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自主避難者追い出し住宅無償提供打ち切り、「帰る場所はないのに…」

2017-11-14 05:29:52 | 東京新聞

東京電力福島第一原発事故により、強制避難区域以外から自主避難してきた人たちに、さらなる苦境が訪れている。今年三月末で福島県が行ってきた住宅無償提供が打ち切られてから半年、避難先の住宅からの退去を迫る姿勢が本格化してきたからだ。「帰る場所はないのに…」。不安を募らせる自主避難者たちの声を聞いた。 (大村歩)

「建物が古いからここは 冬は大変だべ。湿気がすごくて除湿器をかけてないと押し入れの布団が水浸しになるし、カビがぶわーっと生えるんだ。畳だってもう腐ってて限界なんだが、交換してくれない」
山形県米沢市にある雇用促進住宅万世宿舎。ここで六度の冬を越してきた元高校教諭武田徹さんは、わが家の状況をこう語る。妻の節子さんと二人暮らし。この宿舎のほとんど空き家で、人の気配の少なさが、室内に入り込む冷気をさらに冷やす。
武田さんは九月下旬、米沢市内にある他の二宿舎に住む自主避難者七世帯とともに、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構から提訴された。同機構は、全国の雇用促進住宅を所有してきた厚生労働省の外郭団体。つまりは国から訴えられたのだ。自主避難者に対する立ち退き訴訟は、全国で初となる。
福島県からの自主避難者は昨年十月の時点で26600人いた。同時期の避難者全体の約三分の一にあたる。福島県全域が災害救助法の適用を受けたため、避難指示区域外の避難でも支援の対象となったが、避難指示区域内なら得られる東電からの賠償金などはなく、住宅の無償提供が公的支援のほぼ全てだった。
なのに、福島県は原発事故以降、自主避難者に行ってきた住宅無償提供を今年三月に打ち切った。雇用促進住宅の避難者への無償提供も、これに連動して打ち切られた。
だが、武田さんら八世帯は、同機構側に家賃を支払わないまま住み続けた。訴状は、八世帯に、立ち退きと、未払いの家賃35000〜37000円を4月分からさかのぼって支払うよう求めている。
訴状には、四月以降に機構は武田さんらと同様の境遇にある500人以上と有償での賃貸契約を結んでおり「公正、公平の観点から、被告らの継続入居を容認できない」とある。

武田さんは「一般論なら、機構側の言うとおりだ」と認めつつ、「俺たちは何も悪いことはしてねえ。避難しなきゃならない原因をつくった国や東電が、家賃を支払つのが当たり前なんだ」と声を震わせる。節子さんは「他の人たちは払っただろっていうけど、払わされたんですよ。無理やり」と言う。
ただ、立ち退き訴訟という事態は重い。「そら訴訟なんて人生初だもの、みんな」と武田さん1八世帯のうち五世帯が高校生以下の子どものいる子育て世帯で、生活はギリギリだ。父親が毎日、車で一時間以上かけて福島県まで働きに行き、母親がパートに追われるという世帯もある。
「子どもがいれば放射能が怖いから福島には戻れない。子どものことを考えれば、転校はさせたくない。動けねえんだ。そういう家は」

そもそも住宅の無償供給は、どうして打ち切られたのか。
福島県の担当者は「除染の進捗状況、食品の安全性の確保などで生活環境が整い、災害救助法で応急的に対応するような局面ではなくなったため、もともと避難指示の出ていない自主避難者は同法の適用から除外した」という。
自主避難者向けの無償提供住宅は、昨年十月の段階で10524世帯あった。同県は激変緩和措置として、所得が一定以下の世帯に月額最大三万円の家賃補助をしているが、対象は約2千世帯にとどまる。
担当者は「いまの福島県は戻ってくる気になれば戻れる状況。個別の事情で福島に帰りたくない人がいるのも分かるが、そこは個々の判断だ」と話す。
「自主避難者はもういない」 「なるべく帰還せよ」というのが国や福島県の立場だ。事実、復興庁の避難者統計は自主避難者を人数にカウントしなくなった。
避難者でなければ一般人だから、とばかりに「追い出し」の圧力は容赦なく高まっている。
東京都東久留米市にある国家公務員住宅では、初夏の除草作業の際、自主避難者が住んでいるところだけが除草されなかった。避難者の女性が理由を尋ねる
と、作業員は「ここはやらなくていいと(同住宅を管轄する)関東財務局側から言われた」と答えたという。
もともと取り壊し予定で、五年前から公務員は住んでおらず、住んでいるのは自主避難者の四世帯だけ。女性は「誰もいないところは草刈りして、私たちのところは草ボーボー。夫は『これは嫌がらせだ』と怒った。放置することで、出て行ってほしいんだなと強く感じる」と話す。
江東区の国家公務員宿舎東雲住宅に息子(34)と入居している寺島えな子さん(57)は「役人二、三人が玄関先に来て『今ここで有償入居の契約を』と迫られたという人もいる。心臓が飛び上がりそうになる」と不安がる。
自身も息子も「福島県から逃げてきたとうわさされることがトラウマで働けない」ため、現在は無収入で、月額約8万円もの有償入居はできない。「いつか山形のケースのように訴えられるかも。どうなるんだろうと不安だ」と話す。
その不安が現実化しそうな動きもある。
福島県は十日、無償提供の打ち切り後も、家賃を払わず住み続けている県内の自主避難者五世帯に、立ち退きと未払い家賃の支払いを求め、提訴する方針を固めたという。同県が実際に居住している避難者を提訴するのは、今回が初めてだ。
避難者と支援者でつくる市民団体「避難の協同センター」事務局長の瀬戸大作さんは「離婚した母子避難や、生業を失った高齢者、打ち切り後、多くの人が有償で住まざるを得なくなり、深刻な貧困状態に陥った人からの相談が多くなった」と話す。
瀬戸さんによれば、困窮した人に福島県が、避難先で生活保護を受けるように勧めるケースも多いが、避難先の自治体は「生活保護を受けるぐらいなら福島に帰っては」と避難者に言うこともあるという。
「複雑な事情を抱えて知らない土地で暮らす避難者は孤立しており、支援を受けられないでいる。国や福島県は追い出しの裁判をするのではなく、真筆に避難者と向き合ってほしい。あれだけの原発事故の被害者なのだから」

デスクメモ
雇用促進住宅は、炭鉱労働者の転職支援に始まる。どこも老朽化が激しく、一般アパートに移った被災者も少なくない。
国策の犠牲者に住みにくい住宅しか供せないのも情けないが、そんな住宅から「追い出し」を急ぐ非情には暗たんたる気持ちになる。恥ずかしい国になったものだ。(洋)

 


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