その2です。
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2 職能心理士(医療心理)養成の基本理念
学士課程における職能教育の観点からすると、心理学教育プログラム検討分科会と本「分科会」が対外報告で示した心理学教育の基準カリキュラム案を核とする心理学専門科目の他に、それぞれの職能に応じた専門科目からなる職能種別専門科目(法律的用語として周辺科目と呼ばれ、各職能教育にとって中心的な科目群でもある)が必要である。
職能心理士(医療心理)養成は、心理学に関する高い専門知識と応用能力を駆使して主体的に行動し、社会に対する責任を果たしながら、医療領域の問題解決に向かえる資質を担保できることが重要である。
そのため、職能心理士(医療心理)の養成カリキュラムが、一定の教育基準を担保しているという第三者認証が必要である。その意味においても、職能心理士(医療心理)養成の資質保証には、わが国の優れた科学技術者養成教育のグローバルスタンダードを作る目的で設立された機関である日本技術者教育認定機構(Japan Accreditation Board for Engineering Education; 略称 JABEE、以下JABEE)のような養成カリキュラム認証制度を確立することが重要である。
現在、科学技術領域での国家資格は「技術士法」に基づく文部科学省所管の名称独占の資格がある。この法律は昭和32年に制定後、昭和58年に全面改正され、平成16年4月からJABEEの認証する技術教育修了者については、文部科学大臣の指定を受けて技術士の1次試験が免除されるようになり、JABEEの認証制度が科学技術者養成教育の資質保証に重要な役割を担っているといえる。この点から、国家資格としての「職能心理士(医療心理)」の資格法制を確立する上で、養成教育の資質を担保する第三者認証制度は重要な機能を果たさなければならない。
大学院修士課程における「技術士」のカリキュラム認定も、JABEEは修士
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課程で総計68単位の科学技術教育カリキュラムを設定し、この単位の修習者を1次試験受験の要件としている。これは、JABEEが工科系以外からの工科系大学院への入学者に対して、基礎的な科学技術教育を担保するよう教育機関に求めているからである。
この点からすると、どのような専門分野からの大学院進学者も受け入れ、大学院修了要件単位の30単位の授業科目で資格受験を認めている現行の臨床心理士資格認定制度とは、教育理念と資質保証に大きな違いがある。従って、どのような職能心理士(医療心理)養成を指向する大学や大学院であっても、学士課程相当の心理学の専門基礎教育の質を担保する必要がある。
3 職能心理士(医療心理)の養成カリキュラム案
医療領域に従事する相当数の心理技術者が、チーム医療に関わって活動しているのが現状であり、今後の医療の高度化・多様化を展望すると、その必要性が一層増すことが予想されるため、職能心理士(医療心理)が医療法制上の問題がなく活動できることを保証する国家資格法を成立させることは急務である。
そのための養成カリキュラムは、心理学教育の基準カリキュラムの心理学専門科目の外に、どのような周辺科目を加えることが妥当かという点が問われることになる。医療心理の場合、その職能に必要な専門の履修が多岐にわたり、職務遂行にあたって他職種との連携が求められる。一方、心理学は大学で初めて履修をする学問分野であることから、その教育成果を担保するうえで4年間の学士課程教育は欠かせない条件である。
さらに、学士課程では現代心理学諸領域の専門知識を習得するだけでなく、卒業研究による問題処理の力量養成や、全学共通教育科目の履修を通じて広い視野の教養を具えることも、高等教育を受ける者の必須要件である。これらの要件を充たすことで「ジェネラリスト・マインドをもつ心理のスペシャリスト」の職能心理士(医療心理)の養成が可能となる。
医療チームの構成員として医療心理領域の心理技術者としての役割を担うには、心理学の専門教育に加え、医学や保健・福祉関連の基礎的学問知識の習得が求められる。そこで、他の医療関連資格の養成カリキュラムに倣い、表1に示すような医療心理学領域における職能心理士(医療心理)の養成教育カリキュラム案を作成した。
このカリキュラム編成にあたって、心理学教育プログラム検討分科会の対外報告で提示した心理学教育の基準カリキュラムの中から心理学基礎論4科目と心理学特論10科目の計14科目を心理学専門科目とした。
