江戸観光案内

古地図を片手に江戸の痕跡を見つけてみませんか?

弘福寺

2013-03-30 | まち歩き

弘福寺は、墨田区向島に在るお寺で、以前に御紹介した三囲神社からは、隅田川に沿って北へ300m程のところに在ります。開基は小田原藩第二代藩主・稲葉正則公、開山は鐵牛禅師で、黄檗宗(禅宗の一つ)のお寺として延宝元年(1673年)にこの地に建てられ、今に至ります。現在の伽藍は、昭和八年(1933年)に再建されたもので、建築物としては、さほど古いものではありませんが、戦災で多くの建物が失われた東京においては貴重な建物の一つと言え、本堂と梵鐘は墨田区の登録文化財に指定されています。本堂両翼の円窓等は、黄檗宗特有のもので、他の寺院建築には、あまり例を見ないものだそうです。


本堂に向かい、右手には「咳の爺婆尊」と呼ばれる父母の石像が在ります。この石像は、風外和尚禅師(寛永年間の僧侶)が刻んだもので、後年、稲葉正則公の江戸下屋敷にて供養されていましたが、同公の転封に伴い、弘福寺に祀られることとなりました。風外和尚の「風の外」の文字より、風邪除けの御利益が有ると信じられ、口中に病の有る者は爺に、咳を病む者は婆に祈願し、全快の折には煎り豆に番茶を添えて供養する習わしが伝わっています。時代の流れとも言えますが、現在はペットボトルのお茶が御供えしてあるのも目にします。


この「咳の爺婆尊」は、冲方丁著「天地明察(上)」(角川書店)に登場しており、主人公・渋川春海は、江戸の名所に不案内ではないことの証として、「咳の爺婆尊」(作品中では、「向島の弘福寺にある“咳除け爺婆”」)等の江戸名所に既にお参りしていると言い訳をします。また、「天地明察(下)」でも、結婚後間もない春海が、身体の弱い新妻のために、「咳の爺婆尊」の御利益を求める場面が登場しています。


[1] 参考:弘福寺パンフレット


弘福寺 東京都墨田区向島5-3-2

京成線東京メトロ半蔵門線・都営浅草線 押上駅から約950m 徒歩約12分

東武スカイツリーライン とうきょうスカイツリー駅から約1,000m 徒歩約13分


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咳の爺婆尊


3・11に寄せて

2013-03-11 | 日記・エッセイ・コラム

東日本大震災が起こったその日、東北の被災地では、他の国の災害で起こったような、暴動や略奪は決して起こらないだろうと思いました。そして、その予想は見事に当たりました。世界から絶賛された東北の人々の姿に、どれほどの感動を覚え、勇気をもらい、誇らしさを感じたことでしょうか。


神戸をはじめ、他の被災地の方々によりもたらされた、無償の優しさにも、感動を覚えました。傷つかなくても済むのなら、優しくなれない方が良いけれど、傷ついたから、優しくなれる真実もあることを知りました。


あの日、花を咲かせるはずだった、多くの枝は折れてしまったけれど、また、新しい枝が生えて、別の花を咲かせるでしょう。その花は、見える花かもしれないし、心の中にだけある、見えない花かもしれません。震災から、まだ二年。花を咲かせるには、もう何回かの冬をくぐらなければならないかもしれません。でも、誰しもが、その蕾を持っていると信じたいし、そう信じています。


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柳橋のたもとに在る関東大震災の震災復興記念碑。同じように、東北の被災地が復興を宣言出来る日が一日も早く訪れることを心から願っています。


橋場不動院

2013-03-02 | まち歩き

白髭橋より下流の隅田川西岸地域を橋場といいます。太田道灌が下総(現在の千葉県)の千葉氏を攻めた折、この地の隅田川に橋を架けたのが地名の由来です。橋場不動院は、その橋場に建つお不動様です。開創は奈良時代末期の天平宝字四年(760年)のことで、東京の寺社の中でも最も古い一つに数えられる古刹と言っても過言では無いでしょう。


現在の本堂は、江戸後期の弘化二年(1845年)に建立されたものです。建築物としては、さほど古いものではありませんが、東京においては、震災も戦災も免れた建築物として貴重なものです。小さなお堂ですが、近代に再建されたお堂には無い、美しさと趣をたたえています。


橋場不動院は、時に橋場不動尊とも呼ばれます。その言葉の違いですが、「不動院」はお寺の建物を指し、「不動尊」は仏様のことを指します。聞けば納得ですが、案外知られていないようなので、ここで御紹介しておきます。


橋場不動院は、池波正太郎著「おんなごろし」(殺しの四人に収録、講談社)の中で、その境内の北側に、藤枝梅安のなじみの料亭「井筒」が在るとのくだりで登場します。「井筒」からは、思川のながれをへだてて彼方に真崎稲荷社の杜をのぞむと記されていますが、この真崎稲荷が、剣客商売シリーズ(池波正太郎著、新潮社)の主人公・秋山大治郎の道場の近くにあるお稲荷様です。現在の真崎稲荷は、秋山大治郎の時代とは場所が変わり、近くの石浜神社内に遷座しています。


橋場不動院 東京都台東区橋場2-14-19

JR常磐線・地下鉄日比谷線・つくばエクスプレス 南千住駅より約1.5km 徒歩約19分


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