ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

われら闇より天を見る

2023年09月13日 | 本を読んだで

 クリス・ウィタカー   鈴木恵訳       早川書房

 ある意味「水車小屋のネネ」と裏表をなす小説といっていい。「水車小屋のネネ」は十代の姉と幼い妹。本作も十代の姉と、こちらは幼い弟。双方の姉とも妹弟に愛情を持ち、母がいない境遇で保護者としての責任感を持っている。
「水車小屋のネネ」では身勝手な母を離れ、幼い姉妹で生きていく。姉妹のまわりはみんないい人。姉も妹も周りの親切に感謝しつつ成長していく。
 本作の姉弟の母親は殺害された。この犯人はだれかというのがミステリーである本作のキモだが、姉弟はいままで一度も会ったことにない母方の祖父の元で暮らす。「水車小屋」の姉理世は素直でいい子。本作の姉13才のダッチェスはつっぱっている。自らを「無法者」といい、その不幸な境遇に決して負けない。かわいい顔と華奢な身体から想像もつかない強烈な少女である。転校先の学校でイジメにあうが、暴力と口で撃退する。
「水車小屋」の姉妹を見守るのはしゃべる鳥ネネ。本作で姉弟を見守りつつ親友の無罪を晴らそうとするのは生真面目な警察署長のウォーク。本作の主人公はダッチェスとウォークであるが、ダッチェスのキャラが強烈。13才の女の子がだれにも負けず弟を育てながら生きていく。