さらに職能別専門科目として臨床心理学4科目と医療心理6科目、医療従事者の知識として最低限必要とされる医療心理周辺科目を4科目とする3科目群総計14科目を設けた。特に、医療心理実地実習は、事前実習1週間を含
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め5週5単位とした。
また、医療心理周辺科目群は、医療分野の心理学的行為ないし心理業務を行う上で必要な医学分野である精神医学、小児医学、心身医学を中心に概観し、これらの領域に関連する神経薬理学や生理学などの基礎医学や最近著しい進歩をとげた脳科学などを習得する「医学序論」、精神保健、思春期を含む生涯発達心理の問題を、医療並びに福祉の観点から概観し、これに関わる精神保健の国内的、国際的課題を理解する「精神保健学」、母子保健、成人・高齢者保健、心理的・地域的危機介入に関わる地域保健・福祉の問題を、医療・保健・福祉の制度並びに社会保障法制の観点から概観する「地域保健福祉論」の3科目を設け、これらは通年2期4単位の科目とした。
これに加えて、障害者への心理的支援について職能心理士(医療心理)が持つべき障害理論及び各種の障害者の心理的特徴理解のための障害心理学並びにノーマライゼーションに必要な支援技術論を概観する「障害者支援論」を1期2単位として設けた。
表1の教育課程の履修単位数は、基礎科目群となる心理学専門科目14科目32単位と卒業論文6単位に加え、職能別専門科目の医療心理関連科目10科目23単位、医療心理周辺科目4科目14単位となり、これに全学共通科目を30から40単位とすると、職能心理士(医療心理)の養成教育の最低卒業要件単位総数は105から115単位となる。従って、学士課程最低卒業要件単位総数の124単位をやや下回ることになる。
本提言では、これを最低規準単位枠として、各大学の職能心理士(医療心理)養成の特色を出すために必要と考える心理学専門科目、周辺領域科目、実習科目等を、卒業要件単位まで加えることができるよう養成カリキュラム編成上の余裕を持たせた。
この養成カリキュラムを実施する上での問題は、学士課程で心理学教育を行っている大学でも教育担当者数
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2 職能心理士(医療心理)養成の基本理念
学士課程における職能教育の観点からすると、心理学教育プログラム検討分科会と本「分科会」が対外報告で示した心理学教育の基準カリキュラム案を核とする心理学専門科目の他に、それぞれの職能に応じた専門科目からなる職能種別専門科目(法律的用語として周辺科目と呼ばれ、各職能教育にとって中心的な科目群でもある)が必要である。
職能心理士(医療心理)養成は、心理学に関する高い専門知識と応用能力を駆使して主体的に行動し、社会に対する責任を果たしながら、医療領域の問題解決に向かえる資質を担保できることが重要である。
そのため、職能心理士(医療心理)の養成カリキュラムが、一定の教育基準を担保しているという第三者認証が必要である。その意味においても、職能心理士(医療心理)養成の資質保証には、わが国の優れた科学技術者養成教育のグローバルスタンダードを作る目的で設立された機関である日本技術者教育認定機構(Japan Accreditation Board for Engineering Education; 略称 JABEE、以下JABEE)のような養成カリキュラム認証制度を確立することが重要である。
現在、科学技術領域での国家資格は「技術士法」に基づく文部科学省所管の名称独占の資格がある。この法律は昭和32年に制定後、昭和58年に全面改正され、平成16年4月からJABEEの認証する技術教育修了者については、文部科学大臣の指定を受けて技術士の1次試験が免除されるようになり、JABEEの認証制度が科学技術者養成教育の資質保証に重要な役割を担っているといえる。この点から、国家資格としての「職能心理士(医療心理)」の資格法制を確立する上で、養成教育の資質を担保する第三者認証制度は重要な機能を果たさなければならない。
大学院修士課程における「技術士」のカリキュラム認定も、JABEEは修士
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課程で総計68単位の科学技術教育カリキュラムを設定し、この単位の修習者を1次試験受験の要件としている。これは、JABEEが工科系以外からの工科系大学院への入学者に対して、基礎的な科学技術教育を担保するよう教育機関に求めているからである。
