心理学オヤジの、アサでもヒルでもヨルダン日誌 (ヒマラヤ日誌、改め)

開発途上国で生きる人々や被災した人々に真に役立つ支援と愉快なエコライフに渾身投入と息抜きとを繰り返す独立開業心理士のメモ

ネパールのしょうがい児者とケアの状況から学ぶ(1)

2007-01-09 19:30:23 | 国際協力・保健/リハ/心理学分野
まず、
2004年7月JICA-NGOディスク学びの会報告書より

報告者は、Surya Bhakta Prajapati氏;ネパールのNGO「Resource Center for Rehabilitation & Development (RCRD)」の代表。
1985 年に設立された地域社会内での障害者リハビリテーション運動を推進
するネパールのNGO「CBR Organization Bhaktapur」で18年の活動経験がある。

1.「障害を持った人(PWD: person with disability)」の定義
ネパールの法律では、「身体的・視覚的・聴覚的・言語的障害、精神的障害・精神病のために日常的活動を行うことが出来ない者」と規定。
しかし2001 年にWHO が設定した定義は「身体機能または構造に著しい逸脱もしくは損失がある者、または行動や参加に制限がある者」。この定義によれば、血液循環や生殖機能に問題のある者も「障害を持った人」。

2.ネパールの障害者の現状
(障害者人口)
調査 全人口に対する障害者人口の割合
1981 年にネパール政府が実施したサンプル調査 3% WHOの途上国全般における推定値 7〜10%
ネパール政府の基礎初等教育事業(BPEP)の調査 4.5%
2001年にユニセフの支援で国家計画委員会(NPC)が実施した調査 1.63%

例えばアメリカやカナダでの障害者の割合は、人口の12〜15% とされています。これは医療の発達で障害者が長生きできるとか、障害者の定義が広いという理由もある。
反対にネパールでは、障害者の定義が狭いという理由の他、障害を持った子どもが長く生きられない、家族が障害者を外部者の目から隠す、ということも障害者の割合が低い理由といえる。

障害のタイプ 割合
聴覚言語障害者人口 38.5%
身体的障害者人口 34.3%
精神病、てんかん 15.7%
知的障害 5.9%
視覚障害者人口 5.6%
障害者人口 100%
障害の原因 割合
病気によるもの 53.6%
生まれつき 28.9%
事故によるもの 17.6%
障害者人口 100%
(2001年調査結果より)

(障害者と権利)
【生存権】
! 障害者の15.3%しか保健施設を訪問していない。
! 障害児の死亡率は、健常者の4倍(DFIDの途上国調査より)。
! 1,240 名のうち39人しか補助具を供与されていない。
【保護権】
! 家族、地域、組織における差別
! 80%以上が地域社会の社会的会合(結婚式、宗教儀式などを含む)に参加していない。
! 障害をもつ女性の63.7%が結婚は困難と考えている。
【発達権】
! 障害者の68.2%がまったく教育を受けていない。女性障害者では77.7%。
! 14歳以上の障害者人口のうち、何らかの職業的技術を取得している人口は2.9%。77.8%は何ら職を持たず生活を全面的に家族に頼っている。
【参加権】
! 14歳以上の障害者人口のうち、何らかの組織の会員である人口は0.44%。

(ネパールの障害者が抱える主要問題)
! 障害者に対する健常者の意識が低く、偏見がある。間違った因習を信じている。
ある調査によれば、被調査者の50%以上が、障害の原因を前世で犯した罪のため、
神の定め、または他者による呪いのせいだと答えた。
! 障害者問題が、開発事業の主流で議論されていない。
政府関係機関やNGO などがあらゆる分野で多彩な活動を行っているが、それら
の対象者から障害者は排除されている。政治家や開発事業の実践者に障害者がほ
とんどおらず、障害者の声が反映されていない。
! 適切な情報や知識、技術が不足している。
ネパールの障害者に関する情報、調査や出版物が圧倒的に少ない。障害者のため
に働ける技術者の数も少ない。村人は、どこで情報が入手できるのか知らない。
! 適切な政策、戦略、資源が不足している。
障害者に関する法律は存在するが、脆弱でほとんど機能していない。またその存
在すら周知されていない。

3.ネパール政府の政策と事業
障害者関連法規 発布年
障害者保護福祉法 1982、1994
ネパール王国憲法 1990
児童法 1991
教育規則 1992
特別教育政策 1996
地方自治法 1999
障害者サービスに関する国家行動計画 2003

