ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

異常論文

2022年08月16日 | 本を読んだで

 樋口恭介編          早川書房

 SFの本質はホラである。筒井康隆師匠がおっしゃてた、「ハードSFなんて真面目な顔してヨタ飛ばすようなもんである」と。
 そのホラをいかにもほんまのように見せかけて、読者のご機嫌を取り結ぶかがSFの出来を左右するといっていい。
 ホラはいわば素材。それをいかに料理して、いかなる媒体を通じて受け手に伝達すのかが大切だ。
 ホラ=SFの伝達方法。映像で伝達する。音楽で伝達する。いろんな伝達方法があるが、文字で伝達するのが王道であろう。文字で伝達する。ここでいろんな料理法がある。韻文に調理したのが、短歌、俳句、詩など。散文に調理したのが小説、エッセイなどである。いずれも「SF」を読者に受容させることに適切である。そういうなかで、本書はSFを文字で伝達する新たな可能性を示したといっていい。SFを論文に調理して読者に提供するのである。書名はごらんのように「異常論文」となっているが「架空論文」とした方がより判りやすいだろう。
 読者をけむに巻く。これはSFにとって大切なこと。いかにホラ大ぶろしきを広げて読者をけむに巻くかがSFを書く者にとって重要である。また小生たちSFの読者も大いにけむに巻かれたくてSFを読むのである。
 23人ものSF者が嘘八百を並べ、盛大にけむを発生させている。ま、おもしろいのもあったり、つまらんのもあったけど、SFの大きな可能性を示した作品集といえる。