぜ、デンマーク人は幸福な国をつくることに成功したのか どうして、日本では人が大切にされるシステムをつくれないのかケンジステファンスズキ合同出版このアイテムの詳細を見る |
デンマークで生活を続ける著者が紹介する、デンマークという国のシステムと、それを支える国民性や歴史など。
福祉国家デンマークのまちづくり―共同市民の生活空間でも触れましたが、日本がデンマークのやり方を実践することは、かなり中長期の(10年から50年ほど)視点が必要と思います。
デンマーク国籍を取得した本書の著者も、元日本人として、日本への提案をしてくれていますが、やはり長期の視野に立ったものとなっています。
本書では出てきませんが、昨今の日本でも「フレキシキュリティ」という言葉が聞かれるようになりました。
簡潔に言えば、
1 フレキシブルな労働市場
2 手厚い失業保険制度
3 技能向上を目的とした職業訓練
の3点セットで実現する仕組みですが、日本の場合、まず始めに「手厚い失業保険制度」を実現しないことには、「フレキシブルな労働市場」を実現することは難しいでしょう。
関連>>デンマークのフレキシキュリティと我が国の雇用保護緩和の議論
本書の良いところは、「フレキシキュリティ」といった手法ではなく、国民性、教育、歴史、宗教、徴税、防衛といった、より深いところまで掘り下げて、デンマークのシステムを解説しているところです。
個々の内容については、議論の余地もあると思いますが、日本政府や日本人が学ぶべき点は多いと思います。
例えば、冒頭には、このような記述があります。
『デンマークの高福祉社会は、国民が納税した所得税や間接税が社会福祉に効率に配分されることによって実現されていますが、重要なことは税金が公平に負担されていること、税金の再配分の内容について国民の間で合意されていることです。』
「税金の公平な負担」と「税金の再配分の内容についての、国民の間の合意」は、どちらも日本に欠けているものですね。
関連ブログ>>国民IDは政府による監視社会を招くのか(3)、納税者番号の導入で公平感と税収をアップ
『デンマークで、もしも、多くの国民が、手厚い社会保障制度を悪用・乱用したとしたら、国の財政は破綻してしまうでしょう。』と著者は述べています。
しかし、今のところ、そうした事態は起きていません。
そうなったら、そうなったらで、デンマーク国民は、自らが考え行動することで、問題を解決することでしょう。その対応力・行動力こそ、デンマークの強みと思います。
世界で最も民主主義が進んでいる国のデンマークと、北朝鮮レベルの民主主義度とも言われる日本。その差は、国民の自主性・行動力に表れているのかもしれません。
自らが考え行動する国民となるためには、それを支える教育制度が大切ですが、日本の場合、教育制度を動かすことができる官僚や政治家が「自らが考え行動する国民」を嫌っているのではないか、という指摘もあります。
そんな官僚や政治家ばかりではないと思いたいですが、現実を見ると、「政府にとって都合の良い国民」や「先生にとって都合の良い生徒」や「偏差値の高い学校に入学できる学生」を生み出すための教育システムが幅を利かせています。
少し俗っぽい話もしておきましょう。
日本人が羨ましがりそうなデンマークの制度や実情としては、次のようなものがあります。
・出産費、治療費、入院費などが無料
・幼稚園・小学校から大学まで、教育費が無料
・大学の入学試験が無い(高校卒業資格が大学入学資格となる)
・大学で学んだことが卒業後の仕事を直結する
・18歳からは、国が国民の扶養義務を持つ(18歳までは親が扶養義務者)
・大学で勉強する国民には、毎月10万円の就学支援金が支給される
・豊かな老後が送れる年金制度
・精神的、肉体的な理由で働けない人には年金が支給される
・老齢者に対する、手厚い自宅介護支援
・少ない労働時間(週37時間、残業はほとんど無し)
・職人の労賃は時給1万円(腕が良ければ食いっぱぐれしない)
・最低賃金は約2500円
他方、日本人が嫌がりそうなところは、
・資産にもかかる税金
・消費税25%
・所得税は最高59%
・国民総生産の約半分が納税額(=政府の収入)
・国民には個人番号、全ての事業所に登録番号
・収入や資産には個人番号が併記される
・家族の経済状態を政府が全て把握
・個人番号が無いと、仕事ができず銀行口座も作れない
作者が感心するところとしては、
・食料自給率(カロリーベース)は300%超
・エネルギー自給率は150%超
・電気の16%は市民が作っている(風力発電所の8割が市民所有)
・労働人口の47%は女性
・国政選挙の投票率は、常に80%以上
・選挙に関する討論番組の視聴率は70%超
・迷惑な街頭演説や選挙カー活動は不可。インターネットを活用。
・財政の黒字は1兆円超
・電気や水道の検針は自己申告
・国定教科書が無い
・外国人や移民も同一職種には同じ時給で、安価な労働力としない
・高賃金を可能とする、高い労働生産性と継続的な向上
例えば、ブルーカラー(主に工場での現場作業)の給与は時給制で、仕事がなくなると即時解雇となります。
解雇されると、すぐに失業手当(給与の80%)が支給されます。
同じ職種で働く場合は、労働組合から指導を受けて、できるだけ早期に再就職します。
同じ職種で働かない、または働けない(需要がなくなった場合など)ときは、失業手当をもらいながら、職業訓練(個人負担なし)を受けます。
ホワイトカラー(一般事務職など)の給与は月給制で、解雇には一定の予告期間が必要ですが、日本のような解雇規制はありません。
病気やケガのため長期失業者となったときは、生活保護や障害年金などを受けることで、仕事が無くても生活できるようになっています。
日本がデンマークのような制度を導入したいのであれば、社会保障制度だけでなく、政治、公務員、地方分権、教育、税金などの仕組みを大胆に改革すると共に、国民自身が考え行動することが必要でしょう。
その原動力となる、国民自身の危機感と覚悟が育成されるには、まだまだ時間がかかりそうです
日本では竹中さんが同じ方向性を目指したと思いますが、結局日本は逆方向に向い出した気がします。
民主主義のレベルがかなり違うのが残念です。
コメントありがとうございます。
日本でも政権交代がありましたし、少しずつですが変化が起こりそうですね。
小中高あたりの年代で、政治や経済、民主主義について、実践しながら学べる機会が増えてくると、変化も加速するのではないでしょうか。
お返事ありがとうございます。
民主党にはみなさん期待が大きかったと思いますが、いったいどこに向かおうとしているのか未だに見えてきませんねぇ~(涙)
日本をぐちゃぐちゃに食い散らかした後で、鳩みたいにパアッて逃げなきゃいいですけどね。
小中高の民主主義教育もそれを語れるだけのりっぱな教師が何人いるでしょうかか。。。正直私はあまり期待できません。
電子投票で政策を柔軟に考えていけるような国づくりは難しいでしょうか?
政策の柔軟性は、ITやネットを活用することで、高めることができそうですね。
個人的には、政策の内容や結果よりも、「どうやって決めるか」に注目しています。
国民の多くが納得し公平だと感じられるような方法を、政府が国民と一緒に模索していくのも悪くないですね。