月の岩戸

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アンタレス・5

2013-12-16 04:42:13 | 詩集・瑠璃の籠

その日 わたしは
ひさしぶりに夢から覚めて
小窓にもたれて
外を見ていた

ガラスを透いてくる風は
氷を含んで冷たく
わたしのほおを刺した

窓の外に目をこらしても
夜しか見えない
ときに
ガラス器にたまった墨がゆれるように
闇がうごめくような気もするのだが
それもわたしの目のまよいのようだ

わたしは もう
外の世界を見ることはできないのだろう

こういうことになって
気を落としているのですか

プロキオンが
ささやくように言う

いえ そんなことは
と わたしは外を見ながら
ぼんやりと 答える
それほど 驚いていないということは
わたしが とっくにそれを知っていたか
あるいは
感情を制御されているということなのだろう

わたしは
胸にかすかなねじれを感じながら
また言った

わたしは
真実をつらぬくものです
それだけで
自分と言うものを
やってきた

ええ そうですとも

まことをつくしてきた
あらゆるものに
だから わたしには
ほんとうに
すべてのひとびとを
乗せることができるような
船があったのです

ええ そのとおりです
ですが
ほんとうに みなを乗せようと思って
船を持ってくるのは
あなたくらいですよ

わかっています

たしかに
人々が
あなたの愛を
信じてくれれば
希望はあった

ええ わかっています
だが かれらは

もうやめましょう
あなたは
自分の活動というものを
できないようにされているのです
考えているようで
あなたは考えてはいない
目覚めているようで
眠っている
全ての活動を起こさないように
厳重に中枢を封じられている
それは
あなたが目覚めていれば
感じるであろう現実が
あまりにもむごいからです

ええ そうでしょう
知らないほうがいいことは
知ることに
わたしが耐えられるようになるまで
知らないほうがいいでしょう

わたしは 外の闇に向かって
言葉を吸い込まれるように
言った
感情が 冷えた塊のように
なかなか動かないのは
やはり活動を制限されているからだろう
けれども

人々よ
ほんとうに
わたしは 船を持っているのですよ
あなたがた すべてを
乗せられる船を

わたしなら
みんなあげられるのに
なんにもいらないのに
ただ
たすけたかっただけなのに
わたしは ほんとうに
真実しか 言わないのに

もうそろそろ
眠りましょう
と プロキオンがいう

ええ そうします
と わたしは
素直だ

小窓を離れ 床に向かいながら
わたしは
頭の中に エンディングテーマのように
子守唄が流れるのを聞いた

ああ これは
彼の声だ

そうとも
見えないままに
ずっとわたしのそばにいてくれた
あの星の声だ

ああ どんなにか
あなたのほうが
つらいだろう

ねむろう
きっとそのほうが
彼のためになる

わたしは 寝床にもぐりこんで
やわらかな寝具に身をつつみ
目を閉じた





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1 コメント

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絵の解説 (てんこ)
2013-12-16 04:45:10
ロレンツォ・ロット、「玉座の聖母子と天使たちと聖人たち」部分、16世紀イタリア、盛期ルネサンス。
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