江戸観光案内

古地図を片手に江戸の痕跡を見つけてみませんか?

霊巌寺

2011-12-31 | まち歩き

用心棒日月抄(藤沢周平著、新潮社)の主人公・青江又八郎の用心棒仲間である細谷源太夫の住まいは霊岸島に在ります。霊岸島というのは、隅田川下流の永代橋付近の西岸、日本橋川と亀島川と隅田川に囲まれた島のような土地で、現在の住所では東京都中央区新川付近になります。


霊岸島の名前は、寛永元年(1624年)に、この地に霊巌寺が建立されたことに由来しますが、霊巌寺は明暦の大火(1657年)で消失した後、現在の深川の地に移転。従って、青江又八郎や細谷源太夫の生きた元禄時代には霊岸島の名前だけが残り、霊巌寺は既に深川に移っていたということになります。霊岸島は霊巌島と呼ばれることもあったようですが、文久三年(1863年)の江戸切絵図「日本橋南之絵図」では、“霊岸嶋”の字があてられています。


古地図で見る霊巌寺は小名木川に架かる高橋を南に渡った東側に大きく描かれています。現在でも都内中心部に在るお寺としては広いお寺だと思いますが、周辺には霊巌寺のかつての別院や塔頭が多く在り、江戸時代の頃の威光を偲ばせます。寺内には江戸六地蔵の第五番の大きな御地蔵様が居られます。


藤沢周平著「ささやく河」(新潮社)には、一冊の中に霊岸島(闇の匕首、ひとすじの光)とその名の元になる霊巌寺(目撃者、三人目の夜)の両方が登場しており興味深いです。


霊巌寺が登場するその他の作品

  • 藤沢周平著「消えた女」(「やくざ者」の章、新潮社)(*作品中では霊岸寺)

霊巌寺 東京都江東区白河1-3-32

東京メトロ半蔵門線・都営大江戸線 清澄白河駅から約240m 徒歩約3分


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江戸六地蔵(第五番)


新高橋

2011-12-24 | まち歩き

小名木川に架かる橋で、前回御紹介した高橋を東に900m程行き、小名木川が横川(現大横川)と交差する手前に在ります。架橋年に関する資料が手元にありませんが、おそらくは高橋が先に架けられ、それに続く橋ということで新高橋と呼ばれるようになったのだと思います。

江戸には新高橋のように新〇〇橋という名前の橋が割合に多く存在するのですが、古地図を眺めていると、それらの橋はどうも古い橋が架け替えられて“新”になったわけではなく、既に在る橋に次いで架けられたので頭に“新”が付けられたように思われます。隅田川に架かる新大橋が、大橋と呼ばれていた両国橋に続く橋として新大橋と名付けられたこともそう思う理由の一つです。現代でも新横浜や新大阪のように新たな駅名や地名の頭に“新”を付けることは度々有りますが、この慣習は案外古く、既に江戸期には存在していたように想像されます。


宮部みゆき著「ぼんくら」の舞台となる鉄瓶長屋は新高橋のたもとに近い深川北町の一角に在ります。作品中では、鉄瓶長屋の西側には藤堂和泉守のお屋敷が建っており、お屋敷とのあいだには小名木川から引き込まれた細い掘割が流れていると紹介されていますが、実はこの場所にあるのは「深川西町」で「深川北町」存在しません。「深川北町」は宮部先生の創作による架空の町と考えられます。


新高橋が登場するその他の作品

  • 藤沢周平著「黒い繩」(暗殺の年輪に収録、文藝春秋)
  • 藤沢周平著「消えた女」(「やくざ者」「闇に跳ぶ」「春の光」の章、新潮社)
  • 池波正太郎著「剣客商売(十六)」(「暗夜襲撃」の章、新潮社)

新高橋北詰 東京都江東区森下5-12-2

都営新宿線 菊川駅から約650m 徒歩約8分


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高橋

2011-12-17 | まち歩き

高橋は小名木川に架かる橋で、隅田川から数えると萬年橋に次いで二つ目の橋です。高橋を北に渡り真っ直ぐ行くと五間堀となり、そこに架かる弥勒寺橋を渡るとその先は竪川に架かる二ツ目橋(現二之橋)です。反対に高橋を南に渡り真っ直ぐ行くと仙台堀の海辺橋に至り、更にその先を道なりに行くと油掘に架かる富岡橋です。

高橋は何の変哲もないただの橋ですが、このような位置関係から本所や深川を舞台とする時代小説には度々登場します。例えば藤沢周平作品の中では、彫師伊之助捕物覚えシリーズの「消えた女」「漆黒の霧の中で」「ささやく河」に頻繁に登場しています。


