江戸の妖怪、怪奇、怪談、奇談

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新説百物語巻之二 6、死人ての内の銀をはなさざりし事

2021-06-26 22:20:27 | 新説百物語
新説百物語巻之二 6、死人ての内の銀をはなさざりし事  
          死んでもお金を離さなかった話

 京の東山のある寺に伊六と言う下男がいたが、ふと病気になり、知り合いの家に行って、半年ばかり養生をした。ある時、かの伊六は、寺に来て、「もう、だいぶ良くなりました。また帰ってつとめたいのですが。」と言った。
住僧が言った、
「まだ、顔色も良くなく、力もついていないようなので、今しばらく養生してから、仕事に戻ればよい。その方も知る通り、給金の残りも五六拾匁あるので、これを持ち帰って、養生すればよい。又々、その上にも用事があれば、声をかけよう。」
と、銀子六十匁を渡した。
伊六は、受け取り、おしいただき、
「ありがとうございます。」
と言うかと思えば、そのまま倒れて息が絶えた。
寺中が驚き、水などのませ、薬よ針よと呼びあつめ、介抱したが、その甲斐もなく、そのままに死んでしまった。

これは仕方がないと、知人宅にも知らせた。
寺のことであったので、その夜すぐに寺の墓所へ葬った。
しかし、六十匁(もんめ)の銀子(ぎんす)を、いかにしても握りつめて放さなかった。
色々したが、なかなか動かなかった。
このお金に執着心が残ったものよと、そのままにして葬った。

そのとなりの寺に重助という下男がいた。
つくづくと思ったことは、無駄にお金を土中に埋めるのは、惜しい事だ。
その夜、かの墓所に行き、死人を掘り出して、お金を取ろうとしたが、一向に放さなかった。
どうせ乗りかかった事と思い、小刀で指を切ってそのお金を取ろう思い、帰って小刀を持ってこようとした。
すると、彼の死人はむっくと起き、目を大きくむき出して、食いつくような感じであった。
その勢いに、さしもの重助は胆(きも)をつぶし、そのまま気絶した。

あくる朝、住僧は、廻向のために墓所に至って彼を見つけた。
さまざまに手を尽くして介抱したので、重助は息を吹き返して、無事であった。



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