政府からのサ-ビスを受けるためには、障害者は村レベルと郡レベルで登録する必要がある。障害者は保健サービスや教育を無料で受けられる。一定規模以上の企業では、従業員枠の5%は障害者に割り当てなければなりません。障害者が補助具を輸入する場合には、その輸入税は控除される。旅費や交通費には50%の割引がある。
しかし、問題はこれらのことが周知されておらず、また省庁毎に政策が異なる。

障害者へのサービスを実施する政府機関として、以下のものがあります。

(1) 女性児童社会福祉省
障害者へのサービス提供を担う最大の実施機関で、障害者事業に関する政策策定、コーディネーション、実施、モニタリング、評価を行い、年間予算は約600 万ルピー(約900 万円)。NGO に対しても10 万〜20 万ルピー程度の少額助成を行い、村落レベルでの障害者関連活動を支援。80〜100 万ルピーは障害者への補助具支援に割り当てられ、補助具の生産・配布をネパールの5県(region)で行っている。毎年100 名の障害者に対して職業訓練。最近ではCBR(Community Based Rehabilitation)のための少額助成も始めており、1郡あたり6〜8VDCを対象に、全部で10郡に支援。関連省庁、NGO、自助団体など23 名のメンバーからなる国家障害者サービス連携委員会が結成されている。

(2) 教育省
ここでは障害をもつ子どもに対する特別教育プログラムを直接実施しているほか、これらのプログラムを実施するNGOに少額助成金を出している。58郡において特別教育資源教室を開催しており、ここでは障害をもつ子どもが寄宿舎に滞在し初等教育を受けられる。身体的障害をもつ子どもには奨学金制度もある。
4つの郡の12校では「(統合)包含的教育(inclusive education)」がパイロット事業として実施。包含的教育というのは、障害をもつ子どもやアウトカーストの子ども、女子、貧困層の子どもなどが、通常の学校・学級で同じ教育を受けること。そのためには、教職員や事務スタッフ全員が訓練を受ける。この包含的教育の学校は、5年以内に500 校に拡大することを目標。
このほか、郡レベルでの啓発プログラム、調査、教師研修、評価センター設立、特別オリンピックや文化的活動、補助具の配布などを行うことになっている。

(3) 保健省
この省では、障害を持たないよう予防に重点をおいた政策を採っている。例えば、ポリオワクチンやビタミンA配布事業、ヨード欠乏症改善事業など。
障害の度合いを軽減するために、手術の実施や薬品配布も支援。県立病院(Regional Hospital)には障害者に対応できる医師が常駐することになっていますが、実際にはどれだけ機能しているのか把握されていない。

(4) 内務省
内務省では、郡行政長官(CDO)を通して障害者ID カードを配布しており、これまでに15,000人に配布。郡行政長官は郡レベルでの社会福祉の最高責任者だが、実際には社会福祉で彼らが果たしている役割は低い。

(5) 地方開発省
地方自治法の発布により、すべての村役場(VDC)、市役所、郡開発委員会(DDC)は、地域の障害者数を把握し、予算を配分し、社会福祉サービスを提供する役割がある。障害者には、毎月障害者手当て(Rs.175?)が支給。この障害者手当ては郡毎に予算配分が決まっており、予算額に応じて各VDC に配布される人数が確定する。それは全ての障害者をカバーするには不足するため、VDCの推薦を受けた人にのみ支給される。この障害者手当ては、先に説明した障害者ID カード配布よりも先に設立された制度なので、今までは受給にカードの提示は不要でしたが、今後は必要となってくるでしょう。

4.NGOによる事業
(自助組織)
現在ネパールには、障害者の自助団体が150以上。
それぞれ啓発や政策提言、リーダーシップ開発に取り組んでいる。
(非障害者による支援組織)
障害者のための事業を実施している団体は200 以上あり、予防・治療、リハビリテーション活動を行っている。

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この報告以外に、
JICAは、country profile on PWDs Nepal において、数字や具体的な団体名などを挙げて、把握した現状を示しています。



Murai P. Regmi 1994, The Himalayan Mind

2007-01-09 17:31:54 | 
Murai P. Regmi 1994, The Himalayan Mind - A Nepalese Investigation, NIrala Publications, Jaipur , India

先の南アジア精神医学会議で知り合った、現在トリブバン大学心理学科教授の10年前の、ベルリン自由大学所属時代の著書です。
人格理論、組織行動、心理学研究法が、専門のようです。

セルフ・エスティームと、その通文化的な比較、ネパールでの心理学の歴史、学習プロセスなどのテーマについて、香港大学のDavid Watkins らなどと共同の、実証的な研究が内容です。

日本の研究では、福田1957、1959「児童の樹木画の発達研究」心研から、スコアリング方法が引用されています。
日本語による論文でも、英文による図表の説明や、英文要約って、生きるときがあるんだなあと、感慨を持ちました・・・