心理学オヤジの、アサでもヒルでもヨルダン日誌 (ヒマラヤ日誌、改め)

開発途上国で生きる人々や被災した人々に真に役立つ支援と愉快なエコライフに渾身投入と息抜きとを繰り返す独立開業心理士のメモ

心理の国家資格についての、昨年の日精協の主張を点検しておく

2006-01-09 10:42:52 | 心理国家資格
通常国会の開催を控えているのに、心理の国家資格については、日本精神病院協会の動きしか、聞こえてきません。
そして、当事者の手の届かないところで、政治という枠との絡みで、かろうじて動いているようです。
いろいろ動いてきたけれど、心理職って、政治の舞台に主体的に登場する人として、未だに見なされていない・・・という残念な感じもあります。

昨年の反対声明と修正要求との2つの資料から、日精協の主張を再点検しておきたいと思います。
なお、日精協は、精神科病院経営者の組織です。
1991年から始まった旧厚生省による心理の国家資格準備では、中心的な役割を果たしてきた団体で、今回の議員立法による法案上程では、反対の先陣を切った団体でもあった、と言えます。

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2005年7月22日 臨床心理士及び医療心理師法案要綱骨子(案)に対する反対声明

社団法人 日本精神科病院協会
会 長  鮫 島  健

 日本精神科病院協会としては、以前より医療現場における心理職の必要性をチーム医療の観点から強く訴えてきたところである。その上で、過去厚生科学研究班においても当協会より参加し、その国家資格化について十分議論を積み重ねてきた。
 このような努力にもかかわらず、心理職の国家資格化は進展しなかった。その後、全国保健・医療・福祉心理職能協会の強い要請もあり、また心理行為における認識が一致し、医師の指示の下に業務を行うことを前提に、その国家資格化については、当協会として協力することを機関決定した経緯がある。
 しかし、今般議員立法として提案されようとしている「臨床心理士及び医療心理師法案要綱骨子(案)」は、「臨床心理士」及び「医療心理師」を一つの法律に規定しようとするものであり、「医療心理師」の国家資格化を推進してきた当協会としては、容認しがたい点がある。国家資格化のために尽力していただいた議員連盟の先生方には心から敬意を表すものであるが、当協会としては修正を要望している通り、現状の「臨床心理士及び医療心理師法案要綱骨子(案)」については、反対せざるを得ないと判断したものである。
 以上、心理職の国家資格化については、原点に返り、法的にも医師法、保助看法との関係も明確なものとして、再考されるべきものと勘案する。先にも述べたように、当協会としては、医療現場における心理職の国家資格化については、十分その必要性を感じており、今後とも十分議論を重ね、各種関係団体が合意出来る国家資格化を実現することを切に願うものである。

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臨床心理士及び医療心理師法案要綱骨子(案)に対する
日精協 医療従事者問題検討部会の見解

 日精協は、医療心理師国家資格制度推進協議会に参加し医療心理師国家資格化に賛同してきたところであるが、今回の臨床心理士及び医療心理師法案要綱骨子案については容認できない部分がある。仮に骨子案の通り臨床心理士、医療心理師の二つの資格化を一つの法案で行うこととするなら、下記の項目について反対意見を表明し法案の修正を要求する。
 1.「臨床」という名称は一般的には医療を表す名称と受け止められている。臨床心理士という名称は「社会心理士」等の名称にするべきである。
2.骨子案では医療心理師が臨床心理士に包含された形になっていて、二つの資格に権限の差が歴然としている。また、医療の分野においては臨床心理士と医療心理師の両方の資格が認められることとなり、精神医療の現場を混乱させる可能性がある。二つの資格の職域を明確にするため以下のように骨子案の訂正を求める。
① 第一 二 定義 1 「教育、保健医療、福祉」を削除し「医療、福祉を除く」を挿入する。また「高度の」を削除する。
② 第一 二 定義 2 「当該障害者の精神の状態の維持又は改善に資するため、」の後に「保健、医療、福祉等の分野において」を挿入する。
③ 第四 一 臨床心理士及び医療心理師の義務 3 関係者との連携等 ② 全文を削除する。
 3.対象の違いが不鮮明である。一方は「心理的問題を有する者」とあり、一方は「傷病者」となっているが、両者の本質的な差があるとは思えない。したがって上記2の職域を明確にすることをもって二つの資格の並存を認めざるを得ない。
4.臨床心理士の受験資格の認定には、主務大臣が①に掲げる者と同等以上の知識及び技能を有すると認めた者となっているが、経過措置としては認められても通常の試験資格としては極めてあいまいな基準となっている。削除すべきである。
 5.現在の臨床心理士の臨床実習ははなはだ貧困である。医療心理師の受験資格に医療現場での2年間の臨床実習を義務付ける。
 6.国家資格となる場合、試験、登録、更新などの委託業者については現在の「臨床心理士認定協会」をそのまま指定することには問題がある。もっと公正中立な新たな組織、機関を考えるべきである。

