フェルメール展で召使い絵画ポストカードをゲットしました―その3

―前回その2の続き―

今回の1枚も、ピーテル・デ・ホーホの作品です。


ピーテル・デ・ホーホ
≪女と子供と召使い≫
1663-1665年頃


イメージを拡大







さて、みなさん。
この絵をぱっと見て、どちらの女性が「召使い」だと思いますか?

(A)赤ん坊に乳を授ける女性 (右側)
(B)子供と手をつなぐ女性 (左側)

わたしは(A)だと思いました。違いました。不正解。ブッブー。

正解は、(B)
左側の、子供と手をつないでいる女性が、召使いです。
で、赤ん坊に乳を授けているのが、女主人。

あたしゃてっきり、右側の女性は乳母だと思ったんですが…。

経験豊富な貫禄ある乳母に赤ん坊をあずけて、うら若い女主人が子供とお出かけしようとする場面かと。「じゃ、あとはよろしくね」なんて。

ま、落ち着いてゆっくり観れば、乳を授ける女性のほうが刺繍の入った綺麗な服を着ているし、もう一方の女性の服はじつに質素で、おまけに買い物かごを携えている。(考えてみれば、赤ん坊を抱えているとはいえ女主人の前で堂々と座っている召使いなんていないやネェ)

とするとこの絵は、買い物に出かける召使いが女主人から指示を仰ぎ「では、行ってまいります」と声をかけている場面なのでしょう。

ヤァそうですか。勘違いしてました。そーでしたかぁ―

―だけでは、終わらない。

展覧会カタログで当時の「授乳」に関する風俗文化の解説を読んで、さらにびっくりしました。
(これだから、展覧会のカタログは買ったほうがいい)
多くのオランダ人著述家によって母乳による育児が推奨され、乳母に任せた場合には子供に悪影響が及ぶという警鐘が鳴らされた。

赤ん坊が口にするミルクは、それが人間のものであろうと動物のものであろうと、授乳する側の性質を遺伝させるものと思われていた。

そのため、怠惰な乳母や動物の乳―牛乳だろうと別の動物の乳だろうと―は与えないようにとの忠告もなされた

(「フェルメール展 光の天才画家とデフルトの巨匠たち」カタログより引用。以下、引用文はすべて同カタログより引用。 ※改行、太字はブログ筆者による)


乳母と動物が同列に扱われてます。
いちおう「怠惰な」と限定した文言がついてるとはいえ。

召使い贔屓のわたくしとしては、ムッとしてしまいます。むー。

さらに癪にさわるのが、この絵の主題がまたしても「家庭の美徳」であるということです。

当時、ピーテル・デ・ホーホをはじめ多くの画家が「家庭の美徳」を主題にした風俗画を描きました。(ピーテル・デ・ホーホにいたっては、なんと全作品の3分の1を占める)

なぜか? 
世間が求めたからですね。「家庭の美徳」を。

貿易の富で裕福な商人が増え、外国の文化宗教が流入する新興国オランダ共和国。
やがて人々は貴族とのつながりが強いカトリックから離れ、新しい教派プロテスタントを受け入れ、奉じた。

プロテスタントはカトリックと違い、修道院制度がなく、聖職者は結婚もできる。

すると、かつては教会がその役割を担っていた「道徳教育」が、家庭の場で行われるようになった。
家庭の神聖性が賛美され、説教集や道徳読本が人気を博した。
家庭の美徳を主題とした絵画は、それらの理想を視覚的に表すものとして、じつに有用であったのだ。
デ・ホーホの描く、揺りかごのかたわらの母親像は完璧なまでの平安と落ち着きに満ちている。聖母マリアが母性愛の象徴とみなされるようになるにつれ、彼の作品に登場する授乳中の母親たちは、この世における「授乳中のマリア」へと変容していった。本作品に描かれているような裕福な家庭においてさえ、経済的には全く支障がないはずなのに、乳母を雇わず、母親自ら母乳で子を育てている。


教会と同じくらい(またはそれ以上)にまで神聖性が高められた「家庭」。
授乳する母親は聖母マリアとなり、聖なる家庭の象徴となった。

しかし、その聖なる家庭の中を、じっさいに「手を使って」清めているのは、われらが召使いです。
礼拝堂を掃き清める信者のように、召使いは室内の床をはき、磨く。
目立たず、ひっそりと。控え目に、勤勉に。

わたしは、「召使いこそが、家庭の神聖性を体現している」と思うのだ。

それなのに、ああそれなのに。

いちばんイイ役は、女主人に奪われちゃうんだ。

…ちっ。


―次回その4につづきます。(最後の1枚)


※画像はFrançois' virtual museumからお借りしました。ありがとうございます。
コメント ( 1 ) | Trackback ( 0 )
« フェルメール... フェルメール... »
 
コメント
 
 
 
こんにちは (teateatea)
2010-03-02 21:39:20
countsheep99さん
お元気ですか?
更新されるのをずーーーーーっと待っています。
おかしな書き込みは早く削除してください。
この書き込みも消してくださっていいです。
せっかくの素晴らしいブログを終わらせないでください。ファンの人たちが泣いています。
また楽しく執事ばなしで盛り上がりましょう。
 
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。