江戸の妖怪、怪奇、怪談、奇談

江戸時代を中心とした、面白い話を、探して、紹介します。

狼は、神の使い  中陵漫録

2021-05-29 23:02:44 | キツネ、タヌキ、ムジナ、その他動物、霊獣

狼は、神の使い      

「中陵漫録」 佐藤成裕(江戸時代後期の随筆)には、様々な、面白い話があります。
目に見えないオオカミが、神様の使いとして、田畑を荒らすイノシシを追い払ってくれた、という話です。


以下、中陵漫録 より

備中の今津と言う所の山中に、小さな社がある。木ノ山権現という。
そのあたりに神社がある。
同じく、また下神代村というのがある。
ここより十里ばかり山の奥であるが、猪が出て田畑の作物を荒し、秋の作物が一粒もとれないことがある。
これを免れんと思へば、この神社から霊符(お守り)ならびに幣帛(へいはく)を受けて来て、祈る。
すると、祈った人に一匹の狼がついて来て、猪の害を防ぐという。
その人、帰路に狼がついて来ている事を気がついていないが、その山路に何か所も渡り超えるべき川がある。すると、川中の石の上の乾きている処へ水がはねて、ぬれた跡がある。
水がはねたのが、現に見えるが、狼の姿は、全く見えないと、その人が、私に話した。
その夜、猪が出て、田畑を荒らす事はない。
狼は、毎夜走り回って猪を狩って、帰るとの事である。

私は、この村の村長の家に数日続けて宿泊した。
薬を採集に行ったのだが、その時、何度かその話の事を、聞き正した。
まったく、その通りであるとの答えであった。


新説百物語巻之五 7、針を喰ふむしの事

2021-05-27 20:03:57 | 新説百物語
新説百物語巻之五 7、針を喰ふむしの事 
   針を喰う虫の話               2021.5

京都三条の西に貞林という尼がいた。
若い時は備前に下って、御物縫いの奉公(責任者)をつとめた。その折の事であった。

この貞林尼は、物を縫う針の折れたのをもったいないと思っていた。それで、折れたのを随分と拾い集め、針箱の底に置いていた。ある時、取り出して捨てようと思ったが、見えなかった。
二度もこの様であった。

ある時、針箱の掃除をしていると、大きさが三分(9mm)ばかりある虫が出てきた。
めづらしい物なので、針さしの上に置いておいた。
この虫は、そろそろとはい歩き、針さしの針をほろほろと喰べた。
さては、先達っての針の折れもこの虫が喰べたのだ、と思って、小さい箱に入れ、針のおれを餌として飼い置いたが、二月ばかりすると、大きさが一寸程(3cm)になった。

この事を御主人が聞いて、その後には古かねなどを与えたが、いよいよ大きくなった。
それで、怪しい物であろうと火で焼き殺したそうである。

これは、この貞林が、直に語ったことである。

蛇の大集合  蛇の塊   「中陵漫録」

2021-05-27 19:53:18 | 奇談

蛇の大集合  蛇の塊
                         2021.5
「中陵漫録」には、蛇が多数あつまる現象を記述した部分がある。
本来の題名は、「蛇相闘(へび あいたたかう)」となっています。

薩州(鹿児島)の西に蛇塚と云う所がある。6,7月時分、蛇が大に集まる時がある。人がその傍らを通り過ぎても、その塚の上に数百匹が塊になって、逃げ去る事はない。
また、備中油野(ゆの)村(岡山県備中町)の山に蝮蛇が集まって、相い闘う事がある。
また、奥州会津の盤梯湖(福島県の猪苗代湖)のあたりでも、このように相い闘う事がある。

編者注:ヘビなどは、時として、繁殖のために、多数が集まることがある。この現象を指していると思われる。


安倍睛明の術くらべ  「諸国百物語」に見える 

2021-05-13 19:52:44 | 安倍晴明、役行者
安倍睛明の術くらべ  「諸国百物語」に見える  

                             2021.5
安倍睛明が、藤原道長の御前で、術くらべをした話

訳者注:この話は、江戸時代に流行した「百物語」の一つである、「諸国百物語」にある。睛明は、平安時代の人であるが、睛明についての逸話は、江戸時代にも広まった。
元の話とは、少し違っている。

以下
道長の御前にて三人の術くらべの事

長徳年中(995年から999年)の相国 藤原道長の前に、比叡山の僧の欽朱(きんしゅ)と安倍睛明と医師の重正(しげまさ)と、三人が同座していたことがあった。
お茶受けに瓜が出された。
睛明が見て、「この瓜のうちに、毒がある瓜がございます。」と占った。
それを道長が聞いて、「それでは、この沢山ある瓜のうちのどれに毒があるのか?」と質問した。
欽朱が、瓜に向かって、印を結んで、呪文を唱え、すぐに一つの瓜を取り出した。
すると重正は、ふところから針を取り出して、その瓜を刺すと、この瓜は動くのをやめた。
道長がこの瓜を割って見ると、そのなかに蛇が一匹いた。
見ると、蛇の目に針が刺さって死んでいた。
三人が同じように優れた術に通じていた事に、道長は、大いに感心したとの事である。