江戸の妖怪、怪奇、怪談、奇談

江戸時代を中心とした、面白い話を、探して、紹介します。

尾さき狐   曲亭雑記

2024-09-05 18:38:50 | キツネ、タヌキ、ムジナ、その他動物、霊獣

 尾さき狐

2024.9

尾さき狐は、いかなるものであるかと、問われたが、再び答えよう。
尾さき狐は、上野・下野に多く、戸田川を界として、江戸には、絶えて入ってはいない、と云う。
その形は、イタチに似て、狐よりは小さい。尾は極めて太いが、尾先(おさき)が裂けて分かれているので、尾さきの名があるのであろう。上毛下毛(群馬栃木)にのみに限らず、武蔵であっても、北の方には、この獣がまれにいる。ともすれば、人の家につくことがあると云う。
一たび憑いた家は、それまで貧しかったとしても、豊かになった。しかしながら、そのひと一代かぎりであって、或いは、その子の代に至って、衰えないことはない。
それが既に憑いた家が、年々豊かになるままに、狐の種類も次第に増えて、群れ集うこと、限りがなかった。
もし、その家の、娘なるものが、他の村に嫁入りする事があれば、尾さき狐も相わかれて、婿の家に憑くと云う。


「曲亭雑記」広文庫 より


大蛇退治 「尾張名所図会前編五」

2024-07-27 23:29:01 | キツネ、タヌキ、ムジナ、その他動物、霊獣

大蛇退治 尾張名所図会前編五

                  2024.7

牛巻潭 うしまきのふち  

同じ村(高田村:愛知県名古屋市瑞穂区高田町か?)に有。

昔、この淵に巨蛇(うわばみ、蟒蛇)が棲んでいて人民を悩まし、牛馬をも水中に巻き込んだ。

弘治二年 、大原真人武継(おおはらまひとたけつぐ)という者が、熱田参宮から帰る途中で、東の方を見るに、一筋の黒雲が、下ってきて、淵のほとりに怪しい光が見えた。
これは、かねて聞き及んでいた巨蛇(うわばみ)であろう、と思って、
家に帰り、弓矢をたずさえて、再びここに戻ってきた。


案の如く巨蛇(うわばみ、蟒蛇)が現れて見えたので、もとより強い弓(つよゆみ)の達者であって、
身をかためて、矢を放った。

すると、手応えがして、何度も矢つぎばやに射って、遂に退治したことが、言い伝えられている。

傍らに、その蟒蛇を埋めた跡がある。蛇塚(じゃつか)と呼んでいる。

 

訳者注:名所図会は、各地の名所旧跡などを絵画とともに紹介した書物です。そのうちには、面白い話もあります。

江戸時代には、多くの地区の名所図会が刊行されましたが、これは「尾張名所図会 前編」より。


反哺の孝・・・烏の雛は親の顔を忘れる  慈元抄

2024-05-10 18:25:36 | キツネ、タヌキ、ムジナ、その他動物、霊獣

反哺の孝・・・烏の雛は親の顔を忘れる

                 2024.5

烏の子は、大人になって巣立つと、親の顔を忘れてしまう。
しかし、親の恩を忘れず、養い返そうとおもうが、どれが親ともわからない。
深山などに、老い極まった烏が飛べなくなっているのを、
もしかして我が親かもしれないと、若い烏たちは、老いた烏を養うのだ、と言う。
これを、反哺(はんぽ)の孝と言う。

「慈元抄」広文庫より


日光山の烏  「嬉遊笑覧」

2024-05-10 18:24:16 | キツネ、タヌキ、ムジナ、その他動物、霊獣

日光山の烏

            2024.5

日光山のお宮の傍らに烏が二羽いた。
仁王門の門前の茶店のそばにいつもいた。

この茶店では団子を売っていた。
お客がそれを買い求めて、串団子から一つ抜き出して、高く空中になげ上げると、かの烏達が出てきて、空中でキャッチした。

一つも、取り損じる事は、なかった。

「嬉遊笑覧」広文庫より


蛙が美女に化けて和歌を詠む  雑話集 

2024-04-23 21:57:35 | キツネ、タヌキ、ムジナ、その他動物、霊獣

蛙が美女に化けて和歌を詠む


              2024.4

蛙が美女に化けて詠んだと云う和歌があります

 

日本紀に云う。
紀ノ貫之の4代前の先祖に壱岐守紀良貞という人がいた。
わすれぐさを探して、住吉の浜に行った。
思いもかけず美しい女性に会った。
様々な話をして、また会うことを約束した。
「まことに私に気があるのならば、必ずこの浜に来てください。また、お会いしましょう。」と、約束して別れた。

その後、彼女に会おうと約束した頃に、また住吉の浜を訪ねて、会った場所を見ると、思いもかけずに大きな蛙が、その女性のいた所の前を這って通って行った。
その足跡を見ると、文字のようであった。
「住吉の 浜の見るめも 忘れねば かりにも人に またと(訪)はれぬる」という、歌であった。
これを見て、彼の女は、蛙の化身であったことを知った。
この歌も同じく万葉集に「かわず」の歌として入っている。

 

「雑話集 上27」広文庫 より


訳者注:この歌は、万葉には、入ってなさそうです。