11月は茶道の世界で「茶人の正月」と言われ、5月の新茶の頃に頃摘採したお茶を、壺に入れて封をしたものを、開けて頂くという「口切り」という行事もあるそうです。
新茶の頃は、香りが良く、爽快感のあるお茶が楽しめ、またそんな季節でもありますので、静岡や関東では人気がありますが、京都界隈では皆さんあまり「新茶、新茶」と言われません。
実際、新茶の抹茶は全体のバランスが香りに振れて、味の深みが軽い感じもします。
そして、夏を上手に越えられれば、逆に越えられる力の強いお茶であれば、秋ごろコクと深みのある熟成されたようなお茶になっております。
なれなかったお茶、「新茶の頃は美味しかったのに・・・」みたいなものは<秋落ち>などと言われています。
ですので、宇治茶などはこの辺の熟成に重きを置いているのかも知れません。
で、私も一人、「口切りの儀」を行いました。
4月30日に摘採された、静岡県掛川市の東山地区という素晴らしいお茶が出来る地域のお茶で、「これは相当いいな~」というものを少量仕入れました。
まず、「秋落ち」に関して、全く問題なく、味に深みが増して自画自賛です。
次に、「火入れ」という製茶の工程でお茶の風味を決める重要なものがありますが、その火入れ温度です。
103℃、104℃、105℃、106℃と入れてもらいました。この数字は、そのお茶に対してですので、特に意味はありません。
103℃では、青臭さ・渋みが残りました。106℃ですと、少し香ばしすぎて、新茶の若々しさがなくなってしまう印象でした。
そして12月に試飲。
採用の104℃は、香りこそ少し落ち着いていますが、味わいは濃厚な新緑のうま味、茶畑が口に広がるようでした。
105℃はやはり普通。可もなく不可もなく。味わいはもちろん原料が良いのでとても良いです。
106℃、当時より少し「火が戻る」という落ち着いた印象でしたが、甘味とコクが増していて、もし、今の時点で設定するなら106℃だなという感じでした。
火入れをした際に、当店の責任者より「火を強く入れた方が秋まで持つよ」と言われましたが、確かに。
私どもお茶屋は、まず、よい原料を見極める⇒それは今だけか?秋以降も味が乗る力のあるものかで厳選します。
そして、その「火入れ」は、お客様にどのタイミングで飲んで頂くお茶か?さらに、お茶を味と香りで掛けわせて
合組(ブレンド)しますが、どこの畑とどこの畑が相性が良いかなど計算して設計していきます。
それを単発ではなく商品として、そして毎年同じような品質でお届けするように心がけております。
今回、若手の私は実験的に行っておりますが、当店のお茶は常に長年の経験と勘のある茶師が行っております。
引き続き、お客様にお喜び頂けるお茶作りを心掛けて参りたいと感じた次第です。