この点からすると、どのような専門分野からの大学院進学者も受け入れ、大学院修了要件単位の30単位の授業科目で資格受験を認めている現行の臨床心理士資格認定制度とは、教育理念と資質保証に大きな違いがある。従って、どのような職能心理士(医療心理)養成を指向する大学や大学院であっても、学士課程相当の心理学の専門基礎教育の質を担保する必要がある。
3 職能心理士(医療心理)の養成カリキュラム案
医療領域に従事する相当数の心理技術者が、チーム医療に関わって活動しているのが現状であり、今後の医療の高度化・多様化を展望すると、その必要性が一層増すことが予想されるため、職能心理士(医療心理)が医療法制上の問題がなく活動できることを保証する国家資格法を成立させることは急務である。
そのための養成カリキュラムは、心理学教育の基準カリキュラムの心理学専門科目の外に、どのような周辺科目を加えることが妥当かという点が問われることになる。医療心理の場合、その職能に必要な専門の履修が多岐にわたり、職務遂行にあたって他職種との連携が求められる。一方、心理学は大学で初めて履修をする学問分野であることから、その教育成果を担保するうえで4年間の学士課程教育は欠かせない条件である。
さらに、学士課程では現代心理学諸領域の専門知識を習得するだけでなく、卒業研究による問題処理の力量養成や、全学共通教育科目の履修を通じて広い視野の教養を具えることも、高等教育を受ける者の必須要件である。これらの要件を充たすことで「ジェネラリスト・マインドをもつ心理のスペシャリスト」の職能心理士(医療心理)の養成が可能となる。
医療チームの構成員として医療心理領域の心理技術者としての役割を担うには、心理学の専門教育に加え、医学や保健・福祉関連の基礎的学問知識の習得が求められる。そこで、他の医療関連資格の養成カリキュラムに倣い、表1に示すような医療心理学領域における職能心理士(医療心理)の養成教育カリキュラム案を作成した。
このカリキュラム編成にあたって、心理学教育プログラム検討分科会の対外報告で提示した心理学教育の基準カリキュラムの中から心理学基礎論4科目と心理学特論10科目の計14科目を心理学専門科目とした。
さらに職能別専門科目として臨床心理学4科目と医療心理6科目、医療従事者の知識として最低限必要とされる医療心理周辺科目を4科目とする3科目群総計14科目を設けた。特に、医療心理実地実習は、事前実習1週間を含
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め5週5単位とした。
また、医療心理周辺科目群は、医療分野の心理学的行為ないし心理業務を行う上で必要な医学分野である精神医学、小児医学、心身医学を中心に概観し、これらの領域に関連する神経薬理学や生理学などの基礎医学や最近著しい進歩をとげた脳科学などを習得する「医学序論」、精神保健、思春期を含む生涯発達心理の問題を、医療並びに福祉の観点から概観し、これに関わる精神保健の国内的、国際的課題を理解する「精神保健学」、母子保健、成人・高齢者保健、心理的・地域的危機介入に関わる地域保健・福祉の問題を、医療・保健・福祉の制度並びに社会保障法制の観点から概観する「地域保健福祉論」の3科目を設け、これらは通年2期4単位の科目とした。
これに加えて、障害者への心理的支援について職能心理士(医療心理)が持つべき障害理論及び各種の障害者の心理的特徴理解のための障害心理学並びにノーマライゼーションに必要な支援技術論を概観する「障害者支援論」を1期2単位として設けた。
表1の教育課程の履修単位数は、基礎科目群となる心理学専門科目14科目32単位と卒業論文6単位に加え、職能別専門科目の医療心理関連科目10科目23単位、医療心理周辺科目4科目14単位となり、これに全学共通科目を30から40単位とすると、職能心理士(医療心理)の養成教育の最低卒業要件単位総数は105から115単位となる。従って、学士課程最低卒業要件単位総数の124単位をやや下回ることになる。
本提言では、これを最低規準単位枠として、各大学の職能心理士(医療心理)養成の特色を出すために必要と考える心理学専門科目、周辺領域科目、実習科目等を、卒業要件単位まで加えることができるよう養成カリキュラム編成上の余裕を持たせた。
この養成カリキュラムを実施する上での問題は、学士課程で心理学教育を行っている大学でも教育担当者数