高野虎市遺品展に行ってきました! その③

(前回の続き)

「高野はチャップリンの…あれですから」

高野虎市夫人・東嶋トミエさんが、高野さんとチャップリンのあるエピソードを語る中でポロッとこぼした言葉です。
じつは私、トークイベントで東嶋さんのお話を拝聴していて、この一言がいちばん胸にグッときたんです。

 曖昧で、雄弁な「あれですから」

あるエピソードとは、チャップリンが初めて来日した時のこと。もちろん高野さんも同行した。日本のチャップリン歓迎の熱狂ぶりは大変なもので、東京駅には四万人もの群集が押し寄せた。宿泊先の帝国ホテルに着いたは良いが、車から入口扉へのわずかな距離の間にファンもみくちゃにされ、帽子は飛ばされる、胸ポケットのハンカチは無くなる(高野さんも靴が脱げてしまい裸足でホテルに入った)。
大スターはすっかりヨレヨレ姿に。
しかし、高野さんがチャップリンの服装をちゃんと整えてあげた―「高野はチャップリンの…あれですから」

この時、東嶋さんは「高野はチャップリンの」と仰ってから、少し言い淀み「…あれですから」と言葉を続けられました。
ぴったりくる言葉を探したけど見つからない―そのように私には見えました。

高野さんはチャップリンの…何なのか。

もし高野さんが単に、チャップリンの身のまわりのお世話だけを仕事とする「付き人」「お世話係」「従僕」「使用人」etc…であったなら、どれか当てはまる言葉がすっと出たでしょう。

東嶋さんは「秘書」とも言いませんでした。
高野さんについては、このトークショーの最初にも「チャップリンの秘書をしておられた―」と紹介され、遺品展のチラシ、及び日本チャップリン協会発行の書籍でも「チャップリンの秘書」とされてるにもかかわらず、です。
(当ブログでも、便宜上「秘書」という言葉を使っています)

実際、チャップリンと共にいた時代の高野さんは、秘書、従僕、使用人うんぬんの職種名ではくくれない活躍をしている。

撮影所をきりもりするだけでなく、撮影現場の手伝いまでした。
出演するはずだった俳優が来なくて、代役で映画出演したこともある(『冒険』など)。
離婚訴訟を起こしたチャップリンの妻によるネガの差し押さえを恐れて、チャップリンとふたりで『キッド』のネガを持ってユタ州まで逃げた。
チャップリンが始めて日本を訪れた(1932年5月14日)際は、チャップリンの身の安全を図るため、裏で暗躍した。
(来日した翌日に起きた5.15事件。じつは犬養毅首相とともにチャップリンも暗殺しようと青年将校らは企てていた。危険を察知した高野さんは、東京駅から帝国ホテルへ向かう途中、皇居の前でチャップリンを降ろさせ「日本の風習だから」と説得して拝礼させた)

高野さんは文字通り、チャップリンのためなら「何でもした」のだ。
いったい世の中に、主人のためにここまでする使用人がいるだろうか?

「チャップリンあっての高野、高野あってのチャップリンだった」
と東嶋さんは仰いました。
秘書でした、使用人でした、と職種名だけでは言い尽くせない、ふたりの主従関係。
「高野はチャップリンの…あれですから」
この「あれ」は、「あれ」としか他に言い様のないふたりの強い絆を、曖昧かつ雄弁に表しているように私は思うのです。

 見ごたえ、読みごたえ充実の高野虎市さん資料本

さて最後に、私が遺品展で手に入れた書籍をご紹介します。
日本チャップリン協会出版「チャップリンの日本」

買ってソン無し。充実の資料本!

これ、すばらしい本です。
題名を「高野虎市とチャップリン」と変えたいくらい、高野さんの生涯が詳しく紹介されています。生まれからチャップリンとの出会い、別れ、その後の波乱な人生―。文はすべて大野裕之氏。東嶋トミエさんのインタビューも載っています。
写真が多く、見ごたえもたっぷり。






ふたりの2ショット写真。
右が高野さん。




ちなみに書店販売はしておりません。
私は展示会の会場入口で購入しましたが、チャップリン協会のホームページで特別に通信販売もしているようです。

あとトークイベントの中で、大野裕之氏が「11月30日に『チャップリン暗殺』という本を出します」と仰っていました。5.15事件の際に、高野さんがチャップリンを救うために起こした行動がこの本でより分かるのではないか―と期待しております。楽しみです。
(※いまAmazonで検索したら28日発売となっていました。↓
『チャップリン暗殺 5.15事件で誰よりも狙われた男』)
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今日の新聞コラムで (山橘)
2007-12-04 23:40:02
萩本欽一さんが、晩年のチャップリン邸前で女性マネージャーにあしらわれ、四日粘って会えなかったので「あの映画はウソだ」「インチキ」と日本語で叫んだら、ガウン姿のチャップリンが飛び出してきた、というエピソードが紹介されていました。

もちろん、大野氏の「チャップリン暗殺」の紹介を兼ねてです。(12月4日付け産経新聞コラム)

「あれ」としか説明できない立場ってすごいですね。色々考えたのですが、高野さんはやっぱり、「そうだなあ「あれ」としか表現できないなあ」と笑ってしまいました。

日本の主従だと乳兄弟とかがこんな感じだろうかとも思いました。一緒に育っているから友達のように気安いところもあり、いざというときには命をかけて守ってくれたり。

いろいろ教えていただけて、ずっと気になっていた高野さん情報がたくさん手に入れられて満足です。また「チャップリン暗殺」も読んでみたいと思います。
ありがとうございました。
 
 
 
いえいえ、こちらこそ (countsheep99)
2007-12-05 22:50:22
高野虎市さんの存在を知ったのは、山橘さんのおかげですから!

しかも高野さんは、知れば知るほど深みのある人物だった…。

そうそう、「チャップリンの日本」のあとがき(大野裕之氏記)に、
『アメリカでは、日系4世俳優クライド・クサツ氏が高野の足跡をたどるドキュメンタリー映画を製作中だ』
とありました。
大野氏は監修・出演としてかかわっているらしいです。(あとがき記述は2006年2月17日付)

完成したら日本にも来ないかな~この映画。見たい!
 
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