江戸観光案内

古地図を片手に江戸の痕跡を見つけてみませんか?

聖坂

2014-03-22 | まち歩き

聖坂は三田に在る坂で、「ひじりざか」と読みます。「聖(ひじり)」というのは、寺院に所属せずに、日本各地を旅して修行をしている僧のことで、その中でも高野山を本拠とする聖のことを高野聖(こうやひじり)といいます。聖坂は、高野聖が開き、その宿所があったために、こう名付けられたと言われています。


鬼平犯科帳(九)「本門寺暮雪」(池波正太郎著、文藝春秋)の中には、長谷川平蔵が労咳の知人を見舞うために、馬に乗って聖坂を上る場面が登場しています。坂の上には済海寺というお寺があり、平蔵は聖坂を上りきったところで、その門前に、かつての剣友で、現在は乞食坊主になり下がっている井関録之助の姿を見付けます。


済海寺は、安政六年(1858年)の日仏通商条約により、日本で最初のフランス公使館が置かれた場所で、その公使館は明治三年(1870年)まで使われました。


聖坂が登場するその他の作品

  • 鬼平犯科帳(二)「お雪の乳房」(池波正太郎著、文藝春秋)
  • 鬼平犯科帳(二十)「助太刀」(池波正太郎著、文藝春秋)
  • 鬼平犯科帳(二十一)「男の隠れ家」(池波正太郎著、文藝春秋)

聖坂 東京都港区三田3-4-11
都営浅草線三田駅から約250m 徒歩約4分


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聖坂


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聖坂を上りきったところに在る済海寺


3・11に寄せて

2014-03-11 | 日記・エッセイ・コラム

東日本大震災から丸三年が経ちました。もう三年という気もしますし、まだ三年という気もします。色々な想いが交錯します。


この三年の間に、多くの人が震災に翻弄されました。震災に端を発した偏見や差別、争いごとも生じました。誰一人として、そうなることを望んではいなかったはずです。今後、時間が経って、それぞれに結末を迎えても、全員が納得するような結果を得ることは難しいということを考えると、ただただやるせない気持ちになります。あの大惨事から生き延びても、生きていくことへの辛さに耐え切れずに自ら命を絶つ人もいるとも聞きます。むなしい気持ちで一杯になります。インフラの復旧はもちろん大事なことですが、震災から三年が経ち、「本当の復興ってなんだろう」と考えることが増えました。被災者でない者にはその答を見付けられそうもありませんが、一つの想いとしては、子供達には未来を、大人達には不安の無い毎日を、全ての人々に笑って暮らせる社会を、そしていつか落ち着いて震災について語れる日をもたらすような、そんな復興になって欲しいと思っています。


二年前に、当ブログの中では最もアクセスが多いページは「仙台掘」であるということと、アクセスして頂いている方の中には仙台の人や東北の人がいるかもしれないという想いが頭によぎるということを紹介させて頂きました。「仙台掘」はその後も最もアクセス数の多いページであることは変わらず、最近では麻布に在る「「仙台坂」を紹介させて頂いたこともあり、仙台にまつわる地名を目や耳にするたびに、仙台や東北の人を思い出します。震災直後の慌しさはだいぶ落ち着いたものの、未だ多くの方が不自由な生活を強いられていることを思うと、それらの方々に一日でも早く平穏な日々が訪れることを願って止みません。新たな春をこの地で迎える人にとって、次の一年が幸多きものになりますように。


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麻布に在る仙台坂。一躍時の人となった百田尚樹氏の「影法師」(講談社)にも登場する坂です。


植木坂

2014-03-08 | まち歩き

植木坂は前回御紹介した鼠坂に接続する坂です。名前の由来は周りに植木屋が多かったから。今は大使館が多いとか、御洒落なイメージが強い麻布界隈ですが、江戸時代には植木屋が多かったというのは、なんとものんびりムードで面白い感じがします。一説によると、秋になると菊の名所で観られる菊人形は、この植木坂周辺の植木屋が始め、その後各地に広がったものだそうです。


ここ麻布に限らず、江戸の当時は季節の花を観るための行楽地として人々が植木屋に足を運び、それゆえに、植木屋も色々な趣向を凝らして人を呼び込んだといいます。今風に言えば、植木屋はテーマパークのようなものであったのかもしれません。もちろん、ガーデニング用品を取り扱うホームセンターのような役割も有ったことでしょう。ちょっとした緑や花があるだけでホッとする。日本人のそんな感覚は今も昔も変わっていないようです。


植木坂は、鬼平犯科帳(二十一)「麻布一本松」(池波正太郎著、文藝春秋)の中に登場しており、そこでは、「あ、鼠坂なんかを歩いてどうするつもりなのだ。(中略)植木屋ばかりではないか・・・ そのとおり、麻布の鼠坂の辺りには植木屋が多く、この坂を「植木坂」とよぶ人もいる。」と記されています。前回、「鼬坂(いたちざか)」「植木坂」「鼠坂」の三つの坂をどう呼ぶかについては諸説あることを紹介しましたが、池波先生は、「鼠坂」と「植木坂」は同じ坂という書き方をされています。従って、鬼平犯科帳に登場する「植木坂」は、今回御紹介する「植木坂」ではなく、前回御紹介した「鼠坂」(あるいは「鼬坂」)のことを指しているという見方も出来ます。


植木坂 東京都港区麻布台3-4-20

東京メトロ南北線・都営大江戸線麻布十番駅から約600m 徒歩約8分


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