Manaboo 電子政府・電子申請コラム 

電子政府コンサルタントの牟田学が、電子政府・電子申請、その他もろもろ、気まぐれにコメントしてます。

日本の電子政府が良くならない本当の理由(23):士業における「仕事の質」と「サービスの質」

2008年08月18日 | 連載:電子政府を良くするために

以前、コメントで「士業の自己満足」を指摘したが、こうした自己満足が生まれるのは、多くの士業が「仕事の質」と「サービスの質」を混同しているからだろう。


●サービスの重要度が増す士業

製造業においても、近年はサービス業化の傾向が顕著である。

「製品」自体に大きな差がつかず、ニーズが多様化する中で、「サービス」の重要性が増してくる。

「製品」を売るのではなく、「製品」を通じてサービスを提供すると言われることもある。

これと同じようなことが、士業にも起きている。

行政手続の簡素化・合理化・IT化(電子政府を含む)が進む中で、「製品」にあたる「仕事」の重要度が低くくなる一方で、「サービス」の重要度は高まってくる。

「仕事の質」が同じようなら、「サービスの質」に優れた士業が、国民に選ばれる

世間には、様々な専門家やプロフェッショナルが存在するが、どの分野でも「仕事の質」と「サービスの質」があり、両者のバランスを調整しながら時代やニーズに対応している。

例えば、「世界に数人しか為し得ないような手術」をこなす脳外科医であれば、「仕事の質」の重要度が圧倒的に高くなる。

しかし、その脳外科医が「定期健康診断」を担当した場合、「サービスの質」の比重が高くなる。

士業が実務をこなす専門家である以上は、「仕事の質」へのこだわりは必須である。いくら「サービスの質」が重要になっても、「仕事の質」がゼロになることは無い

しかし、自身がこなす業務について、顧客や市場からみた価値を理解し、「仕事の質」と「サービスの質」のバランスを調整することが大切である。



●仕事を分類し、質を確保する

士業によって業務内容が異なるし、同じ士業でも得意分野が異なるので、ひと括りにすることは難しいが、経済的に成功してる士業の人(所長クラス)は、「サービスの質」を高めるのがウマイ。

成功している事務所では、基本的な作業や書類作成は、補助者(または別の士業)がこなす。業務も標準化・IT化が進んでいる。

それでは、当の本人は何をしているかと言えば、顧客に電話をかけたり訪問したりして、最近の様子を伺ったり、世間話をしたり、もちろん仕事の話もしたりといった具合である。

こうした作業は、「仕事の質」とほとんど何の関係も無い。しかし、「サービスの質」を高める上では、非常に有効である。自分の役割を、きちんと理解し実践していると言える。

以前、hyperballadさんから頂いたコメントの『依頼者のコンセンサスを経ながら「成果に至るプロセスを共有すること」』なども、「サービスの質」を高める上で有効とされている。


士業は、事務所の仕事を次の三つ分類し、誰がどのようにこなしているかを整理すると良いだろう。

  1. 高度な知識と判断が必要な仕事
  2. ある程度の経験や知識が必要な仕事
  3. 効率化・標準化された一般的な仕事

通常は、3の仕事を補助者がこなす。2の仕事が出てくるとベテラン補助者が対応し、他の補助者に指示する。1の仕事の時だけ(滅多に無い)、士業本人が対応すれば良い。

こうしておけば、「仕事の質」を維持することができるので、士業本人は「サービスの質」を高めることに、より多くの資源を配分できる。

重要なのは、上記の「仕事の分類は固定化されておらず、流動的である」ということだ。

「サービスの陳腐化(価値の低下)」は、サービスが高度化する上で避けることのできない「宿命」である。

1の仕事も、数を重ねれば2の仕事へ変わっていくし、電子政府の高度化で3の仕事になる、いや消滅してしまう可能性だってある。この辺りは、「士業ビジネスモデルの崩壊」で既に指摘したところだ。

ところが、士業のように業務独占で保護されていると、サービスの高度化が進まず、1の仕事は1のままで、2の仕事も2のままで放置される。その方が、自分たちにとっても都合が良いし、自己満足できる。

士業の中には、自分がやっているのは常に「高度な知識と判断が必要な仕事」だと考える人もいるだろう。中には、「高度な知識と判断が必要な仕事」しか引受けない、なんて人もいるかもしれない。

それはそれで、事務所の経営方針・経営戦略としてあっても良いと思う。

しかし、現実を考えると、士業がこなす業務の中で「高度な知識と判断が必要な仕事」を見つけることは、今後ますます困難になっていくのは間違いない

このことは、士業の業務独占とも関係が深いので、次回で詳しく解説する。



最新の画像もっと見る