江戸の妖怪、怪奇、怪談、奇談

江戸時代を中心とした、面白い話を、探して、紹介します。

死に臨んでも、爆睡。肝臓に毛が生えていた。 新著聞集

2023-08-19 22:00:00 | 奇談

死に臨んでも、爆睡。肝臓に毛が生えていた。
       日本随筆大成第二期第5巻「新著聞集」より
                                2023.8
心臓に毛、いいえ 肝臓に毛が生えている

「心臓に毛が生えている」と言う言葉がありますが、「肝臓に毛が生えている」と言う言葉が、江戸時代の、「新著聞集」にありました。
面白いので、紹介します。
本来の表題は、「望死熟睡肝臓に毛を生ず(死に臨んでも、熟睡していた。肝臓に毛が生えていた。)」です。


以下、本文


 蒲生下野守(がもうしもつげのかみ:蒲生 定秀か?戦国時代、近江の日野の城主)殿の家来の侍が、わけあって、切腹することになった。
身を清めるために、行水をして、首切り役人の監督に向かって、
「われは常に湯あがりには、寝る癖がある也。この世の思い出に、寝させてくれよ。」と訴えた。
そして、高鼾(かたいびき)をかいて、しばらく寝てから、目をさまし、起あがった。

 また首切り役人の監督に向かって、
「われらが様なる強勢(ものに動じない)の者には、肝(きも)に毛の生えると、昔から申すなり。
事実ならば、恐らくは某(それがし)が肝にも、毛が生えてあらん。かならず見たまえ。たのむ也。」
と言って切腹した。

 それで、約束の通りに、肝臓をみると、言った通りで、毛が生えていたそうである。

 この話は、傍輩(ほうばい:同僚)であった町野倫菴という医師が語ったものである。


木こりが、榎の大木を切り、マムシの毒気にあたったこと  新著聞集

2023-08-18 19:18:41 | キツネ、タヌキ、ムジナ、その他動物、霊獣

木こりが、榎の大木を切り、マムシの毒気にあたったこと
 樵夫(きこり)榎に上り大なる蝮を截害(さいがい:殺害)す・・・原題
                                     2023.8
 泉州谷の輪の居守山(兵庫県姫路市に居守山がある)の榎の根に洞穴(ほらあな)がある。
その穴に、蝮蝎(うわばみ)が棲んでいる、と人々は畏れて、そこへ行く事はなかった。

 ある時、与惣(よそう)と言う者が、その榎の枝を切って、薪にしようと出て行こうとしった。
すると、人々が、やめさせようとした。
しかし、彼は、
「なあに、怖がることはないよ。」
と言って、木に登り、枝を切った。
すると、例の穴から蝮がのたり出て来たのを、与惣が注目して、木に上るところを待ちうけ、鎌を持ち直して、蝮の眉間の真ん中に打ち込んだ。
さすがのまむしも、ドウと落ち、そのあたりにうねりながらに倒れたが、草も木もなぎ倒された。
しかし、与惣はすこしも騒がず、欲しいだけの枝を切り落として持ち帰った。

 与惣(よそう)は、友達に、これこれこうだと語った。
それで、皆々は見に行ったが、全身の毛が逆立って、恐しかった。

 与惣も、やがて煩(わずらい)つき、二十日ばかり過ぎて終に死んだ。
深い毒気にあたったのであろうか?
  
   日本随筆大成第二期第5巻「新著聞集」より



新説百物語巻之五 11、ざつくわといふ化物の事

2023-08-07 22:47:47 | 新説百物語
新説百物語巻之五 11、ざつくわといふ化物の事  
  ザッカという化け物の事  2023.8
讃州(さんしゅう:讃岐の国:香川県)のかたほとりに妙雲寺と言う寺があった。
その寺に昔より、ザッカと言う化物がいると言い伝えられているが、誰一人見た者がいなかった。
その時の住持を良賢とか言った。

