ヴィクトリア女王の従僕ジョン・ブラウン(4) 自負と階級

四回に分けて…と言いながら五回になってしまったこのシリーズ。
今回が最終章です。やっと本題に戻りました。
問題の、
「ヴィクトリア女王の従僕ジョン・ブラウンが、自身の破滅を招いてしまった原因とは?」

答えは…
「ジョン・ブラウンが厳格な召使の階級を無視してしまったから」
だと思います。私は。

映画『クイーン・ヴィクトリア 至上の恋』(原題:『Mrs. Brown』)には、
ジョン・ブラウンが召使の階級など屁とも思っていない様子をあらわす象徴的なシーンがあります。

舞台はお城のサーヴァント・ホール。
城内の召使たち一斉に集い、侍従長の「食事開始」の号令を待っています。
召使たちはテーブルをはさんで2列に分かれ、階級順に並らんで座する。
ヴィクトリア女王に仕えるだけあって、並々ならぬ人数です。
テーブルは長く長くのびてゆく。さざめく談笑の声。

一瞬、サーヴァント・ホールが静まりかえる。
女王の近頃のごひいきの従僕ジョン・ブラウンが、一番上座の席に「ドカッ」と腰を下ろしたのです。

「そこは侍従長の席です」
上級クラスの召使が、戸惑いながらジョン・ブラウンに言います。
しかしジョン・ブラウンはまったく意に介さず、
「今日からは俺がここの席だ」
平然と、勝手に料理にパクつきます。
呆気に取られるまわりの召使たち。
「席順はすべて女王がお決めになられます」
ふたたび上級クラスの召使が諭しますが、ジョン・ブラウンは胸を張って言い返します。
「俺の言うことが、すなわち女王の命令だ」


これは、すごいコトですよ。
周りに座っている召使たちからしたら
「うわーっ、やっちゃった…」てな冷汗もんです。
 
いくら女王お気に入りの召使とはいえ、一介の従僕が侍従長の席に「ドカッ」ですからね。

わかりやすく例えれば、ヴィクトリア女王を大企業の社長とするなら、
オフィスのランチ会合で、代表取締役(侍従長)が座ると決められた席に
社長の個人秘書が堂々と腰掛けてしまったようなもんです。

ほんのわずかなシーンですが「召使の階級・食卓の席順の厳格さ」を知っているか否かで、このシーンを観た時の衝撃度は天地ほどに違います。

私が前回、前々回ブログで厳格なる召使の階級についてご説明したのも、
ジョン・ブラウンの階級無視の行為が、いかに暴挙であるかを皆さまに知って頂きたかったからなのです。

ふたたび召使の階級組織図を見ていただくとよく解かりますが、従僕というのは、召使の組織図からは少し浮いた位置にいます。
組織の枠からやや外れて、主人との関係が密接なのです。

召使のひとりでありながら、組織からは浮いている。
この微妙な立場をよく把握していないと、一家の召使組織の中で上手く立ち回ることは出来ません。
ただでさえ召使たちの中で孤立しがちな立場なのに、
「虎の威を借る狐」でいばってみせたり、他の召使を能無し呼ばわりすれば、ジョン・ブラウンのように召使組織の鼻つまみ者にされるのは必至です。


のちにある一件を境にジョン・ブラウンは女王の信頼を失い、女王の身辺から遠ざけられることとなります。彼のワンマン家政に振り回されていた召使たちは、ここぞとばかりに意趣返しの皮肉と嘲笑を彼に浴びせました。

まったくの孤立無援となったジョン・ブラウン。
愛する女王をテロリストの攻撃から護ろうにも、手を貸してくれる召使は誰もいません。頼れるのは自分ひとりと寝食を忘れ骨身を削り、ジョン・ブラウンは陰から女王の身辺警護に当たります。そして神経を休める暇もなく働いた結果、彼は死の床につくのです。

もし、彼がもう少しまわりの同僚に気をつかって人間関係を築いていたならば、ここまで召使社会から締め出されることは無かったのではないかと思います。

もちろん、階級を無視するほど豪放磊落な人物であったからこそ、ヴィクトリア女王の信頼と愛を得たのではありますが…。


過去記事。召使の階級についての説明はこちら。
ヴィクトリア女王の従僕ジョン・ブラウン(1) 無骨な従僕
ヴィクトリア女王の従僕ジョン・ブラウン(2) 召使の階級①
ヴィクトリア女王の従僕ジョン・ブラウン(2) 召使の階級②
ヴィクトリア女王の従僕ジョン・ブラウン(3) 食卓の席順



さて、ジョン・ブラウンの召使評価です。
いやはや、
ずいぶん極端な召使ですね。

主人に深い献身を捧げるが、態度が尊大。

やっかいな召使だ。こりゃ。


ひかえめ 0
ジョン・ブラウンが考える職業美学には「謙遜」が存在しないのでしょう。代わりに「自負」が光り輝いています。

機転 4
「ビスケット1箱、ドロップ1箱、プラリネ1箱、チョコレート・ケーキ16個…」
主人(ヴィクトリア女王)が毎週注文する嗜好品を人知れずチェックするなど、従僕らしい心遣いです。
こういうの、いいですねぇ。
無骨なくせに、なかなか細やかなサービスをするじゃないか。

献身 5
「わが心は故郷のハイランドにあり」としながらも、
“I'm her Majesty's servant! …indoor's and out.”
(「俺は女王陛下の従者だ! …宮内でも野外でも」)
と力いっぱい海に向かって叫ぶところに、女王への献身(と自負)の傾倒ぶりが推し量れます。

主人からの愛情 4
主従関係にありながら、女王はジョン・ブラウン「私の大切な友人」と公言してはばかりません。信頼関係を築いているからこそ頂ける、ありがたい言葉です。

スタイル 1
いかにもスコットランド人らしい風采なんですよね…ヒゲもじゃで、眉毛も濃くて。
(映画『ハリー・ポッター…』に出てくるヒゲもじゃの森の番人・ハグリットみたい)
いや、ヒゲもじゃが悪いワケじゃないんですけども…
その…キュロットからのぞいたハイソックスの脚が、ガニ股だったもんで…。
それは、チョット…。
すみません。

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