かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

清見糺の一首鑑賞  46

2020-08-04 20:34:49 | 短歌の鑑賞
  ブログ版清見糺研究      モロッコ紀行
      参加者:田村広志、寺戸和子、金子田鶴子、T・H、鹿取未放
       まとめ:鹿取未放      


46 暗きよりジャップという語に狙撃されスークでわずかな買物をする
                     「かりん」97年1月号

(初出) 背中からジャップという語に狙撃されメディナでわずかな
    買物をする       うしの会「モロッコ私紀行」

★状況に敏感に反応している作者、彼は怯えたのだろう。
 渡辺幸一に「窓枠にJAP(ジャップ)とナイフで刻まれし汽車に揺られて通勤しおり」
 という高名な歌がある。(田村)
★アメリカに招待されて行った時、あるレストランで隣りに座っていた夫人
 からジャップと一緒に食事できないと言われてショックを受けたことがあ
 る。日本兵に息子を殺された人だったのかもしれない。(T・H)

 メディナの市場を日本人観光客がぞろぞろと歩いていると、暗いところからというのだから間口の狭い店の奥の方からと考えていいだろう、彼らをめがけて「ジャップ」という語が投げつけられた。声の主の姿は見えない。清見氏ら一行は「ジャップ」の語によって浮かれた旅の気分に水を浴びせられたに違いない。その後は後ろめたい気分を引きずりつつ、うつうつとして買い物を楽しむこともできなかったのだろう。
 初出初句の「背中から」と「暗きより」を比べると、前者は位置関係を表すだけだが、後者は思想的背景まで浮かび上がらせる役割をしており、「暗きより」の方が格段に深みを増している。
 ちなみに、この旅行は馬場あき子と同行した吟行の旅のものだが、おなじスーク場面を馬場はこんなふうに詠んでいる。
モロッコのスークにモモタローと呼ばれたり吾等小さき品種の女
               馬場あき子『青い夜のことば』
 ジャップとは随分ニュアンスが異なる。モモタローというのは彼らが知っている数少ない日本語なのだろう。ルール違反だが、後日馬場に直接伺ったところ、「明るい揶揄」の気分だろうとおっしゃっていた。「蔑称とは感じなかった」そうだ。(鹿取)


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