その弟子に良敬と言う名の若い僧がいたが、博学にして美男の僧であった。
あるとき良敬は、勉学のいとまに門前に出て夕涼みをしていた。
蛍が二つ三つ飛ぶのに誘われて、思わず一二町も歩いたが、後ろから静かに歩み来る者がいた。
振り返って見れば、やせて色白な女が、髪を打ちみだして、後ろからよって来た。
気の強い良敬もぞっとして立ち帰ろうとした。
かの女はにっと笑って、
「ここまでいらしゃったのなら、もう少しで、我が家で御座います。おいで下さい。」と言って、手をとって連れて行こうとした。
良敬は行きたくないと思った。かれこれする内に、日もたっぷりと暮れて、物の形も見えないような暗さになった。
女が言った。
「この年月の我が思い、今宵はらさずにはおかない。」と、引き立てられて行くのかと思うと、良敬は夢を見ているようになり、その後は、なにも覚えてなかった。
その夜、良敬が見えないので、良賢は驚き、あちこちと尋ねたが、行方はわからなかった。

その翌朝、四五町わきの山際に、ぼーとして打ち伏していたのが見つかった。
よって見ると衣の全体に白い針のような毛が所々に付いていた。

それから寺へつれ帰り、介抱した。
気を取り戻したが、時々は気が狂ったように、その女の事のみを口ばしった。

良賢は、残念な事と思った。
特に大事な弟子であったので、我が居間に壇をかざり、一七日の間、護摩を修した。
七日めの夜、何かはわからないものが、壇上に落ちかかった。
良賢は取って押さえ、脇差しで以ってさし通した。
その化け物が刀をはねか返そう所を、何度も指し、終に化け物をしとめたり。

その形をみれば、大きさは犬程で、毛の色は白く、口は耳際まで切れていて、背筋に黒い毛があった。
何という化け物かはわからなかった。

「かの寺のザッカと言う化け物はこれであろう。」と、人々は皆、そう言った。
良賢の名は、それより高名となり、智行兼備の坊さんとして敬われた。


作物詞
拾遺百物語  右追而出来(「拾遺百物語」を追って、出版します。)
明和四亥春(1765年亥の年の春)

京六角通油小路西へ入町
     書林 小幡宗左術門板




***********************
以上で、「新説百物語」全文の現代語訳は、終わりです。

叢書江戸文庫 「続百物語怪談集」 国書刊行会出版  を底本とし、
また、国文学研究資料館 https://www.nijl.ac.jp/  にアップされているのも、参照した。



新説百物語巻之五 10、鼻より龍出でし事

2023-08-06 22:45:26 | 新説百物語
新説百物語巻之五 10、鼻より龍出でし事  
                2023.8.
武州(武蔵の国:今の埼玉、東京)の事である。
ある屋敷の若党が昼寝をしていたが、鼻の内がこそばゆく、起きて鼻をかんだ。
その時、鼻の中から飛虫のようなのが飛び出て畳の上に落ちた。
不思議に思って枕もとの茶わんでふせ置き、又一眠りした。
目を開けて思い出し、茶わんをのけてみれば甚だ大きくなり、茶わん一杯になった。

屋敷の主人がその事を聞いて桶に入れて、ふたをしておいた。その日の夕方に見ると、桶一杯の大きさになっていた。

更に大きな半切桶に入れて置けば、これにも一杯大きさに成長していた。

何となく恐ろしくなり、明日は河へ捨てようと庭に出して、大石をおもしにしておいた。

しかし、夜が明けてみれば、石もふたもそのままで、その物はどこに行ったのか見えなくなった、との事であった。

これほど、霊妙なものはないであろう。
もしかしたら、龍ではないのかと話した。

新説百物語巻之五 9、薪の木こけあるきし事 

2023-08-05 22:38:21 | 新説百物語
新説百物語巻之五 9、薪の木こけあるきし事  
   薪が消える話   2023.8.5
因州(因幡。今の鳥取県)の人の語ったことである。
その人の伯父の家には、昔から代々奇異なる事があった。
薪を買って、十束を積んでおき、九束めを積んである部屋へ取りにゆくと、十束めの薪木が残っているはずであるが、帰え失せていた。

この事は、むかしより今に替る事はなかった。
二十束、三十束を買って置いていても消え失せるせる薪木は、必ず十束めの薪であった。

それで、考えて工夫をし、常時九束づつ取り置けば、何の変わったこともなく、薪が消え失せる事もなかった。
しかし、九度めの薪木を取り置きいた時の事である。しばらくして、九束の薪木が一つ残らず消え失せた。

仕方が無いので、今に至るまで、十束づつ買い取っているが、一束が消えるのは、そのままにしている、との事である。

怪しく不思議な事である。