行政事務の効率化を妨げる日本の戸籍制度、本人確認できなくても婚姻届は受理されるの続き。
今回は、NHKでも取り上げられた“ネームロンダリング”から戸籍の問題点を考えてみます。
クローズアップ現代だけでなく、NHKあすの日本:シリーズ“無縁社会”ニッポンなどでも取り上げられています。
作家の夏原氏による戸籍を「ラクラク悪用する」犯罪者たちでは、その手口も詳しく解説しています。
どうして戸籍を悪用するかと言えば、
・やっぱり、お金になる
・お金以外にも、色々と得をする
ということでしょう。
例えば、
・養子や婚姻を繰り返し行方をくらませる(追跡困難にする)
・他人に成りすまして借金をする、その後とんずら
・他人に成りすまして警察や怖い人からの追跡を逃れる
・日本国籍を取得して、外貨(円)を稼ぐ
・日本国籍を取得して、社会保障等の給付を受ける
などなど。
他人に成りすまして、その他人のまま生きる場合もあれば、次から次へと別の他人に乗り換えることもあります。
戸籍があると日本人になれることも、戸籍が狙われる理由の一つです。
なんだかんだ言って、日本人は恵まれていて、様々な権利を持っているからです。
お金や仕事が無ければ、アジア諸国の賃金の何倍にもなる生活保護で、割りとリッチに暮らせます。
日本人のパスポートがあれば、海外旅行もビザ無しで行ける国がたくさんあります。
こうした需要があれば、供給もあります。
借金に困った人やホームレスの人たちが、それほど高くない金額で売ってしまうことは、上述の記事でも書かれているところです。
●狙われるべくして狙われる戸籍、時代遅れで欠点だらけの制度
成りすまし犯罪、戸籍に関係する犯罪はかなり巧妙で、行政書士なども本人が意図しないうちに偽装結婚などの犯罪に巻き込まれることがあります。
ただ、戸籍制度自体に、いくつか構造上の欠点があるため、成りすましを誘発しやすい、犯罪のターゲットになりやすいと指摘することもできます。
社会保障カードから読み解く、国民ID構想の全体像で解説しましたが、
日本人の場合、最下層に「戸籍」があり、次に「住民基本台帳」、その上に各種制度が乗っかっています。
3:社会保障制度等の各種台帳(年金、医療、介護など):各種制度の登録番号
2:住民基本台帳:住民票コード
1:戸籍:番号なし
最下層にありルーツ(根っこ)として機能する「戸籍」を乗っ取ることができれば、その上にある様々な番号や制度を悪用することができます。効果が一番大きいのですね。
また、戸籍には番号がありません。戸にも個人にも番号が無いため、特定や名寄せが困難です。
さらに問題を深刻化してるのは、その管理体制です。
戸籍法の第1条で「戸籍に関する事務は、市町村長がこれを管掌する。」としています。
つまり、規模や能力も異なる大小1700以上もある市町村が、それぞれ個別バラバラに戸籍を管理しているのです。
ネットワーク化もされていないので、戸籍謄本(記載事項証明)が欲しい時は、本籍のある市町村に請求しなければいけません。
もちろん、各種届出も、わざわざ現地の役場窓口へ行くか、郵送で済ませる必要があり、最寄の役場で・・・といったことができません。
これだけ情報ネットワーク化が進んだ社会で、しかも莫大な税金を使って、霞ヶ関WANやらLGWANといった行政専用のネットワークを構築・運用しているのに、こんな簡単なことさえできないのです。なんと無駄で非効率なことでしょう。これでは、電子政府が仕分けされ廃止されても、誰も文句は言えません。。。
さらに呆れることには、電子化・電算化さえも完了していません。これから電算化するという自治体も、多数残っています。
規模や能力も異なる大小1700以上もある市町村が、それぞれ個別バラバラに戸籍を管理していることは、情報システム上も様々な問題を引き起こしています。
例えば、「外字」と言われるもの。各市町村が、コンピュータで出てこない漢字を、自分達で作ってしまい、その漢字が自分たちのコンピュータでしか使えないという間抜けな話です。同じような漢字でも、点の位置が違うとか、跳ねるか止めるかとかで別漢字を作ることもあります。
そんなこともあって、戸籍で使用される文字は、なんと約56000字もあります。
常用漢字が約2000字。人名用漢字が約3000字。JISが第4水準まで入れても約10000字、住民基本台帳で使用される文字でも約21000字であることを考えると、戸籍の文字数がいかに膨大であるかわかります。
電子化された戸籍も、戸籍事務取扱規程などで、本庁など備え付ける「場所」が決められているので、複数自治体による共同管理システムやクラウドへの移行もできません。