二ツ目橋から高橋を経由して富岡橋方面に抜ける通りは現在は清澄通という主要道になっていますが、時代小説の中でも、二ツ目橋は鬼平犯科帳シリーズ(池波正太郎著、文藝春秋)ではお馴染みの軍鶏鍋屋「五鉄」が在る橋として、富岡橋は宮部みゆき著「初ものがたり」(新潮社)の中で奇妙な稲荷寿司の屋台の近くの橋として主要な存在です。


高橋が登場するその他の作品

  • 池波正太郎著「待ち伏せ」(剣客商売(九)に収録、新潮社)
  • 藤沢周平著「返り花」(春秋の檻に収録、講談社)
  • 藤沢周平著「霧の果て 神谷玄次郎捕物控」(「針の光」の章、文藝春秋)

高橋南詰 東京都江東区清澄3-11-1

都営大江戸線 清澄白河駅からすぐ 徒歩約1分


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洲崎弁天社

2011-12-10 | まち歩き

洲崎弁天社(現洲崎神社)は東京メトロ東西線木場駅近くにある弁財天で、広島の厳島神社の御分霊祭神市杵島比売命(イチキシマヒメノミコト)をお祀りしています。五代将軍徳川綱吉公の生母桂昌院の守り神として江戸城中に在りましたが、元禄十三年(1700年)に現在の地に遷座し、徳川家代々の守護神となっていました。

現在は洲崎弁天社の南側には延々と町並みが続いていますが、江戸時代には東西線をやや南にずらした洲崎弁天社のところが海岸線で、目の前には東京湾が広がり、東は房総の山々、西は品川辺りまでを見渡せる景勝地だったそうです。埋立地でウオーターフロントということでは現代のお台場や天王洲アイルに通ずるものがありますが、景勝地という点は当てはまらないので、眺めに関しては少々オーバーですが「江戸の海ほたる」の方がピッタリくるかもしれません。


洲崎弁天社は剣客商売シリーズ(池波正太郎著、新潮社)ではお馴染みの鰻売りの又六(初登場は剣客商売(二)「悪い虫」)が傍で店を出しているという設定でシリーズでは度々登場しています。


洲崎弁天社が登場するその他の作品

  • 藤沢周平著「霧の果て 神谷玄次郎捕物控」(「虚ろな家」の章、文藝春秋)
  • 池波正太郎著「用心棒」(鬼平犯科帳(八)に収録、文藝春秋)

洲崎神社 東京都江東区木場6-13-13

東京メトロ東西線 木場駅から約300m 徒歩約4分


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弥勒寺

2011-12-03 | まち歩き

弥勒寺(みろくじ)は東京都墨田区にある真言宗のお寺です。

古地図では竪川に架る二ツ目橋(現二之橋)を南に渡った東側、五間堀の北側に描かれています。創建は慶長十五年(1610年)で、何度かの移転の後、元禄二年(1689年)に現在の本所の地に移りました。現在の敷地は古地図と比較するとずいぶん小さくなっていますが、周りには今も弥勒寺のかつての塔頭である徳上院、法樹院、龍光院(それぞれの寺院は、現在は弥勒寺からは独立している)が在り、江戸時代の様子を偲ばせます。


弥勒寺には、本ブログ2011年2月5日に一ツ目弁天(現江島杉山神社)のところで紹介させて頂いた杉山和一検校の墓所(東京都指定旧跡)が在ります。杉山和一は両目の視力が無かった人でありながら鍼灸・按摩を世の中に広めた偉人です。日本では視覚障がい者が鍼灸師や按摩師として働くことに違和感はありませんが、諸外国では目の不自由な方が人の治療に当たる職業に就くことはとても難しいらしく、そういう意味では、障がい者や福祉といった言葉も無かったであろう時代に障がい者の自立の道を開き、それが当たり前という世を築いたのは大変すばらしい功績と言えます。もっと世に知られても良い人では無いでしょうか。


弥勒寺は古地図の上では敷地も広く、竪川や六間堀・五間堀からも近いため比較的目立つ存在です。本所や深川辺りを舞台にした時代小説には度々登場しており、例えば藤沢周平著「消えた女」「漆黒の霧の中で」の中では主人公・伊之助の周辺を彩る重要なランドマークとなっています。


弥勒寺が登場するその他の作品

  • 藤沢周平著「霧の果て 神谷玄次郎捕物控(針の光)」、文藝春秋

弥勒寺 東京都墨田区立川1-4-13

都営新宿線・大江戸線 森下駅から約150m 徒歩約2分


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