江戸の妖怪、怪奇、怪談、奇談

江戸時代を中心とした、面白い話を、探して、紹介します。

新説百物語巻之二 5、僧人の妻を盗みし事  

2020-11-21 16:14:53 | 新説百物語
新説百物語巻之二 5、僧人の妻を盗みし事  
        僧が人の妻を盗んだ事

百姓の九郎七と言う者がいた。収入も多くあって不自由にもなく暮らしていた。
真面目で飾らず、自分自身で農作業も行い、夫婦と六歳になる娘と三人で暮らしていた。

その九郎七がある時、用事があって、一泊の予定で京へ出かけた。
その次の夜の九ッ時(ここのつどき;午前零時ごろ)、九郎七の家より火が出て焼け失せた。
六歳の娘が、その時には、近所にうろついていた。
その娘に、母親の事を尋ねると、
「わたくしはよく寝ていましたが、誰かから表へ抱かれて出ただけなので、何も知りません。」
と言った。

あくる日、灰をかきわけて見ければ、母親の死骸とおぼしい焼死体があった。
九郎七は、仕方なく葬礼をとり行い、仮屋などをしつらえて、忌中の営みもした。

七日たち八日たって、二十七日目に、かの九郎七は、娘をつれて菩提寺へお参りした。
娘が言うのには
「かかさまが、あそこからのぞいている。」と。
九郎七は聞いて、子供心に何を言うのだろうかと思った。
娘は、又々、帰りに、
「かかさまが、蔵の窓からのぞいてござる」
と言いながら、さめざめと泣いた。
九郎七は、ふっと気がついたことがあって、そのまま娘をつれ帰った。

そして、近所のもの一人二人雇って、いきなり寺へ行って、有無もいわさず、すぐに土蔵へ行き、二階へ上がった。
すると、九郎七の女房は、生きていて、隠れていた。
菩提寺の僧は、九郎七の女房と密通して、無関係の女の死がいを掘りおこして、九郎七の家に火を付けて、焼死したように見せかけたのであった。

道徳を守るべき僧であるのに、このような重い罪を犯したとして、成敗されたとのことである。

     

新説百物語巻之二 4、江州の洞へ這ひ入りし事

2020-11-04 23:51:17 | 新説百物語

新説百物語巻之二 4、江州の洞へ這ひ入りし事            江州の洞穴へ這い入った事  江州(ゴウシュウ:近江=滋賀県)のある村の山の上に大きな洞穴があった。 昔より、誰も、奥のふかい所を見とどけたものはいなかった。 奥には大蛇が住むとも言い、子どもなどは鬼が住んでいると言って、洞窟のそばに近寄るものもいなかった。 ある年に勢州(伊勢=三重県)より来た神主がいた。 「わたしは、どのくらい奥が深いのかを見とどけたい。」と言った。 又、丁度その時に太夫という者がいて、一緒に行きたいとのことで、二人で探検に出かけた。 干飯のような物、酒などを用意して、洞窟に入った。 およそ二三丁ほど奥へ入って行くと、次第に穴が狭くなり、やっと一人ずつ通れる位になった。 上からしたしたと雫が落ちて来て、松明ですかして見ると、鍾乳石が氷柱(つらら)のように垂れ下がり、白い蝙蝠が多く飛びかっていて、払いのけ払いのけ進んで行き、弐里ばかり来たかなと思うころには、すこしばかり灯りのさすような所があった。 小川が流れており、砂は皆銀のようであって、両方の岸にはびっしりと松茸のような物がはえていた。 よくよく見れば、皆水晶の色をしていて柔らかなものであった。 それより二里ばかり進むと、小さい社があった。何の神様であるかは、わからなかった。 さてどうしたものかと、石の戸を開いて見れば、古文字で書かれた三の字と宝の字だけが見えた。 その外の文字は見えなかった。 なお奥深く行ってみると大きな河があった。 水は浅かったので、歩いて河を渡たって進んでいった。 歩き始めて十七八里ばかりと思う頃に、とある川上に出た。 幸いなことに村里であったので、所のものに場所の名を尋ねた。 すると、伊勢の五十鈴川の川上であることがわかった。 洞穴に入ってから三日目であった、とのことである。