江戸観光案内

古地図を片手に江戸の痕跡を見つけてみませんか?

鬼子母神

2015-10-31 | まち歩き

鬼子母神(きしもじん)は、豊島区雑司が谷に在るお寺です。このお寺でお祀りしている鬼子母神は、仏教を守護する善女神の一人で、「鬼」とは正反対の、安産と子育ての神様です。インドでは訶梨帝母(カリテイモ)と呼ばれ、嫁いで千人の子の母となりましたが、その性質は暴虐この上無く、人の子を奪って食べるので、人々から恐れられ、憎まれていました。お釈迦様は、この過ちを戒めるために、訶梨帝母の最愛の末子を隠し、子を食べられた父母の嘆きの深さを訶梨帝母に悟らせました。過ちを悟った訶梨帝母は、お釈迦さまに帰依し、その後、安産と子育ての神となり、人々に尊崇されるようになりました。雑司が谷の鬼子母神像は、鬼形ではなく、菩薩の姿をされているため、鬼子母神の「鬼」の字は、一番上の点が無い、角(つの)が取れた鬼の字が用いられています。

鬼子母神は、鬼平犯科帳(池波正太郎著、文藝春秋)の主人公・長谷川平蔵の目白台の屋敷から、さほど遠くないところに在るため、同シリーズの中で度々登場します。鬼平犯科帳(三)に収録の「むかしの男」では、鬼子母神門前の茶店の老婆が、平蔵の屋敷に、平蔵の妻女・久栄に宛てた手紙を届けます。久栄は手紙の差出人を見て、眼の色が変わります。

 

鬼子母神が登場するその他の作品

  • 鬼平犯科帳(七)、隠居金七百両
  • 鬼平犯科帳(十)、追跡
  • 鬼平犯科帳(十二)、白蝮
  • 鬼平犯科帳(十二)、二つの顔
  • 鬼平犯科帳(十五)、赤い空
  • 鬼平犯科帳(十八)、おれの弟
  • 鬼平犯科帳(二十三)特別長編「炎の色」、夜鴉の声
  • 鬼平犯科帳(二十三)特別長編「炎の色」、囮
  • 鬼平犯科帳番外編「乳房」、雑司ヶ谷・鬼子母神境内

 

鬼子母神 東京都豊島区雑司が谷3-15-20
都電荒川線鬼子母神前から約300m 徒歩約4分
東京メトロ副都心線雑司が谷駅から約300m 徒歩約4分

 

 


南蔵院

2015-10-17 | まち歩き

南蔵院は豊島区高田にある寺院で、室町時代に円成比丘(えんじょうびく)(永和二年(1376年)寂)が開山したとされる古刹です。前回ご紹介した面影からは北に200メートルほど行ったところに在ります。古くは道を挟んで向かい合う氷川神社の別当でした。本尊の薬師如来立像は奥州藤原氏の持仏で、円状比丘が諸国遊化のとき、彼の地の農家で入手し、この地に安置したと伝えられています。(江戸名所図会には聖徳太子の作にして、藤原秀衡の念持仏であり、奥州平泉に在ったと記されています。)

葉室麟著「おもかげ橋」(幻冬社)に登場する、小池喜平次の店の寮は、この南蔵院の東側に在るという設定です。草波弥市と小池喜平次の二人は、九州肥前蓮乗寺藩の元藩士で、過去に藩内の抗争に巻き込まれて国許を追われ、現在は江戸で暮らしています。剣客指南で糊口をしのぐ弥市。士分を捨て、飛脚問屋の主となった喜平治。今の二人は蓮乗寺藩とは何の関わりも無く日々を過ごしていますが、ある日突然、かつての上司の娘で、二人が想いを寄せていた萩乃という女性の護衛を依頼されます。依頼を断れず、二人は、この喜平次の店の寮で萩乃を匿います。

南蔵院は鬼平犯科帳シリーズ(池波正太郎著、文藝春秋)にも登場しており、第七巻に収録の「隠居金七百両」の中では、南蔵院の山門から躍り出た悪者二人が、女をかどわかします。第十八巻に収録の「おれの弟」の中では、長谷川平蔵の弟弟子・滝口丈助が、夜明けに南蔵院の門外に立ち止まり、拝礼する場面が登場します。滝口丈助は、これから決闘に向かう様子で、姿を隠してこれを見つめる平蔵は緊張します。

 

南蔵院 東京都豊島区高田1-19-16
都電荒川線面影橋電停から約200m 徒歩約3分

 


面影橋・姿見橋

2015-10-03 | まち歩き

面影橋は神田川中流域に架かる橋の一つで、古くは「俤の橋」とも称されていました。尾張屋版切絵図「雑司ヶ谷音羽絵図(安政四年/1857年)」には、「姿見橋」と記されており、後年に名を改めて面影橋になったと考えられています。一方で、面影橋(俤の橋)と姿見橋は、別々の橋であったという説もあります。例えば、歌川広重の名所江戸百景「高田姿見のはし俤の橋砂利場」には、手前に神田川を渡す大きな橋が、遠方の小川に小さな橋が描かれており、一方の橋が「姿見のはし」で、もう一方の橋が「俤の橋」だったと考える説もあります。しかし、どちらの橋がどちらを指すのかは不明のままです。橋の名の由来も諸説あり、在原業平が水面に姿を映したためという説、鷹狩の鷹をこのあたりで見つけた徳川家光が名付けたとする説、和田靭負(ゆきえ)という武士の娘・於戸姫が、身に起こった悲劇を嘆いて川に身を投げた時にうたった和歌から名付けられた等の説があります[1]

面影橋は、葉室麟著「おもかげ橋」(幻冬社)のタイトルの橋です。草波弥市と小池喜平次の二人は九州肥前蓮乗寺藩の元藩士。藩内の抗争に巻き込まれて国許を追われ、今は江戸で暮らしています。二人が江戸に出てきてから16年後、二人は、かつての上司の娘で、二人が想いを寄せていた萩乃という女性の護衛を頼まれます。士分を捨て商人となった喜平次の店の寮が俤の橋(面影橋)近くにあり、二人はその寮で萩乃を匿います。作品には、ところどころで俤の橋が登場し、姿見橋という呼び名があることも記されています。

面影橋は鬼平犯科帳シリーズ(池波正太郎著、文藝春秋)にも登場しており、第七巻に収録の「隠居金七百両」の中では、「江戸川にかかる姿見橋」として登場しています。江戸川というのは、神田川中流域の旧い名前で、あえて「神田川」とは記さないところが池波作品らしいと感じられます。第十巻「追跡」の中では、「面影橋」の名で登場しており、二十二巻の「法妙寺の九十郎」の章では、再び「姿見橋」の名で登場しています。

 

[1] 参考:面影橋の由来(新宿区 道とみどりの課設置案内板)

 

面影橋北詰 東京都豊島区高田2-1-15
都電荒川線面影橋電停からすぐ