大小1700以上もある市町村が、それぞれ個別バラバラに管理しているため、セキュリティのレベルや担当者の意識もバラバラです。
平和が当たり前の地方で、その戸籍役場の窓口など、犯罪者から見れば、さぞかしちょろい相手に映るでしょう。
関連>>「公正証書原本不実記載罪」で告発されるという事件が発生しています。
このように、現在の戸籍制度は
1 管理体制の不備・脆弱性
2 電子化・ネットワーク化への対応遅れ
3 非効率な事務処理や情報システム
などにより、狙われるべくして狙われる「犯罪者にとって美味しい相手」なのですね。
●戸単位での管理から、個単位の管理へ
戸籍のように、「戸」単位で記録・管理する住民・国民登録制度は、世界的に見れば珍しいものです。
世界の主流は、個人単位の記録簿であり、お隣の韓国も最近になって戸籍制度を廃止しました。
日本でも、外国人登録制度が住民基本台帳(住民票)に統合されますが、これに戸籍も加わえて、年金データベースのように一つのデータベースとすれば、国内における住民登録システムは非常に効率的になります。外字の問題も解決され、セキュリティレベルも一定の水準を保つことができるでしょう。
「戸」単位で管理し、「筆頭者」を索引のように使うのは、昔の家制度(戸主制度)の名残と言われます。そんな名残のためだけに戸にこだわっていても、良いことが無いばかりか、戸籍の悪用を増やすことになります。
“ネームロンダリング”の手法にも、この「戸」の性質を利用したものがあります。
映画やドラマで、誰かに尾行された時、建物に入って裏口から出たり、電車に乗ったふりして発車する直前に降りたりして、追っ手を振り切るシーンを見たことがあるでしょうか。
この「建物」や「電車」にあたるものが、「戸籍」です。
戸籍から入ったり出たり、別の戸籍に移って、また別の戸籍へ・・・と繰り返せば、それだけ追跡が困難になっていきます。
一つの戸籍から出てしまえば、その人が生きていても、前の戸籍が無くなってしまう(除籍)こともあります。
日本が、「個」単位への住民管理へ移行するのも、そう遠くない将来のことであり、個人的にもそうするべきだと思います。
●国民IDで、成りすましは防げるか
確かに、国民ID(住民登録番号、社会保障番号)があり、一人一人に重複しない生涯不変の番号が付与されれば、ある程度の成りすましを防ぐことは可能になるでしょう。
少なくとも、今の戸籍制度よりは良くなりますね。
例えば、住民(外国人を含む)に住民登録番号(住民票コードなど)を付与して、住民記録を「個人」単位で管理します。
「個人」の記録簿には、住民登録番号と現在の情報(氏名、性別、住所、世帯情報、家族関係など)に加えて、履歴情報(出生、婚姻、養子、住所変更、番号変更などの年月日と内容など)も記載されます。
こうしておけば、誰と結婚して離婚して養子になろうが、どこへ引っ越そうが、追跡することが可能になります。
大切なのは、「いざと言う時には追跡できるようにしておくこと」であり、誰もがこうした情報を閲覧して追跡できるという意味ではありません。
しかしながら、ホームレスから戸籍を買い取り、その人間として別の人間を登録してしまう。または、誰かを殺害して、その人に成りすますといったケースでは、上記のような国民IDを導入した住民登録であっても、成りすましを防ぐことはできません。
なぜなら、住民登録が保証してくれるのは、「国民IDが、記録簿に記載された情報に結び付けられていること」「国民ID=記載情報」であり、記載されている情報が事実であることまでは保証されないからです。
別の言い方をすれば、「国民ID」と「生物個体としての個人」は、結び付けられていないので、「国民ID=個人」としたい場合は、別途方策を取らなければいけません。
具体的には、110歳以上の年金受給者の緊急安否確認結果について、生存確認・実在確認の難しさで書いたように生体認証(指紋、虹彩、手のひら静脈など)を利用する、あるいは、生まれた時にDNAを採取して国民IDと一緒に登録するといったことが必要になります。
もちろん、こうした方法を採用したとしても、完全に成りすましを防ぐことはできません。
偽のDNA情報を登録したり、後で誰かの情報と入れ替えたりすれば、やはり成りすましできてしまうからです。
そこで、「トレードオフ」の話になるのですが、先進国の事例、日本がこれから進むべき方向、将来あるべき姿などを考えると「国民IDの導入」+「個人単位の記録・管理」ぐらいまでは進めて欲しいなあと思います。
