「差不多」的オジ生活

中国語の「差不多」という言葉。「だいたいそんなとこだよ」「ま、いいじゃん」と肩の力が抜けるようで好き。

サクリファイス

2008-10-26 | 
近藤史恵さんの小説「サクリファイス」。自転車のロードレースを舞台に描く、まあなんというか、ミステリーに分類される内容なのでしょうか。分類はどうあれ、私は面白く一気に読ませてもらいました。最後のほうの二転三転する展開には、うまく「だまされる」ような快感さえ感じます。人間の善意、他者への思いやりを信じたくなる。そんな内容。お奨め度が高い作品です。

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ただ、あの人を勝たせるために走る。それが、僕のすべてだ。
勝つことを義務づけられた〈エース〉と、それをサポートする〈アシスト〉が、冷酷に分担された世界、自転車ロードレース。初めて抜擢された海外遠征で、僕は思いも寄らない悲劇に遭遇する。それは、単なる事故のはずだった――。二転三転する〈真相〉、リフレインの度に重きを増すテーマ、押し寄せる感動! 青春ミステリの逸品。


ロードレースのことを知らない人が読んでもわかるように、丁寧に駆け引きや、エースとアシストのことが説明されています。ロードレ-スは通常、チーム戦です。チームのエースを優勝させることがチームの目的。だから、ひとりのエースのためにほかの選手はアシストとして己のすべてを犠牲にする。まさにサクリファイスです。たとえば実際のレースでもあったのですが、若いアシストの走りが絶好調で、初めてステージ優勝も狙える場面があった。ところが、エースの自転車がパンクしてしまい、サポートカーはしばらくこれない状況。アシストにエースはタイヤをはずすように命じます。そして、アシストは栄光を手にすることはできなかった。それが当然のこととして受け止められるのがロードレースです。エースの勝利のためにのみ存在するアシスト。この小説の肝がこの絶対的関係性です。

その関係性の中でエースの座を目指す人間とエースの座を守ろうとする人間がいる。当然ですよね。人間のどろどろとした欲も出てくる。そんな話の展開が最後の最後で浄化されるように、実に悲しいけれど、美しい人間の物語に転化されます。

ここからはネタバレ的部分がありますのでご注意ください。

サクリファイスを強要していた側が、心の痛みを感じないことはないだろうと思うんです。アシストたちの夢をつぶし、アシストたちの思いを一身に担う。責任感に押しつぶされる人がいてもおかしくはないでしょう。小説の中のエースはまさにそんな心でアシストたちと接している(表面上はまったくそんなことを感じさせない。むしろ、怖い人として受け止められているんですけど)。サクリファイスを受け入れる責任ある立場として、その犠牲に報いるべく最後の最後、まさに自らの命をかけて、自らをサクリファイスすることで若いアシストの未来を切り開く。そのことを誰に伝えるわけでもなく、だれに理解されることも期待しないで行う。たまたまそれに気づくことができた主人公。最後の最後まで読者もそのことに気づかないだけに、エースの行動の意味がわかると最後は怒涛の感動です!

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