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反対声明の論点は以下;
1.医療現場における心理職の必要性をチーム医療の観点から強く訴えてきた
2.医師の指示の下に業務を行うことを前提に、その国家資格化については、当協会として協力することを機関決定した
3.「臨床心理士及び医療心理師法案要綱骨子(案)」は、「臨床心理士」及び「医療心理師」を一つの法律に規定しようとするものであり、「医療心理師」の国家資格化を推進してきた当協会としては、容認しがたい点がある
4.法的にも医師法、保助看法との関係も明確なものとして、再考されるべき

修正要求は、すでに項目化されているので、趣旨をまとめたい;
1.名称
2.2つの資格の職域の明確化
3.受験資格のあいまいさ
4.医療現場での2年間の臨床実習の義務化
5.資格認定機関

これらの日精協の主張は、かねてからのものから、保助看法解除を降ろし、修士の資格を認め、いわば大胆な譲歩の上で、立法のために条件を示したものと、ぼくには読み取れます。昨年の議員立法時に、調整が必要だったことは、自明とも思われ、悔やまれます。
しかし河合隼雄文化庁長官らの、いわゆる横断的資格や、医師との連携or指示という関係などの論旨とは、まだ距離のあるものです。

今後、立法の主体としてはどこが動くのか、
各論点は、法の中ではどう具体化されるのか、
それらに当事者はどう関わればいいのか、
今後も注目していく必要があります・・・

ぼくは、多くの国々でそうであるように、既存の社会制度との整合性が取りやすいし、養成も円滑に進むという理由で、心理の資格は分野別であるほうが現実的だと考えています。

とりわけ、経営でも、運営でも、他の保健医療職種との関係でも、医師を頂点とする日本の医事法制は、世界でも大変特殊なものという理由もあります。
この部分との戦いは、利害や既得権などは巨大なので、拙速に進めたら、負けるだけと思います。
横断的という主張の法案が上程されなかったのは、言い換えると、この部分との戦いに敗れたんだと、認識したほうがよいと、ぼくは考えています。

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7 コメント

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はじめまして (チェンラGH)
2006-01-09 23:06:06
はじめまして。

チェンラGHと申します。

日本で心理職に携わっている者です。

このブログを最近見つけて大変興味深く拝見させていただいています。

今日気づいたことなのですが、もしかしたら私は一度先生をお見かけしたことがあるのではないかと思うのです。

2年(弱)程前の3月、カンボジアで・・

名前にしていますチェンラGHで・・

もし人間違いで、ご気分を悪くされるようなことがありましたら、大変申し訳なく思います。

もし先生でしたらと思い、書き込みをさせていただきました。

これからもブログ楽しみにしております。
返信する
追伸 (チェンラGH)
2006-01-09 23:08:47
先ほどブログ内容とは全く関係のない内容を書き込み致しました。

大変申し訳ありません。

どうぞお気を悪くなされませんよう、加えて、お詫び申し上げます。
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Unknown (かりぶ)
2006-01-10 01:19:41
チェンラGHさま



書き込み、ありがとうございます!



2003年11月までの約4年と、2004年3月にはスタッフトレーニングでカンボジアでした。

ぼくはチェンラの和食まがいが好きで、お会いしているかも・・・



よろしくお付き合いください・・・
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お返事ありがとうございます (チェンラGH)
2006-01-10 17:20:43
かりぶさま



やはりそうでしたか。



私は残念ながら先生をお見かけしただけで、声をかけるタイミングを失ってしまい、直接お話をしたことはないのです。



日本でも知人から先生のカンボジア研究についてのお話を少しだけ耳にしておりましたが、まさかこのブログと同じ方だとは思わず、驚いてしまいました。



間もなく日本に帰国されるということなのでしょうか。



今後益々のご活躍を期待しております。



こちらこそどうぞよろしくお願い致します。
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こんばんは (つなで)
2006-01-13 00:16:10
かりぶさん、今年もよろしくお願いします。

>拙速に進めたら負けるだけ

というのは、確かにそうかもしれませんね。

昨年の議員立法時の調整にしても、

医療心理師推進派のほうが、なぜか焦りがありました。



医事法制だけではなく、精神医療のありかたや、

心理学界の組織のさまざまなありかたが、

日本独特のものになっていて、

国家資格化問題には、それらが凝縮して現れてしまっているように思います。



かりぶさんは、今年は、日本に滞在される時間を増やされるのでしょうか。

「地球規模」のお話を、日本で聞ける機会があるといいなと思います。
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Unknown (かりぶ)
2006-01-13 02:46:03
つなでさん



スペイン語特有の「~」文字を認識できないのに、つなでさんのブログに2回も書き込み、失礼しました。



心理職種団体のどこかは、医師団体との調整をしているのでしょうか・・・?

気になります。



今年もよろしく・・・

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水面下だそうですよ (つなで)
2006-01-13 08:00:49
緊急ブログに書いてあったように、

1月8日に臨床心理士会医療領域研修会があって、

1000人ぐらい集まっていました。



その中で、国家資格に関する説明会があって、

「法案は昨年の8月に衆議院解散で止まっている。

その後の動きは水面下である。」

とのことでした。



医師団体との調整が必要であるとは、

もちろん考えておられるでしょう。

現実にどこまで進んでいるかは、

私たちには聞こえてこないですね。



ご存知のように、日精協は独自に検討を始めていますね。

そちらも大変気になるところです。

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