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2023年09月12日 | 本を読んだで

 原田マハ    PHP研究所

 出色の冒険小説である。小生のごとき冒険小説好きのツボをくすぐる小説だ。著者は美術の専門家だから作品の底を流れるのは絵画に対する情熱だ。主人公俵屋宗達の痛いほどの絵に対する愛と情熱が作品の背骨を支える。
 京都国立博物館の研究員望月彩は俵屋宗達に恋している。400年前の絵師俵屋宗達のことが知りたい。宗達専門の研究員ではあるが宗達のことをもっともっと知りたい。俵屋宗達、謎の多い絵師である。生没年さえよく判らない。
 天正遣欧少年使節。九州の3大名が4人の少年キリスタンをローマに派遣してローマ教皇に拝謁させた。この4人の少年使節と宗達には接点はない。史実では。
 望月にマカオ博物館の学芸員レイモンド・ウォンが接触してきた。マカオでぜひ見ていただきたいものがある。望月はマカオに飛ぶ。そこでレイモンドに見せられたのは古文書。筆者は原マルティノ。4人の少年使節の一人だ。この4人日本に帰国したあと過酷な運命が。送り出したのはキリシタンを容認していた織田信長。彼らがヨーロッパに行っている間に信長は本能寺で死す。後継者の豊臣秀吉はキリシタンを禁じた。4人は刑死棄教などの不幸に。そのうちの一人原マルティノはマカオに渡っていた。そのマルティノ文書に「ソウタツ」の文言が。
 ここで物語は400年前に飛ぶ。ローマへの出立を間近になった4人の少年がいるセミナリオに同じぐらいの年齢の少年が京からやって来た。絵師俵屋宗達という。
 宗達は狩野永徳のアシスタントをして「洛中洛外図屏風」を完成させた。絵師としての才能を信長に見込まれた宗達は、この「洛中洛外図屏風」をローマ教皇に献上してこい。そしてお主はローマの「洛中洛外図屏風」を描け。いずれ余がローマに攻め入った時の参考になろうぞ。信長はローマまで攻め入り世界の第六天魔王との意志を持っていたらしい
 こうして京の扇屋のせがれ俵屋宗達は4人の遣欧使節団とともに日本の長崎からはるかヨーロッパのローマへと旅立つ。
 半村良の奇想、田中光二の冒険、稲見一良のロマン。それながないまぜになった出色の伝奇冒険アート小説であった。