江戸の妖怪、怪奇、怪談、奇談

江戸時代を中心とした、面白い話を、探して、紹介します。

「福島県耶麻郡誌」中の怪異伝説  その7

2023-06-22 18:16:01 |  伝説

「福島県耶麻郡誌」中の怪異伝説  その7
                 2023.6

31.雲海の墓
上江の東北三四町(3・400m)にあり。
高さ五尺ばかりの塚であって、上に五輪がある。
雲海は、いずれの時の人と言う事は、伝わっていない。
並びなき大力の者であって、世を遁れて上江に住んだ。
村の端の堰(せき)に石橋があった。
雲海という大力の者がいた。
彼は、或る夜、戯れに
「あの橋が、なくなった時には、年貢を納めてやろう」と言った。
その時、突然、橋が消えてしまった。

年貢を納めるために、数十人の百姓が、橋のあったはずの場所に来た。
しかし、橋がないので、どうしようか、と困っていた。
それを見て、それでは、堰を渡してやろうと、堰堀に跨がった。
米を背負っている馬の足をとって、すべて対岸に渡し終えたそうである。

それで、力が強くなりたいと願って、橋のある所に詣でて祈ると、効験があると、言い伝えられている。

 

32.竹屋観昔  
姥堂村(うばどうむら:今は喜多方市の一部)字(あざ)竹屋の村の東の高い所にあり。
運慶作の如意輪観音の坐像を安置している。
妊娠した婦人がこの観音に祈れば、難産の憂いなしとして參詣の者が多い、と伝えられている。
世俗は、相呼んで子安観音と言う。


33.赤井戸  
磐梯村(磐梯町)字(あざ)赤枝の村の中にあり。
四尺四方の小池である。
村に災難があろうとする時は、水の色が紅に変じて、その予兆を告げたそうである。

 


34.栃沢山の清水  
磐梯村字下西連村の東北の沢山の中に清水がある。
湧き出る勢いは、強く、かつまた清冽であった。
旱魃の時ここに詣でて、雨を祈れば霊験があって、降るそうだ、との亊。

 

35.目洗清水  
磐梯村字上西連村の町屋に在り。
眼疾の者が、この水を以って目を洗えば、治ると言う。


「福島県耶麻郡誌」中の怪異伝説  その6

2023-06-22 18:11:48 |  伝説

「福島県耶麻郡誌」中の怪異伝説  その6

                   2023.6
26.猿楽沼(さるがくぬま)
布藤の村の南四町(約440m)ばかりにあり。
これより北に??僧(こうそう)沼がある。
この沼より、年老いたるコウ??僧が白馬に乗って猿楽沼に行ったと云ふ

編者注:耶麻郡誌には、カウソウ=こうそう、とルビがふってある。
??は、上は、髟(かみかんむり)、下は害。「漢和大辞典」三省堂、明治26年、には、音「カツ」「ケチ」とある。意味は、かぶろ(禿)とある。
すると、こうそうは、髪の毛のない僧ということになる。しかし、僧というのは、剃髪しているものです。
こうそうとは、奇妙な名前ですね。)

 


27.道徳清水(どうとくしみず)
同村字一沢の村東五町(約550m)にある。
昔、道徳と言う富豪がいた。
この水を汲ませて、常に飲んでいたと言う。

 

28.殺生石(せっしょうせき)  
翁島村(今は、猪苗代町翁島オキナジマ)字土田新田の村西一町(109m)余りにある。
高さ一間半(270cm)、長さ三間半(450cm)。
那須野の殺生石が、源翁(げんのう)和尚に打たれて、この翁島に飛んで来た。
また、源翁が来て、杖で打ち破ったと言う。


29.人取石(ひととりいし)
土田新田の村の北 二十間(36m)にあり。
高さ七尺(210cm)余り、周(めぐ)り九間(約15m)余りである。
毒のある石であって、往来の者がこの毒にあたって死ぬこともあると言う。
何人(なにびと)かの歌に、
「会津山 麓(ふもと)の野辺の 傍(かたわら)に 人取石の あるとこそきけ」
の一首がある。

