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なおしのお薦め本(97)『上達の法則』

  クリエイト速読スクール文演第1期生の小川なおしさんから、お薦め本が届いています。


上達の法則
 
                       岡本 浩一

 この本が出版されたのは2002年。ゆとり教育に危機感を持ったことが、この本を執筆した動機のひとつだそうです。著者は、あとがきにこう書いています。

   「学習の場は知識習得の場であると同時に、自分自身の学習能力を発見し、それをとおして、ささやかながらも自尊心や、人生への肯定的な構えを獲得する場であるはずである。小学生に鉄棒の逆上がりや飛び箱を教えるのは、それらが役に立つからではない。逆上がりや飛び箱ができる人がクラスにつぎつぎと増えていくなかで、自分なりに努力し、工夫し、友達の応援などを受けながら、やっとできたという喜びを経験させるためである。その喜びを経験したときに、子ども達は、それぞれ、なにかを摑むのである。上達の法則がその延長にある。

   学年があがって、英単語を覚えたり、イソップ童話を英語で暗唱したり、数学の因数分解に苦しんだり、微積分をやってみるのにも、そういう要素がある。

   そのようななかで、知識とは別に、自信と自尊心が育ち、学習や人生などへの楽観的な構えが形成されるのである。それを過小評価し、実利的観点だけから『円周率は3』と教えてこと足りるとする観点、英単語は大学入試問題に頻出する単語数だけを覚えれば足りるという観点、微積分は文科系には役に立たない(大きな誤認だが)からやらなくてよいという観点は、いずれも、あやまっている。

   この学習性の獲得は、上達を経験することによって起こる人格的な変化である。現在の学校における教科軽視がこのまま続いていくと、知識そのものはともかく、若い時代に上達を経験してこなかった人たちが増え、それが、日本人の精神生活の新しい貧しさとなってやがて顕在化するのではないかという危惧を持っている。上達という体験が、学校や家庭で経験として伝承されにくくなったいま、せめてそのエッセンスを法則という知識の形を借りて記述しておく必要を感じたのである。」

  上達を極める10のステップとして、①反復練習をする ②評論を読む ③感情移入をする④大量の暗記暗唱をしてみる ⑤マラソン的な鍛錬をする ⑥少し高い買い物をする ⑦独自の訓練方法を考える ⑧特殊な訓練法を着想するプロセス ⑨独自の訓練から基礎に立ち返る ⑩なにもしない時期を活かす とあります。この項目からは目新しいものは感じられないかもしれません。ただ、この本全体について言えるのですが、ひとつひとつの説明が微に入り細に入り、しかも著者の経験を基にしているので具体的です。それがこの本の一番の強みだと思います。

   では、これほど上達に関して熱心な著者の、個人的な経験はいかなるものだったのか。引用します。

   「本文には書かなかったが、私が上達したケースには、ある共通点がある。それは、いずれも、最初のうちの進歩が遅かったことである。たとえば、茶道では、最初の二年ばかりは、同時に始めた数人のなかで点前の習得がもっとも遅かった。いまでも師匠が語り種にしておられるほどである。その時期、ふつうの人が疑問に思わないことを疑問に思い、さかんに師匠に質問をしていたことを覚えている。結局、私の場合、スキーマ(引用者註・“枠組み”のこと)を作りはじめるのに時間がかかるようである。そうして、スキーマがうまく形成できた時点で、はじめて、上達の効率が上がるようなのである。

   技能に自分なりの洞察を持ち、その洞察に基づいて、自分独自に工夫したトレーニング法がみごとに実るという経験をひとりでも多くの方にしていただきたいと思う。上達はたんに時間や努力の量だけでは達成できない。そこに、努力すること、ひいては生きることのロマンが存在するのである。

  上達の結果、『見え方』の変わる瞬間があると、何度も強調した。それを多くの方に経験していただきたい。見え方の変わるとき、偶然接した風景や、偶然耳にした言葉が機縁となることが多い。そういう時期は、内的な緊張がつのり、スキーマがわずかな刺激で大転換するところまで来ている。ほとんどなにを見ても大転換のきっかけになり得るところまで問題意識が熟しているのである。

   したがって冷静に見れば、そういう瞬間に、ある刺激に接して『見え方』が一度に変わるのには必然性がある。偶然ではない。けれども、本人にとっては、それはあくまで奇縁であり、奇跡である。あのときに、あの風景、あの人、あの言葉に接したからこそ、『見え方』が大転換したという記憶が、自分の生涯におけるささやかなひとつの奇跡として記憶されることになる。そういう奇跡の訪れは、生きるロマンの最高のものである。」

   なにやら、とんでもない熱を感じさせる文章です。ハウツー本かと思って読み始めたのですが、それだけではありませんでした。ひとことで言えば、上達の先輩が後輩に指導している、という趣きの本。さらに言うなら、生きがいづくりのための本です。

   “上達”という言葉に少しでも惹かれた人にオススメします。   なおし

 

体験記 '06 速読と文演で読書にメリハリが
                   
                       --- 会社員 ---高橋 博明
 



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コメント ( 3 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
Unknown (小川)
2010-01-18 12:33:18
松田さん、こんにちは。

高橋博明さんの体験記を読みました。
ノミで削りながら先へ進んでいくような、力強い文章ですね。頭がいい人の文章を読むのは快感です。

それにしても、この本が教室に置いてあったとは。知らなかった自分にがっかりです。

ではまた。
 
 
 
いい本 (m)
2010-01-18 23:47:40
小川さん、こんばんは。

高橋さんの体験記について、アップする前にメールしないですみません。いい本ということばかりでなく、高橋さんの体験記に目を向けてもらういい機会と思いつき、先走ってしまいました。

「自分にがっかり」ということではなく、できましたら、教室にある本もお薦め本の対象にしていただきたいです。

早く春がくるといいですね。
山形生まれの身にも、最近の気温はきついです。
 
 
 
了解しました (小川)
2010-01-19 21:18:59
松田さん、こんばんは。

ブログの構成はお任せです。ですから、高橋さんの体験記をアップすることには何の不満もありません。

それより驚いたのは、私が松田さんに送ったメールの文章のことです。山崎さんの件はカットされるものとばかり思っていました。
お恥ずかしい話ですが、メールは走り書きのようなもので、毎回アップされてから、「しまった。松田さんに、メールでもなんでも好きなように使ってくださいと言ってたんだ。忘れてた」などと思っている次第です。脇が甘い、と思われるメールは適当に編集してください。もちろん、そのままでも結構です。

長くなりました。それではまた。
 
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