今回は、NHKでも取り上げられた“ネームロンダリング”から戸籍の問題点を考えてみます。
クローズアップ現代だけでなく、NHKあすの日本:シリーズ“無縁社会”ニッポンなどでも取り上げられています。
作家の夏原氏による戸籍を「ラクラク悪用する」犯罪者たちでは、その手口も詳しく解説しています。
どうして戸籍を悪用するかと言えば、
・やっぱり、お金になる
・お金以外にも、色々と得をする
ということでしょう。
例えば、
・養子や婚姻を繰り返し行方をくらませる(追跡困難にする)
・他人に成りすまして借金をする、その後とんずら
・他人に成りすまして警察や怖い人からの追跡を逃れる
・日本国籍を取得して、外貨(円)を稼ぐ
・日本国籍を取得して、社会保障等の給付を受ける
などなど。
他人に成りすまして、その他人のまま生きる場合もあれば、次から次へと別の他人に乗り換えることもあります。
戸籍があると日本人になれることも、戸籍が狙われる理由の一つです。
なんだかんだ言って、日本人は恵まれていて、様々な権利を持っているからです。
お金や仕事が無ければ、アジア諸国の賃金の何倍にもなる生活保護で、割りとリッチに暮らせます。
日本人のパスポートがあれば、海外旅行もビザ無しで行ける国がたくさんあります。
こうした需要があれば、供給もあります。
借金に困った人やホームレスの人たちが、それほど高くない金額で売ってしまうことは、上述の記事でも書かれているところです。
●狙われるべくして狙われる戸籍、時代遅れで欠点だらけの制度
成りすまし犯罪、戸籍に関係する犯罪はかなり巧妙で、行政書士なども本人が意図しないうちに偽装結婚などの犯罪に巻き込まれることがあります。
ただ、戸籍制度自体に、いくつか構造上の欠点があるため、成りすましを誘発しやすい、犯罪のターゲットになりやすいと指摘することもできます。
社会保障カードから読み解く、国民ID構想の全体像で解説しましたが、
日本人の場合、最下層に「戸籍」があり、次に「住民基本台帳」、その上に各種制度が乗っかっています。
3:社会保障制度等の各種台帳(年金、医療、介護など):各種制度の登録番号
2:住民基本台帳:住民票コード
1:戸籍:番号なし
最下層にありルーツ(根っこ)として機能する「戸籍」を乗っ取ることができれば、その上にある様々な番号や制度を悪用することができます。効果が一番大きいのですね。
また、戸籍には番号がありません。戸にも個人にも番号が無いため、特定や名寄せが困難です。
さらに問題を深刻化してるのは、その管理体制です。
戸籍法の第1条で「戸籍に関する事務は、市町村長がこれを管掌する。」としています。
つまり、規模や能力も異なる大小1700以上もある市町村が、それぞれ個別バラバラに戸籍を管理しているのです。
ネットワーク化もされていないので、戸籍謄本(記載事項証明)が欲しい時は、本籍のある市町村に請求しなければいけません。
もちろん、各種届出も、わざわざ現地の役場窓口へ行くか、郵送で済ませる必要があり、最寄の役場で・・・といったことができません。
これだけ情報ネットワーク化が進んだ社会で、しかも莫大な税金を使って、霞ヶ関WANやらLGWANといった行政専用のネットワークを構築・運用しているのに、こんな簡単なことさえできないのです。なんと無駄で非効率なことでしょう。これでは、電子政府が仕分けされ廃止されても、誰も文句は言えません。。。
さらに呆れることには、電子化・電算化さえも完了していません。これから電算化するという自治体も、多数残っています。
規模や能力も異なる大小1700以上もある市町村が、それぞれ個別バラバラに戸籍を管理していることは、情報システム上も様々な問題を引き起こしています。
例えば、「外字」と言われるもの。各市町村が、コンピュータで出てこない漢字を、自分達で作ってしまい、その漢字が自分たちのコンピュータでしか使えないという間抜けな話です。同じような漢字でも、点の位置が違うとか、跳ねるか止めるかとかで別漢字を作ることもあります。
そんなこともあって、戸籍で使用される文字は、なんと約56000字もあります。
常用漢字が約2000字。人名用漢字が約3000字。JISが第4水準まで入れても約10000字、住民基本台帳で使用される文字でも約21000字であることを考えると、戸籍の文字数がいかに膨大であるかわかります。
電子化された戸籍も、戸籍事務取扱規程などで、本庁など備え付ける「場所」が決められているので、複数自治体による共同管理システムやクラウドへの移行もできません。
大小1700以上もある市町村が、それぞれ個別バラバラに管理しているため、セキュリティのレベルや担当者の意識もバラバラです。