 

30.駒形原馬頭観音堂(こまがたはら ばとうかんのうどう9
姥堂村(うばどうむら:今は喜多方市の一部)字(あざ)上江の村の東三町(約330m)余りにあり。
昔、源義家が安倍氏を討った時に、願いごとがあって、熊野三社を河沼郡熊野堂村(会津若松市河東町熊野堂)に建立した。
その愛する所の馬を献じて神馬とし、駒形原に放牧した。
その後、馬がいなないて天に昇り、雲の中に声があること七日間であったそうである。
よって、原を駒形原と名づけ、馬頭観音を祭り、この村の鎮守とした。


「福島県耶麻郡誌」中の怪異伝説  その5

2023-06-10 23:31:12 |  伝説

「福島県耶麻郡誌」中の怪異伝説  その5

                   2023.6

21.閼伽井(あかい)
恵日寺(えにちじ)金堂の北にあり。
昔、(弘法大師)空海が修法の閼伽(あか:水のこと)に用いたと言う。

訳者注:閼伽アカは、仏教用語であり、ラテン語のAquaアクアと同じで、水の意味である。この後は、英語にも入っていて、更に現代日本語にも入ってきている。
アクアaquaは、Aqua Lung(アクアラング、水肺),Aquarium(アクアリウム:水槽、水族館)、その他、施設名、商品名に多く用いられておいる。
アクア・ラングが、日本語の閼伽アカと同根の単語である事は、面白いことである。
仏教は、古代インドに発した宗教であるので、仏典の多くはサンスクリット(梵語)=古代インド語でかかれている。サンスクリットは、インドヨーロッパ語族であって、ヨーロッパ語と類縁関係がある。ラテン語(古代イタリア語)のAqua と 仏教用語のアカ(Argha)とが、似ているのはそのためである。また、サンスクリット文字を梵字と言い、サンスクリット文を梵文と言う。
寺院などに、梵字が刻まれた碑などがあるが、我々には読めない文字である。それで、昔の人には、梵字に対して、何か神秘的なものを感じたのであろう。
刻まれている梵字の多くは、ア阿(A)である。
すなわち、サンスクリットのアルファベットの最初の文字である。

 

22.三鈷藤(さんこふじ)
閼伽井(あかい)の上に在あった。
昔、空海が三鈷(さんこ:仏具)をなげうった時にかかった藤であると言う。

 

23.金上盛備墓  
磐梯村(磐梯町)字(あざ)大寺の北一町五十間(190m)余りに在り。
摺上原(すりあげはら)の役に忠死した金上遠江守盛備を葬った墓である。
その霊威は、今にも残っている。
瘧(おこり)を病む者は、竹や木で太刀・長刀を作り、報賽(ホウサイ:お礼参り)すれば、その霊験があると言う。

 

24.媼石(おうないし)  
磐梯村字(あざ)摺上(すりあげ)新田の西二町(約220m)余りにある。
周(めぐ)りは、一丈(約3m)余り。
何れの頃にか、毎夜化して女となった故に、この名があると言う。

 

25.姥山
磐梯村字布藤(ふとう)の村の東十町(約1100m)ばかりに大谷地と言う所にある。
いずれの頃にか、山上に姥明神の社があると言い伝えられている。
山の中腹に、二十間(約36m)四方の平地がある。
昔の礎石が、今でも残っている。
姥明神の拝殿の跡であると云う。


「福島県耶麻郡誌」中の怪異伝説  その4

2023-06-03 23:13:33 |  伝説

「福島県耶麻郡誌」中の怪異伝説  その4

                         2023.6
第十八章 口碑傅説
   第一節 口碑(こうひ)

