根津権現(現根津神社)は文京区根津に在る神社です。日本武尊が千駄木に創建したと伝えられる古社で、現在の社殿は、五代将軍徳川綱吉が、兄綱重の子綱豊(六代将軍家宣)を跡継ぎに定めた際に、綱豊の屋敷地を献納して、その地に造営したものです。宝永三年(1706年)の完成以来、震災や戦災でも失われずに残った建物で、国の重要文化財に指定されています。
境内に一歩足を踏み入れると、「良い神社だな」と感じます。東京では、多くの寺社が時代の移ろいの中で土地を失ったり、震災や戦災で建屋を焼失したりして、江戸の頃の賑やかさや規模を維持出来なくなってしまいましたが、江戸の頃より変わらぬ社殿の美しさや雰囲気が自然とそう感じさせるのだと思います。ツツジの名所としても知られ、毎年春には多くの人がツツジを目当てにこの地を訪れます。
根津権現は、時代小説の中では、門前の盛り場や岡場所などと共に度々登場します。例えば、「剣客商売(十)」(池波正太郎著、新潮社)の中では、岡場所の娼婦を巡って騒動が起こり、鬼平犯科帳シリーズ(池波正太郎著、文藝春秋)では、「暗剣白梅香」(第一巻収録)で根津権現門前の盛り場を一手にたばねている顔役が登場し、「女掏摸お富」(第二巻収録)では、お富が根津権現の盛り場で掏摸を働き、「むかしの男」(第三巻収録)では、過去のことで平蔵の妻・久栄を脅そうとした男が根津権現の総門前にある料理茶屋に入ります。「むかしの男」は、妻の過去など気にも留めない平蔵と、夫を信頼する妻・久栄の夫婦愛が書かれたシリーズの中でも秀作の一つです。
根津神社 東京都文京区根津1-28-9
東京メトロ千代田線 根津駅から約400m 徒歩約5分