スウェーデンに学ぶ「持続可能な社会」 (朝日選書792)小澤 徳太郎朝日新聞社このアイテムの詳細を見る |
本書のテーマでもある「持続可能性」は、環境や開発に限らず、様々な分野で活用できる考え方と思います。
例えば、派遣社員として働く人たちは、それが一生続けられることとは思っていないでしょう。つまり、生活や就労の「持続可能性」が低いわけです。
そこで必要になるのが、「持続可能性」を高めるための行動や投資なのですが、実際には「ご褒美ランチ」や「ジム通い」や「喫煙・飲酒」などで、せっかく稼いだお給料が消えていきます。
日本でも、もう少し「持続可能性」を考えるようになれば、違った生活スタイルが生まれてくるかもしれません。
さて、スウェーデンについては、『北欧教育の秘密―スウェーデンの保育園から就職まで、「環境」と「必要」が人や仕組みを変える』などでも紹介しましたが、財政改革という視点から見ると、次のような側面があると本書で紹介されています。
・同時期に、景気回復と財政再建の二つを成し遂げた
・財政再建のために、「歳出の削減」と「増税」を実施した
・同時に、景気回復の投資を「教育」「ITインフラの整備」「環境」「強い福祉」の4分野へシフトさせた(産業構造の転換)
・特に、IT国家としての成長は、景気回復と財政再建の鍵となった
こうして見ると、スウェーデンのIT戦略は、日本と比べても成功したことがわかります。
誤解されがちな年金制度についても、わかりやすく説明してあります。
スウェーデンの年金制度では、支払った保険料に応じて、もらえる年金額が決まります。
日本のように、「将来もらえるかどうかもわからない」という不安も無く、「今までいくら払ったか」も「将来いくらぐらいもらえるか」も、自分で計算することができます。
日本に比べると、より「自由主義的」と言われるのも納得ですね。
もちろん、所得の少ない人には「最低保障年金」があり、医療や介護制度も充実しているため、様々な理由があって働けない人が困ることはありません。
そんなわけで、人々は、より良い生活を求めて、一生懸命に働く一方で、民間の個人年金サービスを活用しています。
本書では、日本との違いについては、よく言われる「人口」や「経済規模」といった面よりも、「民主主義の成熟度」や「女性の社会進出・労働力化」が大きいと指摘しています。
この点については、私も同意見です。
本ブログでも、『福祉国家デンマークのまちづくり―共同市民の生活空間』や『なぜ、デンマーク人は幸福な国をつくることに成功したのか』で指摘してきました。
今後の日本に必要なのは、
・「民主主義の成熟度」を高めること
・「女性の社会進出・労働力化」を高めること
・「政府の無駄遣い」を止めること
・「政治や行政への信頼」を高めること
・「増税が必要であること」を国民に理解してもらうこと
・「若者世代が納得できる持続可能な年金制度」を作ること
・「将来を見据えた持続可能な産業構造」へ転換すること
・「産業構造の転換を推進する流動的な労働市場」を作ること
などでしょうか。
「持続可能性」と「流動性」はセットであることへの理解も大切ですね。
固定化されると変化に対応できないので、今のような変化の激しい状況では、ますます「流動性」が重要になるでしょう。
電子政府にも、「持続可能性」と「流動性」は欠かせません。
情報システムは、半永久的に使えるものではありません。
時が経てば更新や取替えが必要となり、その時期は5-10年ぐらいの周期で訪れます。
しかし、情報システムで処理されるデータは、システムが変わっても、次のシステムに受け継がれて使用されます。
行政にとって大切なのは、情報システムではなく、業務の処理であり、その基礎となる各種データと言って良いでしょう。
昨今のクラウド流行で、日本製が良いとか、外国企業でサーバが国外にあるからダメだとかいった矮小な議論がありますが、私から見るとナンセンスなものです。どの選択肢も一長一短なのですから。
大切なのは、
・行政が自分たちの仕事を確実にこなすこと
・自然災害や情報システム障害などの不足な事態に対応できること
・一時的に止ったとしても、できるだけ早く復旧できること
・保有するデータの消失を防ぐこと
などです。
データの「漏洩」は確かに問題ですが、完全に防ぐことは不可能です。「業務の継続性」という観点からは、「消失」を防ぐことの方が、より重要で現実的です。
クラウドを利用しようが利用しまいが、自分で構築しようが、外国製を使おうが、「自分達にとって何が大切か」を見失わなければ、何でも良いのです。
「大切なものを失わない」ように、利用範囲や運用や契約などを調整すれば良いだけのことです。
・行政が自分たちの仕事を確実にこなすこと
・自然災害や情報システム障害などの不足な事態に対応できること
・一時的に止ったとしても、できるだけ早く復旧できること
・保有するデータの消失を防ぐこと
の実現は、クラウドであろうと無かろうと、日本製だろと外国製だろうと、ほとんど関係ありません。
電子政府を「持続可能性」という視点から考えてみることで、今後の方向性が見えてくるかもしれませんね