16.翁島(おきなじま:猪苗代町)  
その島は、翁島村字戸ノロの東南三町(330m位)ばかり、猪苗代湖中にある。
(今は、陸と地続きになり、島ではない。)
東西二町三十間(約270m)、南北二町(220m)余りで、様々な樹が生い茂っている。
村老の説に、昔夫婦の老人がいて、ここに長く住んでいた。
そのことに因って翁島と名づけられたと。
中に小さな祠(ほこら)があり、翁明神と言う。

17.百堂山 
磐梯村(磐梯町)字(あざ)本寺の北七町(約760m)ばかりにある。
昔、恵日寺(えにちじ)繁昌の時、百の堂があったとして、この名がある。

18.鬼清水  
本寺の東北二十二町(約2400m)に五鬼巌(ゴキイワヤと読むのだろうか?)というのがある。
その巌の下より清水が湧き出している。
その岩に、昔五つの鬼が常に住んでいて、この清水を呑んでいたと云う。
空海が加持祈祷をした時に、この鬼たちも失せ去ったという。


19.恵日寺寺領  
村老の口碑(こうはい:口伝え)に、恵日寺(えにちじ)繁昌の時は、寺領は、今を以って見るに、十八萬石であった、と言う。
又、葦名家の四天宿老の一人であった富田氏の児も当寺の役人であったと言う。

注:恵日寺(えにちじ)は、磐梯町にある。昔は、大変に栄えていて、往事は、僧300人、僧兵数千人を数えたという。これは、大げさであろう。磐梯町は、冬は、雪におおわれ、寒冷の地である。これだけの人数を養う程の生産力があったとは、思えない。
また、寒冷の地であることと、お寺を援助する武将もいなかったので、衰退したのであろう。
しかし、東北には、数少ない大きな寺院であったことは、間違いなさそうである。

20.梵字清水  
磐梯村字大寺の東北の方三十町(約3300m)にあり。
一間(180cm)四方である。
空海が、河沼郡にて病悩山を加持し、空中に濁鈷を投し、寺院を建てるのに良い勝地を占った。
初めは、どこに落ちたのか、わからなかった。
然るに、この清水の辺に来て休んで、名号を唱えると、梵文(ぼんぶん:サンスクリット文字=古代インド文字)がたちまち空中にあらわれて、西北の方にたなびいたので、その落ちた所を尋ね得たと言う。

 

 


「福島県耶麻郡誌」中の怪異伝説  その3

2023-06-03 23:07:58 |  伝説

「福島県耶麻郡誌」中の怪異伝説  その3

               2023.6

第十八章 口碑傅説   
  第一節 口碑(こうひ)

11.梵天清水(ぼんてんしみず)  
磐保村(いわほむら:猪苗代町)字(あざ)町島田の西北一町(約109m)ばかりにあり。
昔、源義家東征の時、ここにて従卒が水を乞うた。
そして、幣(ぬさ)を建てて祈願すると、きれいな清水がたちまちに湧き出した、とのことである。


12.観音屋敷
千里村(ちいさとむら:猪苗代町)字(あざ)入江の東南の方にある。
三浦経連が始めて猪苗代に来た時、観音の像を背負って来て、この地に安置したと言う。
今は闢前道(かけまえみち)と言う。
又、この地を耕せば、祟りがあると言いつたえられている。

 

13.釜井川  
翁島村(おきなじまむら:猪苗代町)字(あざ)釜井にある。
昔、水上に一つの釜があった。
村民がそれを取って、持ち主をさがしたが、わからなかったので、泥中に埋めた。
それで、この名がついた、と言う。
村の中央の御壇橋の東方川中に釜淵という所がある。そこが釜を沈めた場所であるそうだ。

 

14.太鼓石山 
高松宮御別邸(天鏡閣)のある所は、昔いつの頃かはわからないが、文次郎と言う者が住んでいた。
よく田植え歌を歌った。
彼の持っていた太鼓が化して石となった。
その石は湖中にあると言う。

15.船石  
長浜(猪苗代の湖岸)の中に在り。
文次郎と言う者の船の化したものだという。
長さは、二間(約3.6m)ばかりで、船の形に似ている。