『でかした、ジーヴス!』① ジーヴスの完璧なるバタフライ・ノット

『でかした、ジーヴス!』
「完璧なバタフライ・ノットを目指さねばなりません」

「ご主人様、タイが問題でない時などはございません」

いやぁ、いいですね。
今回もまた、シビレルようなジーヴスの箴言がビシビシ開陳されております。
ネクタイは靴と同じく、男性の価値を表わすものですからね。
主人が身につけるものすべてを預かる従僕・ヴァレットとしては、ここがセンスと審美眼の見せ所でしょう。

ところで、この上記引用のセリフの場面。
ジーヴスがバーティのタイの結び目(バーティが自分で結んだ)を見咎めて、直そうとするシーンです。

ここにちょっと問題があります。

国書刊行会の訳と、
同原作( Jeeves and the Impending Doom )の翻訳を収録した文藝春秋の訳とで、
意味が違っているのです。

国書版は、こうなっております。
ご提案をお許しいただけますならば、そちらのタイはごくわずかに結び目がきつ過ぎるように拝見いたされます。完璧なバタフライ・ノットを目指さねばなりません。

(『でかした、ジーヴス!』収録「ジーヴスと迫りくる運命」より引用。太字はブログ筆者)


で、こちらが文藝春秋版。
ネクタイでございますが、もう少し固めにお結びを。完全な蝶の形でなければいけません。

(『ジーヴスの事件簿』収録「ジーヴスと白鳥の湖」より引用。太字はブログ筆者)


んんっ? バーティのタイの結び目は、きつ過ぎるのか、それともゆるいのか?
どっちなんだい、ジーヴス?

タイとネクタイ、訳の違いはありますが、どちらも「バタフライ・ノット」「蝶の形」となっているので、ボウ・タイ(Bow tie)であることは間違いありません。
ここで、原文を引いて検証するなど、ツマラナイことはいたしません。
それよりも問題は、ジーヴスの手助けを必要とするような
完璧なるバタフライ・ノットとはいかなるものか、ってことです。

この重大かつ深遠たる問題を、当ブログ毎度おなじみの執事本バイブル、
Staley Ager著 The Butler's Guide から考察してみましょう。

 結び目は、 タイトとルーズのはざまに―

The Butler's Guideでは、ボウ・タイの結び方のみならず、
様々なタイプのタイの管理方法が記されています。
タイの種類それぞれによって異なる洗濯の方法、アイロンの当てかた、
たたみかた、旅行時にバックに仕舞うときの注意点…などなど。
スーツや靴と同じレベルで事細かに述べられていることからも、
いかにタイの管理が重要であったかが分かります。
まさに「タイが問題でない時などございません」

さて、問題のボウ・タイの結び方。
著者は2ページにわたってイラストで解説しております。

10段階に分けて説明くださっているのですが…これが難しい。



こちらがイラスト解説の一部(模写)。
日本キモノの帯結びを思い出させます。
えーっと、ここにそれがきて、
あれをそこにくぐらせて…





著者が紹介する結び方は、Wikipediaの項目Bow tie)で紹介されている結び方とも少し、異なるようです。
“HOW STANLEY AGER TIES A BOW TIE”と銘打って説明していますので、
53年間の召使いキャリアをもつスタンレー氏の、オリジナルの技なのでしょう。

さて、最終段階の10番目、
「タイをやさしく引っ張って結び目を中央に持ってくる」まで読みすすめますと、こんなことが書いてあります。
You will feel the knot loosen to some extent, but overall it will have tightened.

「結び目がある程度ゆるく感じるでしょうが、概して、結び目はきつく締まっています」
う~んこの感覚。 経験を積まなければ得られない技だ。
ゆったりした感じなのに実はキッチリと結ばれている。
これぞ、ボウ・タイの極意です。


従僕が主人のタイを結ぶとき、どんな気持ちなのだろうか。

主人自身がもとから備えている気品と美しさ。
それをタイの結び方ひとつで最大限に引き出す骨折りと達成感。
どこをどう切り取っても「紳士」である主人の姿を眺める喜び。
<わたしはこんな素晴らしい紳士に仕えているのだ>
召使ならではの自負心―。

まあ、ジーヴスの場合、主人バーティのあさっての方向を向いた衣装愛好趣味のおかげで、喜びの時はすんなり訪れてくれませんが…。

※次回、まだ「でかした、ジーヴス」は続きます。
次回記事『でかした、ジーヴス!』バーティの服装管理はジーヴスの職務』

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コメント
 
 
 
ボウ・タイの結び方 (くろにゃんこ)
2006-10-13 08:59:51
あ~、なんか、なつかしい。

かの昔、私がいたいけな女子学生だった頃、セーラー服を着用しておりました。

セーラー服の必須アイテム、それはリボンです。

リボンが美しく結べるか。

これは女子学生にとって重大な問題です。

まさに、リボンが問題でない時などございません、です。

リボンの結び方にも流行がございまして、結び目から長くリボンを出すか、短くするか、襞はどれくらいつけるか、リボンの広がり方はどうか。

ああっ、そんな事を気にする前に勉強しなさい、でございますね。
 
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