平和が当たり前の地方で、その戸籍役場の窓口など、犯罪者から見れば、さぞかしちょろい相手に映るでしょう。
関連>>「公正証書原本不実記載罪」で告発されるという事件が発生しています。
このように、現在の戸籍制度は
1 管理体制の不備・脆弱性
2 電子化・ネットワーク化への対応遅れ
3 非効率な事務処理や情報システム
などにより、狙われるべくして狙われる「犯罪者にとって美味しい相手」なのですね。
●戸単位での管理から、個単位の管理へ
戸籍のように、「戸」単位で記録・管理する住民・国民登録制度は、世界的に見れば珍しいものです。
世界の主流は、個人単位の記録簿であり、お隣の韓国も最近になって戸籍制度を廃止しました。
日本でも、外国人登録制度が住民基本台帳(住民票)に統合されますが、これに戸籍も加わえて、年金データベースのように一つのデータベースとすれば、国内における住民登録システムは非常に効率的になります。外字の問題も解決され、セキュリティレベルも一定の水準を保つことができるでしょう。
「戸」単位で管理し、「筆頭者」を索引のように使うのは、昔の家制度(戸主制度)の名残と言われます。そんな名残のためだけに戸にこだわっていても、良いことが無いばかりか、戸籍の悪用を増やすことになります。
“ネームロンダリング”の手法にも、この「戸」の性質を利用したものがあります。
映画やドラマで、誰かに尾行された時、建物に入って裏口から出たり、電車に乗ったふりして発車する直前に降りたりして、追っ手を振り切るシーンを見たことがあるでしょうか。
この「建物」や「電車」にあたるものが、「戸籍」です。
戸籍から入ったり出たり、別の戸籍に移って、また別の戸籍へ・・・と繰り返せば、それだけ追跡が困難になっていきます。
一つの戸籍から出てしまえば、その人が生きていても、前の戸籍が無くなってしまう(除籍)こともあります。
日本が、「個」単位への住民管理へ移行するのも、そう遠くない将来のことであり、個人的にもそうするべきだと思います。
●国民IDで、成りすましは防げるか
確かに、国民ID(住民登録番号、社会保障番号)があり、一人一人に重複しない生涯不変の番号が付与されれば、ある程度の成りすましを防ぐことは可能になるでしょう。
少なくとも、今の戸籍制度よりは良くなりますね。
例えば、住民(外国人を含む)に住民登録番号(住民票コードなど)を付与して、住民記録を「個人」単位で管理します。
「個人」の記録簿には、住民登録番号と現在の情報(氏名、性別、住所、世帯情報、家族関係など)に加えて、履歴情報(出生、婚姻、養子、住所変更、番号変更などの年月日と内容など)も記載されます。
こうしておけば、誰と結婚して離婚して養子になろうが、どこへ引っ越そうが、追跡することが可能になります。
大切なのは、「いざと言う時には追跡できるようにしておくこと」であり、誰もがこうした情報を閲覧して追跡できるという意味ではありません。
しかしながら、ホームレスから戸籍を買い取り、その人間として別の人間を登録してしまう。または、誰かを殺害して、その人に成りすますといったケースでは、上記のような国民IDを導入した住民登録であっても、成りすましを防ぐことはできません。
なぜなら、住民登録が保証してくれるのは、「国民IDが、記録簿に記載された情報に結び付けられていること」「国民ID=記載情報」であり、記載されている情報が事実であることまでは保証されないからです。
別の言い方をすれば、「国民ID」と「生物個体としての個人」は、結び付けられていないので、「国民ID=個人」としたい場合は、別途方策を取らなければいけません。
具体的には、110歳以上の年金受給者の緊急安否確認結果について、生存確認・実在確認の難しさで書いたように生体認証(指紋、虹彩、手のひら静脈など)を利用する、あるいは、生まれた時にDNAを採取して国民IDと一緒に登録するといったことが必要になります。
もちろん、こうした方法を採用したとしても、完全に成りすましを防ぐことはできません。
偽のDNA情報を登録したり、後で誰かの情報と入れ替えたりすれば、やはり成りすましできてしまうからです。
そこで、「トレードオフ」の話になるのですが、先進国の事例、日本がこれから進むべき方向、将来あるべき姿などを考えると「国民IDの導入」+「個人単位の記録・管理」ぐらいまでは進めて欲しいなあと思います。
国民ID―導入に向けた取り組み | |
原田 泉 | |
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