Dr. Mori Without Borders / Mori-san Sans Frontieres

森 一仁が医学・国際政治経済金融・人文教養教育など関心問題を国際的・学際的に考える。

もりもり大事典:ボキャが防ぐボケ? ~バイリンガルになって認知症を防げ!~

2007-02-07 00:25:38 | 危機管理:国際人道保健支援・災害救急
"バイリンガル"になると「ボケ」として知られてきた「認知症」の発症を遅らせる事が可能かも知れないと言う研究結果をカナダのチームが発表した。研究によると、一生に渡って二言語を併用してきた人間の認知症の発症時期が、第一言語だけで生活する人々に比べて4年もおそいと言う。今日のブログはぜひ、"最後まで"お付き合い下さい。

現存する仮説では、身体運動・教育・社会活動などのライフスタイルが、神経細胞の"再生しやすさ"とも言える"可塑性"を高めることで、認知症の発症を遅らせたり、或いは認知症から回復させているのだろうと仮定してきたが、先行研究ですでに「二言語使用」によって大人や子供の別なく、「注意」や「認知機能制御」といった高次脳機能が活性化することが見出されている。

2002年から2005年までの間に184名の認知機能に問題があるとされる患者を調べた結果では、91名が単言語使用者(モノリンガル)で、残りの93名がバイリンガルだった。使用された第二言語としてはポーランド語、イディッシュ語、ドイツ語、ルーマニア語、ハンガリー語を筆頭とした25言語だったと言う。

132名がアルツハイマー病であり、52名は他の認知症である。一般認知機能を検査するMMSEという検査法で調べているが、通院開始時のスコアでみる限りではモノリンガル群とバイリンガル群とで差が無い。発症時期は初診をとった神経内科医が患者や患者の家族と介護者らにいつ症状に気が付いたかを問診する事で決めていった。

モノリンガル群の認知症の平均発症年齢が71.4歳であったのに対して、バイリンガル群の平均発症年齢は75.5歳だったと言う。各患者の文化的な差異や、移民や過去の教育水準・学歴から就職、そして性差までもが考慮されたが、それらの要素を差し引いて考えても「一言語」と「二言語」の差は大きかったと言う。「薬剤使用による違いで無い事がドラマティックだ!」とはこの発症遅延を指して言う神経内科部長のフリードマン博士。


<もりもり大事典>
ここまでは「あるある大事典」でも取り上げそうなネタである。ここまで読まずしてN×VAやらEC×やらG×OSに走ってしまったヒトはおそらく家にまだ納豆が山積みされているヒトに違いない。笑。さて、気になるのがココカラである。研究はトロント大学の健康科学センターであるベイクレストにおいて、カナダ健康科学研究所のサポートで行なわれたと言う。なぜカナダでバイリンガル問題を取り上げたか?

ケベック州はモントリオールからさほど遠くないトロント。ケベック州はカナダでもフランス語使用圏である。このケベック州が自主独立を時々表に出す事がある。「英語」と「フランス語」の二本立てのカナダ生活よりは、フランス語オンリーの生活の出来る"ケベック独立共和国"(例えば、の仮称である。)をケベック人達は望んでいるかも知れない。

「美しい言語」と彼らが自画自賛するフランス語だけで耽美的な言語生活を送りたい、そうケベック人達は望む事だろう。英仏戦争の名残、またアメリカ植民地時代の英仏の領土取り合いなどの積年の英語や英連邦に対するフランス系住民の想いは根強い。アメリカのルイジアナ州のケイジャン達の中にすら「フランス語復古運動」があるくらいである。日頃から自主独立を唱えるケベック州をや。ここで英語と英連邦を切り離して、女王陛下を拝まないカナダ=ケベック独立をとケベック州住民が思っていても不思議ではない。

一方のカナダ政府は英連邦の一員である。「フランス語圏」を国内に抱えた「英語」と「フランス語」のバイリンガルの英連邦である。ケベック州の独立問題を抑える為に、まずケベック州住民達の精神的基礎を揺るがそうとするだろう。そうなると「言語問題」に訴えかけるのが手っ取り早い。民族の精神的支柱は今も昔も「国語」である。GHQは日本占領時に漢字と日本語の語彙を簡略化せしめた。

フランス語オンリーのモノリンガル独立国家主義よりも、英語&フランス語のバイリンガル英連邦在留主義の方が健康上且つ医療経済学的にあなたにとって有利ですよ・・・。このように英連邦主義のカナダ政府がケベック州民に呼びかけているように読み取れて仕方が無い。



(私事ですが、このブログの読者である友人達にエールをおくりたいと思います。まず、医学部時代には英語習得に情熱を燃やしていたK総合病院勤務の家庭医学専攻のK君。そして本ブログで何度か紹介したルワンダで第二外国語のフランス語を使いながら臨床心理士・ソーシャルワーカーとして活躍中のK先生、こちらはさらに現地語も修得しつつあるようだが、お二人のようなきわめて真面目で地道な実践家に最大の讃辞を送るものであります。森 拝)


なお、論文抜き刷りの希望は「kconnelly@baycrest.org」Kelly Connelly, Senior Media Relations Officerまでとのこと。ちなみに「Neuropsychologia (Vol. 45, No. 2) February 2007」に発表とのこと。

For more information on this press release or to interview Dr. Bialystok, Dr. Craik, or Dr. Freedman, please contact:
Baycrest Research Centre for Aging and the Brain
P. 416.785.2432, C.416.612.5494.

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